3-34 暇と?と訓練と
冬の上月も終盤。
何時もの様に木板から紙への転写作業をするため棚を物色していると、
「ん、何だあれ」
板と棚板との間に何かよく分からんものを見つけた。大きさはビー玉ぐらいで地面に落とした団子みたいにちょっと潰れた球形のものだ。
載っている板ごと引き抜いて光の近くに持って行くと、
「うーん、こんなの買ったっけ?」
よく見てもやはり見覚えはない。半透明で触ってみるとプニプニしていた。
部屋に居る2人にも聞いてみるか。
「2人ともこれに見覚えない?」
勉強をしていた2人に件のものを見せると、
「何それー」
「知らなーい」
2人も見覚えは無いようだ。
「棚の所にあってね、ボクもこれには見覚え無くて2人に聞いたんだ」
うーん、もしかしたらゼラチンの様な接着剤のなれの果てだろうか。でもなんであんなところに。
プニプニ
触り心地良いな。硬さは蕨餅位かな?そして白っぽい半透明がまた蕨餅っぽい。
うーん、考え出すと久々に食べたいなぁ、蕨粉探してみるか?いや、馬鈴薯デンプンやコーンスターチの代替品で十分かな?
何やら脱線したが、大事なものとかでは無さそうなので、触り心地を一頻楽しんでから捨てた。
うーん、本当にどうやってあんなところに入ってたんだろう?
数日が経ち、唐突に始まる雪合戦も2桁に突入した今日。本当に今年暇なんだよなぁ。
最近雪合戦では片腕に盾を付けて防御有りで行われるようになった。
参加人数が増えて来ると今日もあの男の子、トーマがやって来た。初めの数回は姉同伴で来ていたがここ数回は1人で来る様になり、スムーズに雪合戦に交じれるようになった。それに伴い井戸の所で会えば話すことも少し増えた。
本日の雪合戦も終わり、辺りを軽く除雪してから武術の自主練を始めた。
雪合戦で適度に体は温まっているので丁度いい。
兵士の戦闘において大事なことは時間稼ぎと継戦能力だ。
基本的に個々人でことに当たる必要はなく、攻めなら味方が敵を囲う時間を、守りなら膠着状態か反撃準備の時間を稼ぐ事が重要だ。
そのため兵士の武術は守りに重きをおいた立ち回りの流派が採用されている。
父の受け売りだ。
確かに父が言う事も分かるが、だが俺は兵士になる予定も理由もない。
ゆえに槍術をベースにアレンジを加えたいと考えている。
兵士の槍術には魔術は登場しない純粋武術だ。方向性の違いから器用貧乏になる事とチームワークの普遍性に難がでるためだと思われる。
目指せ、魔術槍士!をスローガンに型と魔術の融合実験の検証中だ。
冬の終わりまでに方向性の決定だけでもできたら十分だろう。
冬の下月に突入し、訓練と検証以外があまりにも暇でカマクラを作ることにした。
「ふっふーんふっふーん」
鼻歌交じりに除雪してできた雪の山に横穴を掘っていると、
「兄ちゃん、何してるの」
リュートに見つかってしまった。
完成後呼ぶつもりで、家から見えない位置で掘っていたのに無駄骨になってしまった。
見つかったからもうバラすしかないだろ。
「雪洞作りかな」
「僕も手伝うー」
「うーん、リュートに出来るかなぁ」
「えー、穴掘るだけじゃん」
「・・言うではないか。はい」
リュートに穴を掘っていた道具を渡し、後から見ていることにした。
「さぁ、お手並み拝見」
カンッ・・・・・・カンカン
道具が弾かれる音が辺りに響く。
「兄ちゃ~ん」
「どうした弟よ」
「かたい」
「うん、知ってる」
そうなのだ。この山は雪と言うより氷で出来てる山で、まともに掘ることは出来ない程かたい。道具がわるいのも一因だが。
「リュート、見ていてね」
リュートから道具を受け取ると、道具に魔術を掛けて雪に触ると、
ジュッっと道具の先から沸騰音が聞こえた。
そう、俺は掘っていたというより熱で溶断して横穴を空けていたのだ。まぁこれはパフォーマンスでここまで露骨な温度にはしていなかったが。
リュートがこれを見て何か思い付いたのか家へ帰って行った。さて、何をしに行ったのかな?
さらに掘り進めているとリュートが戻って来た。手には何本かの棒を持ってきていた。
「兄ちゃん、これ刺して」
言われるがまま掘っている穴にこれまた棒に魔術を掛け、温度を上げながら刺し込んだ。
ふむ、何をするのかな?
リュートが小声で何やら魔術を発動した。
すると棒が刺し込んだ穴から下へ移動していった。
「・・・なるほど。魔力は大丈夫?」
リュートが考えた方法はどうやら魔術で刺し込んだ棒の温度を上げ、その熱で氷を溶かしながらも自重で下へ移動する方法だった。
これなら俺の方式の様に体を動かしながら魔術を発動する必要はなく、難度を抑えられる。棒もトンカチで叩き込めば1人でも運用可能だ。ただ消費魔力は変わらないし、縦にしか切れないが。
「・・・あと2回かな」
考えるそぶりをしてそう答えた。
・・・ふむ、自己診断が正確だな。リュートはまだ魔力量が少ないが魔術的感覚に優れてるな。
1日かけ洞と全体の整え終え、一夜放置してカマクラは完成した。
ちなみに、正確には雪洞だ。
完成したカマクラはレンガを中央に配置し、詰めれば4人ほど座れる空間に仕上がった。
カマクラを作り終えると食材の用意だ。
「ママー、食材ちょーだい」
交渉なんてあったもんじゃない。
「・・何に使うの?」
「野外訓練のため雪洞掘ったんだ。だからいっその事外で料理もと思ってね」
カマクラと言えばもちろん食事だろ。
だがバカ正直に言えば絶対に食材は手に入らない。こっちではそう言う文化は無く、外側を更に藁などで囲って食材を入れる野外雪室としてや、野営、緊急避難所としての利用法が一般的だ。
父も新兵の頃訓練でやったそうだし、訓練と言い張れば勝率は低くはないと思う。
「何時の間にそんなの作ったの?」
「昨日リュートと一緒に庭に作った」
「・・・ちょっとだけよ」
食材を手に入れた。
それと父から十分耐えうる雪洞か見てもらって、と言われ父を伴って庭に出て、穴側に回り込んだ。
「ここー」
父は雪洞を1周回ったり、中へ入り壁を確かめ出てきた。
「あまり見慣れない形の雪洞だが問題なく使えそうだな」
イメージは前世のカマクラだからこっちとは様式が違うのだろう。
ともかく父にお墨付きをもらい、調理に取り掛かった。
まぁ乾燥ものを戻したり、蒸したりしただけだが。
それと、今日のメニューはフォンデュ鍋に決定した。フォンデュ鍋と言えばチーズやチョコレート、オイルが有名だが、別にスープ側は何でも良く、こっちの一般的なスープを手早く用意し、串も用意して下準備を終えた。
使った水はもちろん井戸水だ。そこまで本格的な事をするつもりは毛頭ない。
日もいい具合に落ちてきて夕闇の中、魔術でうっすらとした光源を確保して、鍋にも魔術を掛けスープを温め直し始めた。
呼んだリュートやフェリももうすぐ来る頃だろう。
「兄ちゃん、来たよー」
プチパーティーの始まりだ。ん?野外訓練だったか?




