3-33 冬と暇と隣人と
冬の上月に突入し早々に初雪を観測した。
冬籠りの準備は余裕をもって終わらせていて助かった。
そして俺はと言うと机に向かって書き物をしていた。
はっきり言おう、今冬はやれることがほとんどなく暇なのだ。
例えば筵織り、藁は襲撃の影響で全て焼却処分した。糞めぇ。
例えば布織り、付加価値をつける染料用の作物が全滅したことにより、母のやる気が減退、今年は少量しかワタを用意していない。
こんな状況だ。
書き物は今までに数えきれないほど書いた木板の情報を紙に写す作業をしている。これで情報を木板に比べ数十倍の密度に記載できるので保管スペースもぐっと減らせる。
木板は最終的には薪に変換されるので無駄も無い。薪は用意した分で足りると思うが、もしもの時だ。
「お兄ちゃん、これ教えて」
机に向かって作業をしているとフェリが質問してきた。
書き物と並行して2人への授業も行っている。
2人への授業は農繁期や他の訓練などで進捗速度はずいぶん遅い。この都市で暮らす最低限の範囲はとっくに終わらせているが、21世紀を生きた俺の授業範囲がそんなところで終わらせるわけにはいかない。と、今はこの国の文字を教えている。
「これは、・・・・・」
質問を受けつつも時間はまったりと進んでいった。
「ウィル、中1おねがい」
書き物を続けていると母から指令が下った。
中1というのはサウナ用の石中規模の塊1番と言う意味で、それを温め直せって指令だ。中1はダイニングに置かれているメイン暖房で、小規模の塊何番とかは俺以外が担当している。
今冬はそう言う運用方法にしているのだ。
冬になる前に何度か練習した結果、魔力だけで家全体を暖めるのは出来たがぎりぎりだった。そのため居る事が多い部屋を常時暖め、ダイニングや台所などはその都度暖めることにして魔力を節約する方法を取っている。
特に今日はノー燃料デーなので寝る時以外は全て魔術で代用する予定である。照明用は別だ。
「はーい」
ダイニングに出てると、ひんやりとした空気が肌を刺す。
暗く寒い中俺は中1に魔術を掛けてダイニングを暖めだした。
魔術を発動し部屋に戻りを時間を空けて数回繰り返し、部屋が暖まって来たところで、母に完遂の報告をして、母が夕食の準備を始めた。
これが最近の日常サイクルだ。
雪ですっかり陸の孤島となって数日、井戸への道の除雪作業をしていると、
「てやっ!」
こちらに向かって雪玉を投げて来る不届き者が出現した。
言うまでもなくヨークだが。
うちが暇なように他の家庭も今年は冬仕事が減って暇なのだ。特に仕事も無いのに遊びたい盛りの少年に家に居ろっと言うのは土台無理な話だ。
「いたっ」
別に痛くはないが様式美だ。
俺に雪玉を当てて楽しんでるヨークに向かって、
「こんのぉ、暇人めがぁ」
こっちも雪玉をこさえて反撃した。うん、俺も基本暇人なのだ。
唐突に始まった雪合戦はリュート、フェリ、ユルトも交じり次第に規模が増していった。
雪合戦も途中、ふと横を向くとこちらを見ている子どもがいた。
ただ|某RPGの『なかまに なりたそうに こちらをみている○』《普段と違いが分からん》ばりの表情をしているヨーク位の女の子で、避難してきた家庭の子どもの1人だ。
その子と目が合うと、何やらハッとして走り去って行った。
・・・?、彼女は一体何がしたかったんだろう?
避難してきた家庭との交流はあまりなく、せいぜい井戸の所で挨拶するくらいだ。彼らにとってここは仮住居で、家屋群内の話し合いでは見通しが立ち次第ここを去るって話でそう何年もここに居るわけではない。
彼らも畑を所有してるので雪が溶け始め次第動き始めるだろうな。
数日が経ち、俺は部屋の中であることについて検証をしていた。
検証内容は他者の魔力を感知出来るか否かだ。
事はサウナ用の石が用意されて最初の暖房性能を測る実験の時、最初は大規模の塊で運用される予定だった。
俺が大規模の塊に魔術を掛けて暖めたとき、近くで見ていたリュートが、変な感じがする、と言った事が原因だ。
近くで見ていた他の者は疑問顔で、冬籠りの準備に追われていたため俺もそのことを流していたが、冬になり暇になるとふと、その時リュートが、確かに感じた、と意固地になっていたのを思い出したのだ。
リュートが意固地になることはそんなに珍しい事ではないが、俺の探究心に火が付いたと言うわけだ。
自分の魔力については感知どころか操作すら可能だが、実は他者の魔力も感知可能なのではないかという疑問だ。もしかしたら操作すら可能かもしれん。事実魔力操作ではなく魔術ならば他物体に干渉、影響を与えることが可能だ。その燃料である魔力が他物体に干渉、影響を与える可能性もあるのではとだ。
検証方法はリュートが違和感を感じた状況を再現、つまり誰かが魔術、今冬ならサウナ用の石に魔術を掛けるときに違和感を感じるかどうかはかる方法だ。
実は大量に魔力を消費する魔術じゃないと微弱すぎて分からない、と言う可能性もあるが、家族の魔力量は俺に遠く及ばず仕方がない。
子ども部屋に置いてある訓練用のサウナ用の石の塊、これの前に陣取り、リュートかフェリが魔術を掛けたときに魔力を感知できるか検証を重ねた。
まぁ魔力ではない可能性もあるが。
!
!!
ふむ、分からん。
気長にやるか。
更に数日が経ち、
「てやっ!」
「こんのぉ、暇人めがぁー」
今冬数日おきに行われる唐突な雪合戦が始まった。・・・3回目だったかな。
また参加人数が増えだした時のこと、
「あのっ!」
声を掛けられ、声の主の方に顔を向けると、そこにはこの前居た女の子とその女の子と手を繋いでいるリュートやフェリ位の男の子が居た。
今日はまだユルトが参戦してないので、最年長の俺が対応することにした。
「ええっと何かな?」
「この子のことよろしくお願いしますっ!!」
女の子がそう言うと、手を繋いでいた男の子をこちらに差し出してきた。
その後女の子は脱兎の如く去って行った。彼女は人見知りか?
残された男の子の方も何やら逃げ腰だ。
・・・こっちもか。
「やぁ、こんにちは」
「こ、こんにちは。ぼぼ、ぼ僕はトーマと言います、よろしくお願いします」
あがり症か?そして相変わらず目的について何も言わない。
「これはどうも。・・はい」
多分状況的に雪合戦に交ぜろってことだと思うけど、と持っていた雪玉を渡し、ヨークを指差して、
「総員、こうげきー!」
俺の合図と共にリュートが油断していたヨーク目掛けて攻撃したのを皮切りに雪合戦が再開された。
「うそっ!、ヒキョーだぞウィル~」
ヨークが何かほざいてるが聞こえんな~。
まだ雪玉を渡した少年は参加してないが、人見知りなどは時間しか解決手段がない。参加を強要せず、いつの間にか参加してたってぐらいが良い塩梅だ。
まっ、つまりそのうち何とかなるさ。




