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ボクの異世界侵略記  作者: チカさん
第2章 少年期編
39/93

2-17 品評会

 最後の授業も終わって数日、今日はいよいよお披露目が目前に迫った作品の製作をしている。名称は揚水風車とした。


えっ、賭け事はどうなったって?

そんなの端末を置いてない俺が顛末を知ってるわけないだろ。



 揚水風車の試作1号は失敗した。


原因は風車サイズに対してポンプのサイズが大きすぎたことだ。単体ではそれぞれ動作したし、連結後も動作したが汲み上げるほどではなかった。

もちろんいろいろ調整したりしたが結局、気密性とストローク速度の点で調整が難航した。

強度を度外視すれば理論上、風速が速くなればできそうだがお披露目の場、つまり室内で出していい風速ではないので作り直している。


ポンプはもう作りたくないので風車側を作り直している。試作1号の部品を流用できるところは流用してるが、翼と軸は最低限変えないといけないし、元々の台座の高さより翼の長さが大きくなったため机の上に設置してお披露目する予定に変更した。今回は時間が足りないため仕方なくだ。

ライルとあんな約束をしなければよかった。


それを置いといて、元々の原因は風車を基準に製作し始めたことだ。工作難度的にポンプのピストン部品の大きさを数センチ以下の大きさにできないことに気付いたのが、風車を作り終えてポンプに取り掛かった段階だった。そのつけがここにきたってわけだ。

まあこれは事実を確認しただけで、反省も後悔も大してしてないんだけどな。




「ふー終わった」

完成した風車は試作1号時の2倍の大きさの翼にした。急造品のため粗が見受けられるが実験に支障はないだろう。


時間も余り残ってないため早速実験だ。

新たにできた風車とポンプを連結し、桶に水を張ってポンプの吸水口を水中へいれ、放水された水を受ける桶も呼び水用の水も用意して準備完了。


風車に手を向けて送風の魔術を発動。風車が回り始め、連結してるポンプ側も動き出した。

風を送りつつ、呼び水を注いでいると、排水口から呼び水とは違う量の水が出始めた。


♪~

「これは成功かなー」



桶の水が減って排水できなくなったため実験を終了した。


長時間使用すると不具合が出るかもしれないが売り物でもないし、耐久試験をする時間もないしで、お披露目くらいならいなら大丈夫と思うことにした。



一応この揚水風車は隠れて作っている。もちろん家族や数人は何かを作ってるのは知ってるが組み立てる前からコソコソ作ってるため詳細を知っている者はいない。

普段から作品には布を掛けて隠している。ラックはわざわざ隠してる物を白日のもとへ晒すようなことはしないし、幼児2人にはさらに衝立で仕切りをすれば十分だ。もう少し大きくなってやんちゃさんになったら分からないが。

あとは暇ができたときにちょくちょく体裁を整えたらいいからと、今日のところは完成品に布を掛けて作業を終了した。







 春市の出品物のお披露目の日がやってきた。

俺の作品は持ち運びにくい形をしているためラックに手伝ってもらっている。今回はライルの作品と同時にお披露目と言う事で布を掛けたまま運んでいる。ラックには運ぶ前に1度見せたが、何だこりゃ、また変なの作ったなーって顔してた。



「おっ、去年も似たような構図を見た気がするな」

1階に降りると一足先に作品を置いて待機していたライルがいた。あちらの作品も布がかけられているが、フォルムを見るに四角くそこそこの大きさだ。さて中身は何だろうな?


「そうだな。去年の俺も運ぶの手伝ってた気がする」

俺達とライルが世間話をしつつ作品を並べると、


「じゃあ早速、お披露目を始めようか」

俺が宣言をしたが、


「いやいや、待てよウィル。まだ来たばっかりだろ、もうちょっと待ってからでも充分だろ」

「別にかまわないけど、ボクの方は売り物にする予定はないからあんまり置いててもほかの人の邪魔になるだろ」

大きさだけなら去年のフーホー粉砕装置1号を上回っている。


「こんなに広いんだ別に邪魔にはならんだろう」

「確かにそうだよな。邪魔にはならんだろう」

ライルの言葉にラックが賛同した。

まぁ言われてみれば1階はかなり広いから通路付近から離れればいいかな。


「まぁ言われてみればそうだね。でもここ通り道に近いからちょっと壁によろうよ」

「・・・・まぁそれくらいならいいか」

うん?なんか不自然な対応だな。


移動の了承を取ったので動かそうとしたとき、


「ちょーーーとまったーーーーーー」

こ、この声は、

声のした方を向くとこっちへ走ってやってきている女の子、名をナタリーという。がきた。


「あんたたちーーどうこへいこうっていうのーーー、今日の会場はここでしょ」

・・・一体何言ってるんだ?会場?

「いやー待ってたよナタリー。ちょっとだけ壁の方に移動しようとしただけで別にそんな・・・


「だーっまらっしゃい。会場はここって私言ったよね。ライルにはきっちり言ったよね。ね。」

「いやーはははは」

「まあいいわ。それで今日の勝負はライルとウィルの品評会ってことでいいのよね」

なっ、ナンダッテ――。


実はナタリーが来たあたりで察しがついた。ナタリーのこと俺はスピーカーって呼んでいる。もちろん心の中で。

コソコソとか、こじんまりとしたとか、ないないにとかの中に飛び込みそれを白日のもとへ晒し、出来事を大きくする厄介なやつで見てる分には楽しいが、被害者になったら大変面倒なことになる。つまり、


「ライル君、ねーライル君。これが終わったらちょっと舞台裏まで来てもらってもいいかな?」

「どーしたんだうぃる、なんか目が笑ってるんだけど。それに舞台裏ってここは別に舞台ってわけじゃないだろ」

「そう?じゃあ屋上でも倉庫でもどこでもいいよ。・・・あとでね」


「ちょっとーーなにこそこそしてるのよ。それより始めるけど準備もういい。いいわよね」


人の話聞かないからここでどんなアクションをとっても未来に変更はない。それを俺は既に知っている。



「よってらっしゃいみてらっしゃい。男と男の意地と名誉を賭けた勝負がここにたんじょーしたーー。

どちらの者がより多くの賛辞が贈られる物を作ったか競うたたかいだーーーさぁーひまじんどもーあつまりやがれぇーーーー」

この声に暇人どもが続々と集まってきた。暇人の自覚がある暇人とはすばらしいな。

暇人の内訳は大体子どもで元生徒が多数を占める。製作者2人も実況者1人も全員10歳未満の子どもだから、集まるのもそのあたりがメインだ。


「さぁこのたたかいに臨む2人をご紹介しましょう。

かたやミットルテ穀物店に勤める若きえいさい、ラ~~イル~。

かたや我らがせんせーたる幼ききさい、ウィ~~ル~」

へーライルって英才なんだ。ふーん。


「ここで2人にこの勝負へかける意気込みを聞いてみたいと思います。まずはライル選手一言おねがいします」


「今日こそウィルに目にものみせてやります」


ほっほう。

ライル俺のことそんな目で見てたんだ。へー、ほーー。まああとで舞台裏と屋上と倉庫でおはなしすれば十分か。何か誤解があるんだろう。


「ありがとうございました。ライル選手やる気ばっちりなようです。

では次にウィル選手一言おねがいします」


元々こじんまりとお披露目するつもりだったが、仕方ないな。

「こほん。・・ゆっくりして○ってね」


「おーっとウィル選手、ライル選手の発言をものともせず我が道をゆくーー」



「では品評を開始します。トレミーおねがい」

ナタリーの妹トレミー登場。そして暇人どもに木の札を配り始めた。


「さぁーてお手元のそれは2人の作品のよりすごいと思った方に投票してください」



「では2人の作品をごらんあーーれーーー」

ナタリーはライルの、トレミーは俺の作品の布を取り去った。


「「「わぁあーーーーー」」」「「「わぁーーあーー???」」」


俺とライルの作品を見た観客の歓声が響く。


「まずはライル選手の方はどうやらタンスのようです」

ライルの作品は細かく分類すると整理タンスとかチェストとか言われるものだった。背が低くて横長で、表面には塗装が施されなかなか趣のある風貌をしていた。


「これは素人目ではありますが、なかなかの一品に見えます」


「そして次にウィル選手の作品ですがーーー?ーー?ー?な、な、なんか変わった物です」

ナタリーは俺の作品を見て、もう一回見て、さらにもう一回見てどうにかその言葉を絞り出した。

「ウィル選手こちらは何ですか?」

「おや、分かりませんか?なるほどナタリーさんは審美眼も素人なら実況者の腕も素人さんでしたか。予習もしないなんて減点対象ですね」


「言いますねーウィル選手。だけど私はもうあなたの生徒ではありませーん」

「なるほど、覚えておきましょう」

「で、これは何ですかせんせー?」

ここでこう来るかなかなか分かってるなナタリーよ。


()生徒の最後の願いなら聞かないとね。これは揚水風車です」

「ようすいふうしゃ?」

「ええ。とりあえずお披露目は終わりましたので、進行してくださいナタリーさん」


「わっかりましたーー。それではまずはどちらが印象に残ったか投票してください。ほら、ウィル(あに)も手伝って」

ウィル兄ことラックが俺の方の投票箱、トレミーがライルの方の投票箱となり、投票されていく。

投票者は1人2票持っていてまずは見た目対決で1票。続けて仕様、強みなどの紹介ののち最終投票が行われて合計得票数が多い方が勝利となる、ここではオーソドックスな投票形式の1つだ。

もちろんテキトーに言っている。大人連中がしてるのを見ただけだからここのアパートメントのローカルルールかもしれない。


「投票も終わりましたね。私の見た感じではライル選手の方が優勢でしょうか。ウィル選手の作品は中々奇抜な形ですので投票者も判断がつかないのでしょうか」



「それではまずライル選手からこのタンスについてのご紹介をお願いします」

「このタンスは・・・・



ライルのタンスは中々考えられたタンスだった。本体は普通に趣のあるタンスだったがギミックがついていた。そのギミックの正体は台で、普段はタンスの上に帽子のように被せられて収納されているが、使用時には取り外してそのまま台として使用できるようだ。しかもタンスと同じ高さになるよう調整されている細やかな気遣いを感じさせる計らいだ。

惜しむらくは観客の層が子どもがメインで、あとは酔っ払い連中だ。奥様方なら高得点だと思う。



「・・・以上です」


「ありがとうございましたー。これは本当に力作のもようです。私の家にも1台欲しいですねー」


「それでは、次にウィル選手、ご紹介お願いします」


「はい。こちらの揚水風車についてご紹介させていただきます。こちら・・・



桶やコップの水は降ろして来る前に既に入れてあり、準備はできている。

ちぇっ、運ぶときにラックが濡れるのを楽しみにしてたのに。


「では実際に行ってみましょう」


風車の前に立ち手をかざして、


「cma jsomrose nsikkoaedtte mev」


送風の魔術を発動し風車が回りだした。


「「「回ったー!」」」

子ども組は回るだけで十分なのか?オモチャ化はできるだろうか?

魔術を維持しながらコップの水をポンプに注いでいると、


「「「わーーー」」」


「おい、本当に水が出てるぞ」

「そりゃあれは水を入れてるから当たり前だろ」

「ばっかお前、どう見ても入れた水より多い量が出てるだろ」

「・・・確かにそうだな。一体どういうことなんだ」


「せんせーすげー」



桶の水が無くなったようで水を放出しなくなったので、

「と、こんな感じで風を使って水を放出します。以上でご紹介を終わりにさせていただきます」

俺はナタリーに目配せをした。


「ありがとうございました。ななななーんとーウィル選手すごい道具を作ってしまったようです。ただただウィル選手の発想に脱帽です。で、ウィル選手これはどういうことですか」


「だからさっき説明しただろ、この中に水を張った桶が入っていて風の力でその水を吸い上げて放水してるんだ。ナタリーさん進行進行」



「・・・そうですね。気にはなりますが2人の作品のご紹介が終わりましたので投票を始めます。

勝つのはライル選手か、はたまたウィル選手かーー」

投票を開始された。


子ども組は俺の方が圧倒的に多かったがある程度の年齢からライルの作品とばらけだした。

子どもは面白い方に入れてるだろうがライルの作品は実用性が高いからな中々迷ってる者も多い。方向性も違うしな。だが作品がミニチュアじゃなければさらなる大差で勝てたと思っている。それにまだ舞台裏と屋上と倉庫でライルとおはなしすることを俺は忘れてないぞ。



「投票を締め切りまーす。集計しますのでしばらくお待ちください」






「集計が終わりましたので結果を発表させていただきまーす」


「今回、この戦いを勝ち抜いた勝者はーーー・・・・ウィル選手でーーす」

ふう。かいてもない汗をとりあえずぬぐって、


「いやー、うれしいね。ボクの先進性が認められたってことかな」



「2人ともおつかれさまでしたー。観客の皆様もご協力ありがとうございました。では本日の実況はこの私ナタリーがおおくりしましたーー。次回の開催も楽しみにしておいてくださいね」

この宣言を最後に品評会が閉会した。


終わった終わった。何とかライルには勝てたようだな。元々勝負をする気なんてなかったがやるからには勝ちたいものだ。

観客も帰る者や、俺やライルの周りに群がる者がいたりと対応が大変だ。

曰く、

「せんせーおめでとー」

とか、

「あれボクにも作って」

があちこちから聞こえてくる。



 しばらくみんなの相手をしていると、

「ウィル、ライルがきたぞ」

ラックの声にライルの方を見ると、あっちに集まった人との話が終わったらしいライルがこっちへやってきた。俺も周りの子を落ち着かせてライルと相対した。


「お前には負けたぜ。やっぱりお前はスゲーやつだな」

ふむ、こっち系か。何を言ってくるか少し気になってたが。


「いやいやライルのタンスこそ凄いよ。今回は集まった人の関係でこっちが有利だったけど、奥様方多かったら間違いなくいい勝負だったと思うよ」

「そうか?それでもお前が勝ったと思うけどな」



「それでこれはどういう仕組みで水が出てるんだ。もう詳しく説明してくれてもいいだろう?」

他にも興味がある連中がこちらを見ている。


「じゃああれを今から解体しようか」


多分みんなが説明を聞いてもよく分からなかったのはカバーのせいで中の構造が見えなかったからだと思う。一応の完成をみてからいろいろ体裁を整えたときのこと、偶然が重なり意外と時間を取ることができたので台座部分を新調したり、この装置は基本的に外で使うはずだからと大部分をカバーで覆い、外観が風車小屋みたいに箱に羽根車がついてる見た目となった。

それが分かりにくさを助長したのだろう。


カバーを取り外して中身を見せると、

「中ってこうなってたのか、ちょっと動かしていいか?」

「いいよ」

俺の了承を聞くと風車の翼を持って回し始めた。


「なるほどこれが回ることでその部分が上下するのか。これだけで水が上がってくるもんなのか?」

「もちろん?」

「ん?どういうことだ」

「この部分に少し細工はしてるけど基本はこの部分が上下するだけだから」

風車部とポンプ部の連結を外し、ピストン部品を見せる。

「これが大事な部品かな」

「これが・・・穴と何かの革と薄い板がついてるだけのように見えるんだが」

「その通りだよ。これが上下するだけで水を吸い上げることができるのさ、仕組みは簡単だろ」

「あぁ、これでいいなら俺でも作れそうだ」



「それでウィル、聞きたいんだが」

「なに?」

「これを作った目的って何なんだ?前はオモチャなんて言ってたが、そんなちゃちなもんじゃないだろこれは」

「本来の目的は井戸の水汲みのために作ってて、これはとりあえずの模型だよ。今後はもっと大きくする予定なんだよね」

「お前、そんなこと考えてたのか?」

「まあね。非力でか弱いボクと子どもたちにとって井戸の水汲みは過酷だからね」

「お前のどこが非力でか弱いんだよ。チビなのは間違いないが」

「図体ばかり大きくなったどっかの誰かさんには分からないかもしれないけど、あまり大きくないボクたちには厳しいんだよ」

「誰が図体ばかり大きくなったって」

「さぁ?自覚がない者こそが幸せ。と言う事もあるからね。ボクの口からはとても言えないよ」

「へーそうなんだ」

「ええそうなんです」



「・・・ところでウィル。これは今の(滑車)と比べて楽になるのか?」

「滑車に比べて手間が減るから実質楽になると思うよ」

「それが本当だったらスゲーな」

「まぁね。でもいくつか欠点があるから現状に満足しないで改良を続けるつもりだよ」

「どんな欠点があるんだ?」

「そこは秘密さ。全部教えてたらライルがウィル2号になっちゃうだろ」

「・・・それは怖いな」

「まったくだ。まあ解決策の方はおいおい考えていこうと思ってるよ」

「じゃあその欠点が解決するまで井戸には使えないのか?」

「そうだね」

俺の結論に周りで聞いていた多数の者が落胆したが仕方がない。


「残念、水汲みが楽になると思ったんだが」

「まあね、そのうちそこの井戸の広場で実験してるかもしれないけど変な目で見ないでね。ボクは繊細だから家から出られなくなっちゃうからね」

「それは嘘だということは知っているが」

「信じてくれないなんて残念なことだ。

じゃあそろそろお開きにしようか。思ってたより長引いちゃったからお留守番してるあの子たちが心配なんだよ」

「そのことに関してホントにマメだなお前は」



 家に帰って来た。


周りの子たちがあれで遊びたがってたから揚水風車・・いや、風車と手押しポンプはあの場に置いてきた。


「ただいまー」

「あたうたーー」「たぁたー」

喋ってる言葉は分からないが帰って来た俺を2人がお出迎えしてくれたみたいだ。


「いい子にしてたかなおまえたち」


2人とお話をしながらその日はゆっくり過ぎて行った。

帰ってきた母は周りの人からいろいろ聞いたようで風車と手押しポンプのことをいろいろ聞かれたがとりあえずお茶を濁した。


ちなみに今年の春市の店番は2日目の午前中だ。相も変わらずライルの家と同じ組み合わせだ。

この話を聞いたとき、あっ、ライルを舞台裏と屋上と倉庫に呼び出すの忘れてたことを思い出した。




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