2-18 ボク、納品へ1
春市が終わって数日、俺は手押しポンプの構想を練っていた。
品評会の日にはまだ井戸に使えるほどじゃないと答えたが、あれは正確ではない。あれはすべての井戸に対して利用できるわけではないって意味で答えただけで、うちのアパートメントが利用している井戸くらいなら工作の技量しだい十分実用化可能だとは思っている。
真剣に聞き入ってる者もいたから、あの場で実用化可能なんて言えばどんな化学反応が起こるか分からなかったからちょっと着地点を修正したのが真実だ。
事実あれぐらいの反響ですら話が広がり、ここ数日毎日のように井戸用に作るとなるとどういった問題点があるかなど、あれの有用性に気付いた人たちが訪ねてきて、いくつか意見を交わした。もちろん概要だけで具体的な解決策などの内容は話してないためどうなるか未知数だ。それに俺の発想にはないパターンも出てきそうで楽しみにもしている。でも風車側の食いつきがなかったのはなんだか悲しい。
実用サイズの手押しポンプは俺も製作する気でいるため構想を練ってるわけだ。ミニチュアとはいえ1度作った身、俺がこの製作競争?に参加しないのはなんか負けた気がする。
手押しポンプを製作する上でネックとなるのがポンプ本体の円筒内部と給水管の製作だ。
ミニチュアサイズのときですら円筒内部を精度よく作るのは難しかった。ストローク長さが長くなるほどストローク間の形状を変えないように削るのが難しく、俺の技量では実用サイズは完成しない可能性もなくはない。
給水管はただ単に作業量的に面倒なだけだ。単純構造のくせに製作には時間ばかりかかる厄介な部品だ。給水管、配管としては陶器やセメント類の所謂土管が一般的だが、重いから大人の協力が必要になるし、設置位置も決めていないためよく移動させる必要がありそうで、いつか割る自信が俺にはあるため土管類は除外した。
金属管?あんなの高すぎて手がでんよ。超高級品だよ、はなから除外してる。
つまり何が言いたいかと言うと、ポンプって製作するとなると面倒な装置だ。俺の面倒な性質がなければ他人に任せたよ。
時期的には春の伐採があるまで木材の調達が面倒なため貯木室にあるだけの木材で作りたいと思っている。ポンプ本体は丸太1本から1つしかとれないからあまり失敗してると後々の部品製作にも尾を引きそうなのが懸念といえば懸念だ。
まあとりあえず体を動かそうか。
「ふう、ようやくここまできたか」
今回のポンプ本体の内径はそこそこ大きいためノミと彫刻刀、カンナ、ヤスリを十二分に活用できたため、ミニチュア時より荒削り自体は楽にできた。
「さてこれからか」
ここからはひたすら根気との勝負だ。先に作っておいた円柱を挿しながら径の調整をするの・・・・・・・思いついた!
俺は次の作業を思い浮かべていた時ある考えが頭に浮かんだ。
それはこの円柱に硬化の魔術を掛けて本体の穴を打ち抜いてみたらどうだろうかと。
この後円柱がぎりぎり通らない程度まで内径を広げたのち、円柱をトンカチで打ち抜いたら凸部分が凹んで平らになるし、ストローク間の形状も安定するはずだ。
・・・・・・いける気がする。円柱の外径が内径より余りに大きすぎた場合には、丸太が割れると思うのでもしかしたら何回か失敗するかもしれないが無理ではない気がする。この方法が上手くいったら調整作業が格段に楽になるはずだ。
そうと決まれば円柱側を挿しやすいように少し削って挑戦だ。
細工を施した円柱に硬化の魔術を掛けて、
おねがい!!
ドン
ドンドンドンドン・・・・。・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・
木ヅチのヘッドの長さが足りなかったためだるま落としのように当て木を積み重ねて何とか打ち抜き、丸太の中をのぞきながら、指で表面をなぞると、
「ふっふっふっふ」
打ち抜く前より確実に凹凸は減っている。
あとは水につけてまた打ち抜いたりを数回繰り返して、軽くヤスリ整えたら内径に関しては完成だと思われる。体力的には疲れるが集中力はあまりいらないため、ずいぶん楽な方法だ。どうやら俺の時代が来たようだ。
その後もピストン部品に細工を施したり、ハンドル用の細工を施した。どちらもミニチュア時に分かった点を改良を施しながらの細工だった。ピストン部品は逆止弁はより堅牢そうな構造に改良し、ハンドルを取り付ける場所にはミニチュア時には良くピストン部品が抜けていたからストローク限界点に留め具を設置した。
数日後、ポンプ本体が完成した。
だがもうすぐ祖父母宅へ粉砕装置の納品へ行かないといけないため、ここまでの作業で一旦切り上げた。祖父母宅では納品の他にも修理も引き受けるため数日間滞在予定になっている。
今回向かうメンバーは俺とラックの2人だけで、母は幼児2人の面倒を見るため、父はそもそも春になってからほとんど帰ってこなくなったためだ。
今回の旅路は子ども2人しかいないため、西区経由ではなく東区経由での船旅である。少々利益が減るが安全にはかえられない。
数日後、本日は天気も良さげなので出発の日となった。
「それじゃあ2人ともくれぐれも気を付けてね」
アパートメントの前で母と別れて、2人で順番にリヤカーを引きつつ、
「こっちに来るのも久々だな~」
「お前は家から出ないからどこへ行っても同じだろ。まあ俺もここら辺から先にははあまりこないな」
「へぇ、農家の手伝いって同じ場所での作業だと思ったけど、いろんな場所へ行くことあるんだね」
「まあ大体はそうだがたまに配達とか買い出しを任せられることもあるからな」
「なるほどねー」
時間も押してないためとめどない会話をしつつ進んでいく。
「船着き場、とうちゃーく。・・・なんか舟少なくない?」
「・・たしかに」
船着き場に到着した俺たちが見たのは、昔見たときよりも舟数が少ない船着き場だった。一体何があったんだろう?
こんなに舟が少ないと北区行きの定期船は運航してるか不安になり、定期船用の船着き場へ急いだ。
普通に定期船は運航していて問題なく乗れた。
出発までまだ余裕があったため船頭に船着き場の話を聞いてみると、いくつかの商家が何艘か都市政府に寄付したらしい。船頭の言葉選びに苦慮してる感じと他の乗客たちの雰囲気から、多分寄付なのだろう。この船頭さんは子ども好きなのだろう。
舟の出発後、しばらく他の船着き場を経由しつつ船旅を楽しんでるとこの都市で1番大きな船着き場が見えてきた。
うん間違いない。寄付されたと思われる舟のおかげでこの船着き場には舟で溢れていて、どう見ても急造の船着き場が増設されていた。
ここの船着き場で乗り降りのため一時停止してる時に辺りを眺めていると、統一性のある服装をしてるところからたぶん兵士と思われる人達が訓練?をしていた。舟から落とされて上るなんて生産性のないことをしてるからたぶんそうだ。
そんな大人な事情が溢れる船着き場を横目に、舟はさらに北上。
「「ありがとうございましたー」」
目的の船着き場に着き、舟から降りた。
ここからは徒歩での移動だ。
少し歩くと北区の第3層と第4層を隔てる門、層門で珍しく検問をしているのが見えてきた。今まで検問なんて夏の交易祭の時以外見たことがない。しかもかなりテキトーな検問で、リヤカーでも引いてないとほぼノータイムでパスできる検問で、なんにためにしてる検問なのか分からない。まあ大量に手荷物を持ってる人はある程度時間がかかるらしいが。
層門に着くと俺達と同じ船便に乗っていた人達が審査を受けていた。道の選択肢が少ないから、結果的にずっとあの人達が後をついてしまったよ。傍目ストーカー行為だ。
「つぎっ」
「「こんにちはー」」
「お前たち2人だけか」
「はい」
「積み荷を確認するがいいか」
強制です。分かってますよ形式美ってやつですね。
「はいどうぞ」
リヤカーの中身を見せた。
「木材か・・・いってよし」
はやっ、少しリヤカー自体や粉砕装置の部品を浮かしてその下を覗いただけで検問が終わった。相変わらず何のための検問かよく分からない。
武器や禁制品の密売のための検問なのだろうか?でもそれじゃいつもやれよって思うけどな。父に聞いてもこういうのはあまり答えてくれないから聞くことはなくなった。
検問を抜けてさらに北へ向かい、ようやく祖父母宅へ着いた。
「「こんにちはー」」
祖母が出てきたが、母が見当たらないことに、
「ラック、ウィル、よく来たね。エアリスはどうしたんだい?」
「実は・・・
ここで母が家に残ってる理由。つまりうちで養子を迎えた事、またその理由、可愛いということを伝えた。祖母は少し考え込んだが、とりあえず家に向かい入れてくれた。
到着した時刻も微妙だったので納品や顧客回りは明日にして、家の中で祖母と近況報告と世間話していると、どうやらこの辺でもうちと同じように養子を迎えた家とか、他にも嫁を迎えた家があったそうだ。
人員整理の波がこんな田舎にも・・・
その後家事の手伝いしたり装置の組み立てををしていると、祖父が帰って来た。
祖父にも同じような説明をしたのは聞かない約束だ。




