2-11 教育方針
「だいいちもん。じぶんのなまえ」
「うんニック、問題文はあってるよ。じゃあ2人とも問題の答えを書いて」
祖父母宅から帰って来た次の日の昼、2人の宿題の答え合わせをしている。問題文を読ませて答えを記入する形式で答え合わせをしている。ちなみにカンペありだ。
「『にっく』、『とりあ』。うん正解だ。じゃあ次の問題はトリアが読んで・・・
身近な人の名前から、物の名前、算数の問題文、文章に至るまで。
順番に難易度を上げて行ってるため途中から正答率がガクッっと下がったが2週間の成果としては上出来に過ぎる。
俺自身も五十音表は完成してないためこれ以上は迂遠な言い回しとかで書かないといけなくなるからこれぐらいの進捗度で助かるということもある。
「2人ともよくできてるね」
答え合わせも終わり、総評を述べた。
「大分間違えたんだけど」
「いやいやここまでできるとは思ってなかったから、いい意味で裏切ってくれてうれしいよ」
その後、間違っていた部分をもう1度復習して今日の授業を終わりにした。
時間的にはあと少しで夕方と言う時間帯だ。今日はもうほとんどできることがないな。
今日2週間分の宿題を終わらせたから、明日からはもう少し時間に余裕ができるだろう。粉砕装置も作らないといけないしな。
次の日から、午前中は自分の魔術訓練と製作作業。午後は2人の教育とそれが終わったのち製作作業の日々が続いた。
たまにニックかトリアが無理して魔力枯渇状態になって倒れることがあったが、ちゃんと看病もした。
「ついに、遂に完成したー」
秋の伐採も始まって数日が経った頃、かねてより作っていた改変五十音表が完成した。もちろんバージョン1.0だから漏れや誤りがあったときにはバージョンアップできる余地は残している。
早速明日の授業のときに持っていこう。
既にフーホー粉砕装置1号は3台作り終えたので、今は替刃をちょくちょく作っている。それに意外と売れているため細工が面倒な部品も数台分作ろうとも思っている。
次の日の授業になり、早速2人に改変五十音表バージョン1.0を見せてみた。
「これが前に言ってた『一覧表』ってやつなの?」
2人には一覧表って言ってある。五十音表なんて言うわけにはいかないからな。
「そうだよ、昨日ようやく完成したんだ」
一覧表を見て、
「なんか見たことない文字がいくつもあるんだけど」
「まあそうだな、教えたのはその中の6割くらいだからな」
残り4割はほとんど使わない音か使っても俺が変換に迷ってた部分である。日本語で言うところのずとづみたいな関係だ。
「まだ4割もあるの」
「一応ね、でもめったに使わない単語もあるようにめったに使わない文字もあるから重要度が低いのもいくつもあるよ」
「まあこの表は壁に飾っとくとして、今日の授業を始めようか」
2人がひらがなを覚えてくれているおかげでさらなる教育を施せている。
でも国語と算数ばかりでいいのか?と思うことも最近多くなってきている。
でもこの国の歴史や地理、法、倫理など所謂社会科には教えるほど知識を蓄えているわけではないので無理だろ。
ならば理科はどうかと言うと、・・・秤と滑車はこっちにもあるし教えれそうだな。あとは植物観察。所謂アサガオさん水やりの会だ。似たような花は見たことあるが季節が悪いな。あとなんかあったっけ?
とりあえず次行こう。
次は外国語。ワロス
あと小学校では音楽、図画工作、体育、家庭だったかな?生活とか道徳なんてのもあった気がする。十数年前のこと意外と覚えてるものだな。
・音楽。ハープっぽい弦楽器と笛とあとなんか分からん打楽器は交易祭や収穫祭で見たことあるな。うん、これも授業に組み込むのもいいかもしれん。図画工作で楽器を作りそれを演奏する。良い案だと思う
・体育。必要ないな、自由な遊びでいいだろう
・家庭。料理に裁縫か。裁縫は何気に母に刺繍まで仕込まれてるからできないことはない。前世ではせいぜい学校の授業か一時流行ったリリア○だったかリリヤ○しかしたことがない俺としてはかなりの進歩だ。でも裁縫中には、ミシンほしいミシンほしいと呪詛のように頭の中を煩悩が渦巻いてた。・・・作っちゃおうかな。
料理も一応できる、2人の看病誰がしたと思ってるんだ
・生活。これって何やったけ?
字から読み取るに普段の暮らし方か?家事とか買い物の仕方といったところか。家庭内学習で十分だな。
・道徳。これも家庭内学習で十分だな。
「うん、こんなところか」
ざっと小学校で習ったと思われることをピックアップし、教えることができそうなのをさらに抽出した。
「何がこんなところなの?」
問題を解いていたニックが質問してきた。
「うーん、次に何を教えるか考えてたんだ」
「まだ問題終わってないのに次の問題?」
「いいや今日のことじゃないよ。明日以降の予定さ」
「そーなんだ。次は何をやるの?」
「おたのしみ。と言いたいところだけど、秤、滑車、木工、裁縫どれが良い?」
「裁縫は男がするもんじゃないよ」
確かにニックの言うとおり、裁縫イコール女性の役目っていうのがまかり通ってる。逆に木工イコール男性の役目も同程度にまかり通ってる。どちらも調整程度なら問題ないが仕事レベルになると不文律っぽい。俺はたまに糸紡ぎをしているが、家の中だけで母の影に隠れてコソコソ作ってるって感じだ。
「それは分かってるけど、授業としてはたまに他のことをした方が良いと思って提案してるんだよ」
「ふーん。でも秤と滑車は木工じゃないの?」
作るって思ってるのか、なければ作る精神が芽生えてきてるようだな。でも、
「秤と滑車は座学なんだよね」
簡易のミニチュアは用意するつもりだけどね。
「座学?じゃあ木工は何を作るの?」
「それはひみつです」
「・・・ウィルのひみつっていまま……」
ニック君。その小声部分聞こえてるからね、あとで校舎う・・・・
「トリアは何か質問はある?」
「・・・裁縫、何するの・・・・」
「作る題材はまだ決めてないけど、糸を紡ぐところから刺繍までかな。春までに終わるくらいの作品にするつもりだけど」
糸紡ぎや布織りははたして裁縫の範疇かは知らんが、一通りすることにしている。
「・・・裁縫、する・・・・」
トリアは裁縫にしたか。
「ニックはえーと、裁縫でいいんだっけ?」
「そんなこと一言も言ってないんだけど」
残念。2人別々より手間が省けるんだけどな。
「・・・じゃあニックは何にする?」
「箱」
・・・そんなカテゴリあったっけ?
俺がニックをジーーっと見てると、身振り手振りを交えて何やら言い始めた。
ニックがいろいろ言ってることを聞いてると何となくニックが作りたいものが分かった、多分冷蔵庫だな。どうやら2人の家庭が秋に手伝いに行っているところには雪室があるらしく、家でもそれを再現してみたいようだ。もうすぐ積雪の季節だしな。
似たようなものに氷式冷蔵庫があったっけ。たしか電気式の冷蔵庫が普及する前にあった物のはずだ。前世祖母の実家の物置で見たことあるし、多分イメージはあんな感じだろう。
これは悩ましい。
ニックの自主性を尊重するべきか、勉強を優先するべきか。
トリアが裁縫でけっこう時間かかりそうだから、自主性を尊重しようか。
「うん、分かった分かった。もう説明いいよ。じゃあその箱にしようか」
こうして、魔術、勉強、木工アンド裁縫の日々が始まった。




