表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐火の御神渡り  作者: San


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/8

狐火の御神渡り  7

遊園地は、街の外れにあった。


 


 少女は高架道路を歩いていた。


 


 崩れた車線。


 


 草に覆われた標識。


 


 遠く。


 


 霧の向こうに観覧車が見える。


 


 止まっていた。


 


 巨大な輪が、灰色の空の下で静かに立ち尽くしている。


 


 少女はそれを見上げる。


 


 近づくにつれ、遊園地の輪郭が見えてきた。


 


 割れたゲート。


 


 色褪せたキャラクターの看板。


 


 風に揺れる旗。


 


 誰もいない。


 


 けれど。


 


 ここは不思議と、“人がいた気配”が強かった。


 


 笑い声が残っている気がする。


 


 遠い昔の。


 


 もう消えた音。


 


 少女はゲートをくぐる。


 


 メリーゴーランド。


 


 ジェットコースター。


 


 ゲームコーナー。


 


 全部止まっていた。


 


 それでも。


 


 どこか楽しそうな空気だけが、まだ残っている。


 


 少女はゆっくり歩く。


 


 その途中。


 


 小さな帽子が落ちていた。


 


 赤いキャラクターの帽子。


 


 耳みたいな丸い飾りがついている。


 


 少女は拾う。


 


 埃を払う。


 


 すると。


 


 帽子の先。


 


 観覧車の真下に、墓が見えた。


 


 少女は近づく。


 


 墓は少し大きかった。


 


 周囲には色褪せたぬいぐるみ。


 


 風船の残骸。


 


 折れた花。


 


 墓標には文字。


 


『南雲 恒一』


 


 その下。


 


『みんなを笑わせた人』


 


 少女は静かにそれを見る。


 


 笑わせた人。


 


 それは。


 


 どんな人間だったのだろう。


 


 風が吹く。


 


 観覧車が微かに軋む。


 


 少女は墓の前に座った。


 


 空を見上げる。


 


 止まった観覧車。


 


 空っぽのゴンドラ。


 


 誰も乗っていない。


 


 でも。


 


 少女には少しだけ想像できた。


 


 昔。


 


 ここには沢山の人がいた。


 


 叫んで。


 


 笑って。


 


 手を振って。


 


 泣く子供もいて。


 


 それを誰かが笑わせていた。


 


 少女はゆっくりスコップを取る。


 


 土を掘る。


 


 ざく。


 


 ざく。


 


 乾いた土だった。


 


 やがて木箱が現れる。


 


 少女は蓋を開ける。


 


 骨。


 


 そして。


 


 一冊のノート。


 


 表紙には、丸っこい字。


 


『モグくん日記』


 


 少女は少しだけ首を傾げた。


 


 モグくん。


 


 誰だろう。


 


 ページを開く。


 


『六月三日


 今日も暑い。


 中の温度たぶん地獄』


 


 少女は読む。


 


『子供に五回殴られた。


 理由は知らん。


 たぶんテンション』


 


 次のページ。


 


『新人バイトが泣いてた。


 “夢と違いました”らしい。


 わかる』


 


 少女は静かにページをめくる。


 


『モグくんは人気キャラだ。


 でも中身の名前を知ってる人はいない』


 


『別にそれでいい』


 


『たぶん、そういう仕事だ』


 


 少女は周囲を見る。


 


 色褪せたキャラクター達。


 


 壊れたポップコーン屋。


 


 止まった音楽。


 


 ここには昔、“モグくん”が歩いていた。


 


 誰かが中に入って。


 


 笑われて。


 


 写真を撮られて。


 


 転んで。


 


 暑さに苦しみながら。


 


 それでも。


 


 笑わせていた。


 


 少女はさらに読む。


 


『七月十二日


 迷子の子がずっと泣いてた』


 


『親が見つかるまで、一時間くらい一緒にいた』


 


『何も喋れないから、


 踊るしかなかった』


 


 次の行。


 


『そしたら最後ちょっと笑った』


 


 少女はその文章をじっと見る。


 


 笑う。


 


 また、その言葉。


 


 人間は。


 


 誰かを笑わせるために動くらしい。


 


 意味もなく。


 


 得もなく。


 


 ただ。


 


 泣いている人を見ると、笑わせたくなる。


 


 少女はページをめくる。


 


『八月二十日


 子供に“中の人いる?”って聞かれた』


 


『いないよって首振った』


 


『そしたら、“モグくんって寂しくないの?”って聞かれた』


 


 少女は読む手を止めた。


 


『少し答えに困った』


 


『でも、モグくんは笑うだけだ』


 


 観覧車が風で軋む。


 


 ぎぃ。


 


 ……ぎぃ。


 


 少女は静かに空を見る。


 


 寂しい。


 


 それは最近、少しだけわかり始めていた。


 


 誰もいない駅。


 


 誰も来ない店。


 


 誰も笑わない街。


 


 その静けさを見ていると。


 


 胸の奥が少し重くなる。


 


 それが寂しさなのかもしれなかった。


 


 少女はまたページをめくる。


 


『十月一日


 閉園の話が出てるらしい』


 


『まあ、客減ってたしな』


 


『でも、夜の遊園地は好きだった』


 


『誰もいない園内歩くと、


 世界に自分だけ残されたみたいで』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ