表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐火の御神渡り  作者: San


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

狐火の御神渡り  8

少女はページをめくる。


 


『十月二十日


 閉園したらどうするんですかって聞かれた』


 


『知らん』


 


『モグくんは遊園地の外で生きられるのか?』


 


 次の行。


 


『たぶん無理』


 


 少女は静かに読む。


 


 観覧車の影が地面に伸びている。


 


 風が吹くたび、どこかで金属が軋む音がした。


 


『遊園地の外で着ぐるみ着ても変な人だしな』


 


『まあ、今でも変な人か』


 


 次のページ。


 


『でも、たまに思う』


 


『中身の俺が消えても、


 モグくんだけ残るなら、それでいいのかもしれない』


 


 少女は視線を止める。


 


 その文章だけ、少し字が小さかった。


 


 続き。


 


『子供は中身なんか見ない』


 


『モグくんがいるかどうかだけ見る』


 


『だから、笑う』


 


『暑くても』


 


『腰痛くても』


 


『子供に蹴られても』


 


『笑う』


 


 ページをめくる。


 


 そこには、小さな写真が貼られていた。


 


 キャラクターの着ぐるみ。


 


 丸い顔。


 


 短い手。


 


 大きな口。


 


 

 


 写真の裏には文字。


 


『閉園一週間前』


 


 少女はしばらくその写真を見る。


 


 背景には夕方の遊園地。


 


 客は少ない。


 


 ライトも半分しか点いていない。


 


 それでも。


 


 写真の中の遊園地は、どこか楽しそうだった。


 


 少女はまたページを開く。


 


『十二月一日


 園内の音楽が止まった』


 


『なんか変な感じ』


 


『静かすぎる』


 



 


『誰もいない遊園地って怖いな』


 


『笑い声がないだけで、こんな違うんだ』


 


 観覧車がまた軋む。


 


 ぎぃ。


 


 ……ぎぃ。


 


 少女は顔を上げる。


 


 今の遊園地は、本当に静かだった。


 


 風の音しかない。


 


 でも。


 


 日記を読んでいると。


 


 ここにいた人達の気配だけが残っている気がした。


 


『最後の日、


 泣いてる子供がいた』


 


『閉園やだって』


 


『だから最後までモグくんでいた』


 


『帰る時、その子が抱きついてきた』


 


『ありがとうって言われた』


 


 次の行。


 


『着ぐるみだから顔見えなくてよかった』


 


 少女はページをめくる。


 


 最後の方になると、文字は少なくなっていた。


 


『閉園後も少し残って片付けしてる』


 


『観覧車、止まったままだ』


 


『静か』


 

 


 少女は周囲を見る。


 


 夕方の光。


 


 止まったアトラクション。


 


 風で揺れる旗。


 


 壊れたベンチ。


 


 たしかに。


 


 静かなのに、不思議と綺麗だった。


 


 最後のページ。


 


『たぶん俺が消えても、


 モグくんは誰かの記憶に残る』


 


 その下に、小さく。


 


『あと腰痛い』


 


 そこで日記は終わっていた。


 


 少女は静かに閉じる。


 


 風が吹く。


 


 観覧車のゴンドラが、わずかに揺れた。


 


 少女は日記を木箱へ戻す。


 


 骨の隣に。


 


 元の場所へ。


 


 それから静かに土を戻し始める。


 


 ざく。


 


 ざく。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ