狐火の御神渡り 8
少女はページをめくる。
『十月二十日
閉園したらどうするんですかって聞かれた』
『知らん』
『モグくんは遊園地の外で生きられるのか?』
次の行。
『たぶん無理』
少女は静かに読む。
観覧車の影が地面に伸びている。
風が吹くたび、どこかで金属が軋む音がした。
『遊園地の外で着ぐるみ着ても変な人だしな』
『まあ、今でも変な人か』
次のページ。
『でも、たまに思う』
『中身の俺が消えても、
モグくんだけ残るなら、それでいいのかもしれない』
少女は視線を止める。
その文章だけ、少し字が小さかった。
続き。
『子供は中身なんか見ない』
『モグくんがいるかどうかだけ見る』
『だから、笑う』
『暑くても』
『腰痛くても』
『子供に蹴られても』
『笑う』
ページをめくる。
そこには、小さな写真が貼られていた。
キャラクターの着ぐるみ。
丸い顔。
短い手。
大きな口。
写真の裏には文字。
『閉園一週間前』
少女はしばらくその写真を見る。
背景には夕方の遊園地。
客は少ない。
ライトも半分しか点いていない。
それでも。
写真の中の遊園地は、どこか楽しそうだった。
少女はまたページを開く。
『十二月一日
園内の音楽が止まった』
『なんか変な感じ』
『静かすぎる』
『誰もいない遊園地って怖いな』
『笑い声がないだけで、こんな違うんだ』
観覧車がまた軋む。
ぎぃ。
……ぎぃ。
少女は顔を上げる。
今の遊園地は、本当に静かだった。
風の音しかない。
でも。
日記を読んでいると。
ここにいた人達の気配だけが残っている気がした。
『最後の日、
泣いてる子供がいた』
『閉園やだって』
『だから最後までモグくんでいた』
『帰る時、その子が抱きついてきた』
『ありがとうって言われた』
次の行。
『着ぐるみだから顔見えなくてよかった』
少女はページをめくる。
最後の方になると、文字は少なくなっていた。
『閉園後も少し残って片付けしてる』
『観覧車、止まったままだ』
『静か』
少女は周囲を見る。
夕方の光。
止まったアトラクション。
風で揺れる旗。
壊れたベンチ。
たしかに。
静かなのに、不思議と綺麗だった。
最後のページ。
『たぶん俺が消えても、
モグくんは誰かの記憶に残る』
その下に、小さく。
『あと腰痛い』
そこで日記は終わっていた。
少女は静かに閉じる。
風が吹く。
観覧車のゴンドラが、わずかに揺れた。
少女は日記を木箱へ戻す。
骨の隣に。
元の場所へ。
それから静かに土を戻し始める。
ざく。
ざく。




