魔女の正体
ゆっくりとミナトのほうに歩いてくる人物
その人物に見覚えがあった
先に声を発したのはその人物だった
「お見事ね。あなたは人類滅亡を防いだ。まさに英雄よ」
「そりゃ、どうも」
そう答えて身構える
「でも、さっきのあれ以外にも、目の前にもう一つ、世界を滅亡させる化け物がいる。私がそれを排除する」
「まさか、それがフィレオラだって言いたいのか?」
「そう、その子はやがてこの世界を消滅させる」
「いくら永遠に生きる魔女ヴェ=リェだからって、未来のことまでわかるってのは筋が通らないように思えるがな」
「いいえ、私はそんな名前じゃないわよ」
そう言ったあと続けた
「私の名前はフィレオラよ」
「なに?」
ミナトはレイカに抱えられているフィレオラを見た
「その子と私は偶然同じ名前だと思う?違うわ。その子は私なの」
「なんだって?」
「私はその子が成長した姿。その子は私の過去の姿。だからその子がこれからどういう人生を歩むのか、全部知っている」
「そんな話を信じろというのか?」
「いいわ。その子がこれから先、どのように生きていくのか。聞かせてあげましょう」
そう言うと、淡々と語り始めた
フィレオラは今から約20年後に、それまで発見されていなかった画期的な魔法を作り出すことに成功する
それは時空魔法を応用して自身を不老不死にする魔法だった
不老不死になったフィレオラはそのまま魔法の研究にのめり込んでいく
「通常、世界の歴史はゆっくりと進んでいく。でも時々、その歴史の針を一気に進める人物が現れる。例えば、世界に魔法をもたらした人物。時空魔法を実用化した人物。そういった一握りの人達が歴史を100年分、時には1000年分進めるのよ」
でも、人間には寿命がある
どんな天才であっても、やがて寿命を迎え、その後の世界は再び元の早さで歴史を刻んでいく
「でも考えてみて。もしそういう歴史の傑物が永遠の寿命なんてものを手に入れたらどうなるのか?」
その後の歴史は留まることなく加速し、進化はものすごい速度で進んでいく
「そうして、フィレオラは魔法の歴史を何万年分も進めた。わずか200年の間に」
その頃、フィレオラが新たに研究を始めた魔法
それは時空魔法のさらなる発展形
「そうね、それを次元魔法とでも呼びましょうか」
やがて初歩的な次元魔法を組み上げたフィレオラは実験を行った
単なる確認のための試験的なものだった
しかし、その魔法はフィレオラの制御を離れて暴走を始めた
「最初は小さな黒い球だった。しかしそれは周囲の物質を飲み込んでどんどん大きくなっていった。私はそれを止めようとしたけど無理だったわ。世界がそれに飲み込まれていくのをただ見ていることしかできなかった。そうしてこの世界のあらゆる物質は私を残して消滅した」
しかし、その完全な無となった世界に光が射したように思えた
そしてその光はどんどん眩くなっていく
次の瞬間、目の前に新しい世界が出現した
そこはフィレオラが全く知らない世界だった
その世界には原始的な生活をしている人々がいた
しかし魔法は存在しなかった
フィレオラは自分が飛ばされた見知らぬ世界で生きていくことになった
自分が世界を消滅させてしまったという罪の意識に苛まれながら
それからフィレオラは悠久の時間を使い、自身の作り出した魔法の正体を確認するため、そして自分が元いた世界を蘇らせる方法を探すため、魔法について再度一から研究を始めた
それは本にして数百冊にも及んだ
フィレオラは本が劣化しないよう魔法をかけて保存した
そうして長い年月をかけて何度も見返した
しかし、結局結論は出なかった
自分が消滅させてしまった世界を取り戻す方法はわからなかった
「だからこそ、せめてもの償いをするかのように、自分が元いた世界のことを物語としてこの世界に残そうとした」
「それってまさか・・・・」
セシーリアが尋ねる
「そう、この国に伝えられているおとぎ話よ。あれは全て、元いた世界で私自身が経験したことを物語にしたものなの」
伝説の魔法を操り、魔王を倒した大魔導士の物語
異世界に行っていろんな不思議な食べ物を食べる物語
僻地にある一面が光り輝く洞窟の物語
その他の多くの空想のような物語
「そして、新しい世界で孤独に生きる自分自身のことは、永遠に生きる魔女ヴェ=リェとして描いた」
しかしフィレオラはやがてこの世界の正体に気付いていく
きっかけはメランデルという国が誕生したことだった
自分が元いた世界にあった国と同じ名前の国
一度芽生えたその疑念は時代と共に確信へと変わっていった
自分が書いた物語がきっかけでこの世界にも魔法が誕生してしまった
魔族も生み出された
ここは、元いた世界の遠い過去なのではないか
しかし、だとすれば、いつかこの世界に再び自分が誕生することになる
もしかしたら、その自分自身を止めることが世界を消滅させてしまったことへの最大の償いになるのかもしれない
そう考えた




