60話 報告
『少女よ、また我が子に先程の雷を頼みたい。その時には其方に呼びかけるが良いか?』
穏やかな調子で、親ドラゴンは私に尋ねてきた。
『ええ。必要な時には呼んで。いつも学院でお勉強しているから呼ばれて即、とはいかないけれど』
『構わぬ。そうなればゆっくりと待つ』
親ドラゴンは少し成長した子供ドラゴンに慈しむような視線を向けた。
『少し、依頼主に連絡させてもらう。安心しろ、危害は与えない』
そう言いながら、オルカは学院長先生に向けてマジックレターを飛ばす。
『ドラゴンよ、お前は人語を理解できるか?』
『無論だ。其方等が普通に発話したとしても問題ない』
「そうか。わかった」
オルカは音の言葉で話すのをやめて、普通に声で話し始めた。
対モンスター用の、人の言葉を理解できなかった時の為に直接意思を伝える為の発話方法だったけれど、大人のドラゴンなら人の言葉も理解できるみたい。
少しして、オルカの元に学院長先生から返信のマジックレターが返ってくる。
それに対してオルカはまた返信を飛ばしていた。
「俺達の代表者がここに来る事になった。現状把握と柵についての話がしたいそうだ」
『承知した。我も人間に理解出来るよう言葉を紡ごう』
私とオルカの耳には普通に聞こえていたけれど、今までの会話ももしかしたら普通の人間には理解できない言葉だったのかもしれない。
少しして、学院長先生が到着した。胸には私達と同じ銀色の花の形のブローチを付けている。
『其方が少年等の代表者か?』
親ドラゴンが学院長先生に問いかける。
「はい、そうです。初めまして。この度は人間の行いで多くのご苦労をおかけしましたこと、お詫び申し上げます」
『良い。話に入ろう』
学院長先生の挨拶に対して、無駄話は良いとでも言うように、親ドラゴンは切り上げて本題の柵の話に入った。
オルカも交えて、三人での話し合いが進んでいく様子を、私は子供ドラゴンと一緒に眺めていた。
暇だったので果物の小瓶を取り出して、果実をすべて取り出して子供ドラゴンに与える。
『おいしい!ありがとう!』
子供ドラゴンは私に大分なついたようで、頭を摺り寄せてきた。
私も、頭を摺り寄せてくる子供ドラゴンを撫でてあげる。嬉しそうにまた子供ドラゴンは更に頭を摺り寄せてきた。
オルカ達の話を聞いていると、このドラゴン達の巣がある地域一帯を王国管轄の生物自然保護区域に指定するような話にまとまっていったようだった。
それと、私が定期的に子供ドラゴンに雷魔法を与えに来る話も進められていた。
私が子供ドラゴンと戯れているうちに話し合いはまとまったようで、学院に帰還する事になった。
『少女よ、我が子と打ち解けたようだな。また呼び出すがその時には宜しく頼む』
「わかったわ。それじゃあまたね」
親ドラゴンと、子供ドラゴンにも別れを告げると、私達三人は学院長室に転移魔法で戻った。
戻ってきた学院長室には私達三人だけだった。
イレーネ先生は生徒達の帰還をまとめに教室にいるだろうし、アダム先生も授業がある時間なのだと思う。
「お二人とも、お疲れ様。かけてゆっくり休んでくれ。お茶を淹れるよ」
私とオルカはいつものように応接テーブルのソファーに腰を下ろす。
学院長先生の入れてくださったお茶に口を付けながら、静かにまとめの話し合いが始まった。
「まず確認して欲しいのだが、地図上の揺らぎはどうなった?」
そう言って、学院長先生はテーブルに地図を広げる。
帯電地域になっていた場所は、揺らぎが解消されていた。
「解消されました。多分ですけれど、子供ドラゴンの放射での帯電よりも、親ドラゴンの人間に対する怒りが揺らぎの原因になっていたのだと思います」
雷属性の放射は自然なことですし、と付け加える。
「なるほど。解消されたのなら良かったよ」
学院長先生は地図をまた折り畳んで、テーブルの脇に置いた。
「ドラゴンとの話し合いで、正式に王国に生物自然保護区の申請をする事になった。それにあたって、ドラゴンの生育の為の雷魔法を使う以上、どうしてもキリエ君の事を一緒に伝えなければならない。今回の件の調査報告書を君達に作ってもらって、その提出と共に申請をする予定だ。それには同意してくれるかな?」
「はい。必要なら」
私は学院長先生の問いかけに短く答える。
出来れば知られたくないけれど、この場合は仕方ないだろう。
それに、オルカも私が心配するような事は何も起こらないと前に言ってくれていた。
「ありがとう。ドラゴンとの契約もあることだし、魔導院も下手に君達に手出しは出来ないだろう」
あの場での話し合いで、学院長先生にも私達が契約した事は共有されていたみたいだった。
「ドラゴンって私達人間の間ではどんな存在なんですか?」
初めて出会うし、事前知識もない状態での交渉だったから、世間での認識が何も分からない。
「極めて知性が高く、無駄に人を襲うようなことはしない。だが、一度牙を向けば王国軍が束になってかかっても返り討ちに遭うだけだろう。そのくらいの相手だ。……ドラゴンが居ると分かっていたら君達を行かせるような事は無かった」
解決したから良いものの、それだけの危険が伴っている事は学院長先生でも予想出来て居なかったみたいだった。
「王国からの情報共有は無かったんですか?」
学院長先生の言葉に、オルカが尋ねる。
「そうだね。君達も見ただろう、騎士隊と魔導師の遺体を。誰も調査報告を出来なかったからこそ、ドラゴンの巣がある事が知られていなかったみたいだ」




