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58話 依頼

 朝食を終え、私とオルカは教室に来ていた。イレーネ先生はまだ来ていない。

 二人きりで居る事にも少し慣れてきた。

 オルカは私の手を取ると、私の指輪に軽く口づける。

「生命エネルギーの供給、キリエのヒーリングでも解決できるって分かったから止めておくよ」

 そのまま、オルカは私の手のひらにも唇を当てる。

「どうする?キリエ。行くか?」

 何となく、あれからもオルカからのスキンシップが増えている気がする。

 その密度も濃くなっているような。

 私もオルカの頬に手を寄せ、その滑らかな肌に指先を滑らせながら口を開く。

「正式にお願いが来たら行こうと思うわ」

 オルカは私の目を見つめ、意思を確認すると頷いた。


 しばらくして、ちらほらと生徒達が帰ってき始めた。

 久しぶりに見る同級生達は少し日焼けしている気がする。

 教室内が賑わい始める中、イレーネ先生も教室に入ってきた。少し緊張した面持ち。

 教壇の方に行くと思いきや、私とオルカの方にまっすぐに歩いてくる。

 そして声を潜めて、

「キリエさん、オルカさん、出かける支度をお願いします。出来たら学院長室へ」

 と伝えてきた。

 私達は小さく頷くと、鞄を持って教室を出た。

 戻ってくる生徒達の流れに逆行して、寮の方へと向かう。

『それじゃあ、学院長室で』

『ああ、また後で』

 寮の分かれ道で視線を交わすと、一度自室に戻った。

 特に必要なものは無いと思うけれど、魔導書と授業用ノートは鞄から出して机の上に置いておく。

 ナイフは……帯電ってなると特に要らないか。置いていく事にした。


 転移魔法で学院長室に移動する。

 私とほぼ同時に、オルカも転移してきた。

 学院長室にはアダム先生の姿もあった。

「キリエ君、オルカ君。正式に君達に帯電地域の調査を依頼したい」

 そう言って、学院長先生は私達に紙を差し出す。調査依頼書と書かれているその紙には、地域の情報や現在の状況が詳しく書かれている。

 大体は朝学院長先生から聞いた限りの情報だった。同意署名欄に、私とオルカはそれぞれ名前を書き込む。

「付近への転移呪文書は用意してある。アダム先生からも、件の魔道具の完成報告をいただいているよ」

 学院長先生の言葉を受けて、アダム先生は私達にそれぞれ銀色の花の形のブローチを手渡した。

「これは我が叡智の歯車舎が開発した完全雷撃耐性のアミュレットブローチだ。麻痺を完全に防ぐ効果もある。装着しているだけで効果を発揮する。テストもばっちりしてあるぞ」

 アダム先生の説明を聞きながら、私とオルカはジャケットの胸のあたりにそのブローチを取り付けた。付けた感じ、特に何かのオーラで守られるとか、そう言ったものは無かった。

「何があるか分からないからくれぐれも気を付けて行ってきて欲しい」

 念を押す学院長先生の言葉に、オルカが答える。

「はい。多分俺とキリエならなんとかできると思うので」

 オルカの謎の自信は、シンとしての、世界の管理者としての言葉にも聞こえた。

 調査依頼書と一緒に転移呪文書も受け取ると、私達は先生方に見送られて出発した。

 呪文書を開き、私とオルカの体が光に包まれる。



 軽い浮遊感の後、私とオルカは目の前に雷属性の火花がパチパチとはじける景色が広がる場所に立っていた。

 周囲の草は、その帯電によって枯れてしまっている。

 体感で、この辺り一帯の雷属性の元素がかなり濃くなっているのを感じる。

「行ってみるか」

「うん」

 一歩帯電地帯の中に足を踏み入れてみる。ブローチのおかげか、何事もなく進むことが出来るようだった。

 帯電の中心であろう方向に向かい、歩いて進んでいく。

 結構な広範囲に渡って帯電しているようで、なかなかその中心部が見えてこない。

 けれど、その途中で何か嫌なものが地面に横たわっているのが見えた。

 王国騎士隊の装束を纏った死体と、王国軍魔導師部隊の装束を纏った死体がいくつか。

 それ等は肉だけ焼け焦げて、力なく倒れていた。

「うわあ……」

 私は思わず声を漏らすけれど、オルカは冷静にその死体を横目に進んでいく。私もオルカについていくように並んで歩みを進めた。


 やがて見えてきたのは小さなドラゴンだった。まだ子供みたい。その体は黒銀の鱗に覆われていて、パチパチと帯電して微かな光を放っている。

『こんにちは』

 オルカが珍しく友好的に話しかける。

 オルカから発された音のような言葉に、子供ドラゴンは少し驚いたような様子を見せた。

『こ、こんにちは。人間。どうしてここに?』

 子供ドラゴンは結構可愛らしい声をしている。

『この地域の調査を頼まれて来たんだ。君を傷つけるつもりはないから安心して』

 そう言ってオルカは鞄の中からクッキーの包みを取り出し、一つ子供ドラゴンに差し出した。

 いつの間に持ってきたのかしら。

 子供ドラゴンはクッキーの匂いを嗅ぐと、オルからの手から直接食べていた。

『甘くておいしい!ありがとうオスの人間!』

 私も、鞄に入れっぱなしだった果物の小瓶からブドウのような果実を取り出して子供ドラゴンに差し出してみる。

 その果実も子供ドラゴンは匂いを嗅いだ後に迷いなく口に含む。

『甘くておいしい……!メスの人間もありがとう!』

『あなたはドラゴンの子よね?お母さんかお父さんは?』

 私も同じように、子供ドラゴンに音のような言葉で尋ねる。

『お母さんなら今お出かけしてるよ!お父さんはわからないな。お母さんの姿しか見たことないから』

 私とオルカは顔を見合わせる。という事は、私達がここに居たら、勘違いした親ドラゴンに襲われるかもしれない。


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