57話 新たな日常
野外実習最終日の朝。
窓からの明るさで目を覚ました私は、目が覚めるなりオルカからのマジックレターがいくつか届いていることに気が付く。
一通目を開いてみると、「眠れないから学院長室にいる」と書かれていた。
二通目には、「おやすみ、キリエ」、三通目には、「おはよう、キリエ。起きたら教えて」と書かれていた。
『オルカ、起きてる?』
『起きてる。おはよう』
テレパシーで連絡をしてみると、オルカからすぐに返答が来た。
『おはよう。眠れなかったの?』
『ああ……何かな。学院長先生と話してたら眠たくなったからソファーで寝かせて貰ってた』
少し気だるげなオルカの言葉。
『という事は今も学院長室なのね』
『そう。キリエから連絡来たらこっちに呼ぶことになってる』
私は今するべき事を察して、オルカにマジックレターで「おはよう、オルカ。起きたよ」と記して飛ばした。
要するに、学院長先生にも見える形でオルカに連絡をした。
それからすぐにオルカから返信が来て、そこには「学院長室で待ってる」とだけ書かれていた。
テレパシーでやり取りしている事は学院長先生達にも秘密。ちょっと変わっているけれど普通の学生としての振る舞いを心掛けなければいけない。
私は一旦廊下に出て、水道でうがいをして顔を洗う。また自室に戻り、制服に着替え始める。寝間着を畳んでクローゼットに入れ、綺麗な状態の下着と靴下、ブラウスを取り出して着用する。スカートとジャケットも着て、鏡を見て髪の毛を整えた。
それから鞄の中身を確認する。今日からもう一年生の生徒達が皆帰ってきて、明日からはまた授業が始まる。
筆記具と授業用ノート、魔導書をそろえて鞄に入れると、私は学院長室に転移魔法で移動した。
「おはよう、キリエ君」
学院長室の扉を入ったところに出た私は、早速学院長先生から出迎えられた。
「おはようございます、学院長先生。おはよう、オルカ」
「おはよう、キリエ」
オルカももう制服を着ていて、いつも通り私に優しく微笑みかけていた。
「キリエ君、お腹具合はどうだい?」
朝食の注文をするところだったらしく、私の食べる量を尋ねられた。
「普通の量一人分で大丈夫です」
私が答えると、学院長先生は頷いて、マジックレターに注文内容を記して食堂へ飛ばした。
「起きて来て早々なのだが、例の帯電地域について話があるんだ」
応接テーブル、オルカの向かいのソファーに学院長先生は腰かけて、話を切り出した。私もオルカの隣に腰を下ろす。
「オルカ君と話し合って、わかる範囲で情報を照らし合わせていった。まず、王国の調査団がそこで行方不明になっている。帯電が激しいため容易に近づく事も出来ず、行方不明者の捜索も出来ていない状態だ」
王国の調査団という事は、また魔導院関係かしら……。彼等の話が出る度に、過剰な警戒をされ監視された記憶が蘇る。あんな事をしなければ彼等も無事で済んだのに。
「学院ではアダム先生に雷撃耐性の守りを得る魔道具の開発を依頼している。それでだ。もし君達が可能なら、魔道具が完成したら現地の調査をお願いしたいと考えている。キリエ君の魔力調整ブレスレットも完成したことだし、今なら外に出て魔法を使っても普通の学生と思われるだろう」
思わぬ外出の話に、私は少し驚いた。今までは危険を考慮して出ないように、という話だったのに。
「おそらくなのだが、この問題は君達にしか解決できない気がするんだ。キリエ君の規格外の想像力と魔力、オルカ君の冷静で精密な分析があって初めて解決の糸口が見つかると思う」
オルカがちら、と私の方を見る。これは彼が何かまた世界に調整を加えたのだな、と理解した。
「急なお話なのでもう少し情報が欲しいです。あとでオルカとも相談させてください」
「そうだね。朝食をとりながらまた改めて話そう」
私の返答に、学院長先生は微笑みながら頷いた。
やがて朝食が運ばれてきて、私達は三人で食事を囲んだ。
今朝の私の朝食はお肉と野菜の挟まれたサンドイッチだった。
「帯電地域は王国も調査していると言ったが、行方不明者が出てからは手出しできないでいるそうだ」
「魔導院もですか?」
「そうだ。魔導院でさえも解決策が見つからないでいる」
オルカは目玉焼きをパンに乗せて齧っている。
私もサンドイッチを齧りながら、少しだけ帯電地域の付近まで意識を広げてみる。
詳細には見ていないから中心になにかある、という事しか分からなかったけれど。
意識を戻してオルカの方を見ると、果実ジュースを飲みながら何か考え事をしているようだった。




