55話 オルカの回復
準備と言っても特にする事が無かった。強いて言えば、お風呂に入って身だしなみを整えるくらい。
学院長室の簡易ベッドを片付ける手伝いをしてからは、鞄を出してもらって、ノートは預ける事にした。これからも研究室はしばらくはこの学院長室になるわけだし。
メモ帳とペンをしっかりとポケットにしまって、私とオルカは実習期間泊めていただいた事にお礼を言って、転移魔法でそれぞれの寮の部屋へ戻った。
学院長室と自室を魔法で行き来できるの楽だわ。
急用で訪れる場合はマジックレターで連絡して欲しいという事は学院長先生から伝えられていた。
『キリエ、後でまたヒーリング試してみてくれるか?』
『うん。いいよ。あ、そうだ。私の魔力と直接つながって体力を持続回復する指輪とかって、オルカが着けたら』
『それならキリエが俺の指輪に意図を持ってキスすればわざわざ魔道具として作らなくても出来る』
私の言葉の途中でオルカはテレパシーを挟んできた。いくらか回復したとはいえ、オルカも割と必死なのかも。
そうかなるほど。それもそうね。と彼の言う事に納得する。
『話を最後まで聞いてよ。着けたら生命エネルギー回復出来る?』
『出来る筈。試してみるか。ただ、体力じゃなくて生命エネルギーとして指定した方が良いかも知れない』
『分かったわ。それじゃあ今から外に出るから、分かれ道の所で落ち合いましょう』
『了解』
鞄にお財布が入ってるのを確認して、自室から出る。久しぶりだから施錠も忘れずにしっかりと確認して、寮の分かれ道へ向かった。
ほぼ同時に集合場所に着いたオルカは、私に向かって左手を差し出してきた。
私はその手を取って、私の魔力に直結する形でオルカの生命エネルギーが回復するよう、その意図を持って彼の指輪に口づける。
瞬間、魔力がごっそりと持って行かれる感覚がした。同時に、オルカの生命エネルギーが一気にすべて回復する。
……無尽蔵に魔力があるとはいえ、急に大量に減ると若干お腹がすくわ。
「お。成功だな」
「そうね。良かったわ」
「すまないな、色々負担をかける」
ゆったりとしたシンの言葉で、オルカが謝意を伝えてくる。
「負担って程ではないわ。お腹空いたけれど」
「そうか。食堂今やってるかな」
オルカの口調に戻り、彼は私の手を取って食堂の方へ歩き出した。
今はまだ他の学年は授業中だったけれど、食堂は開いていた。
「すみません……急にお腹が空いてしまって……」
私が声をかけると、いつも食事を運んでくれていた職員さんが顔を出して、すぐに何か作ってくれることになった。
オルカのエネルギーが回復した分、少し減らしても良いかもしれないけれど、念の為二人前分のお肉で頼んでみた。
オルカも一応果物の盛り合わせを出してもらって、席に座って向かい合って食べ始める。
普段のオルカの生命エネルギーの減り方を見ている限り、そこまで一日に減る量は多くなかった。やっぱり長期間の積み重ねだったのね。
お肉を切り分けて口へ運ぶ。一口だけでも、だいぶ空腹が満たされる感覚になる。けれど、それも一瞬でまた空腹感が襲ってきた。
オルカは果実を口に運びながら、じっと私の様子を見ている。
そして何を思いついたのか、自分の指輪に口づけた。
途端、オルカが食べた果実分の魔力が私に返ってくる。
「キリエの腹具合と魔力量を見てたらこうやった方が良い気がして。俺が食った分だけ都度送る形になるが」
オルカの果物で回復するのは良いけれど、どうにもやっぱりすぐお腹が空いてしまう。
「ねえ、そっちで私の魔力からの供給って解除できる?何だかずっとお腹が空いて……」
「そうだろうと思ったよ。ちょっと待ってな……」
オルカは再度自分の指輪に軽く口づけをする。
「解除したよ。どうだ?」
オルカの言葉通り、私の魔力による生命エネルギーの供給が止まった感覚を確かに感じた。
そのまま、食事を進める。今度はお腹に溜まる感覚があり、大丈夫だった。
「ありがとう。減り続けるのはおさまったわ」
「なら良かった。とりあえず全回復はさせて貰ったから、今後しばらくは大丈夫そうだ」




