52話 試演
翌朝、窓からの朝の明るさに私が目が覚めると同時にオルカも目が覚めたようで、彼が目を覚ます瞬間を見る事が出来た。
「おはよ、キリエ」
「おはよう、オルカ」
起き上がって室内を見渡すと、やっぱり学院長先生は居なかった。
先生いつ寝てるんだろうな、と思いながら、ベッドから降りる。
応接テーブルには果物の盛り合わせと、昨日食べたのと同じ大きさのサンドイッチのパックが二つ置かれていた。
置手紙もあって、学院長先生の字で、「職員会議に行っています。朝食前にお腹が空いていたらテーブルの上のものを食べていてください」と書かれていた。
私はオルカと自分の分のお水の小瓶を作って、片方をオルカに手渡す。ソファーに座った彼はお水を飲み干し、果物に手を付け始めた。私もオルカの隣に座って、サンドイッチのパックを開けて食べ始める。
「何だろうな、この待遇」
オルカがぽつりと呟く。
オルカも私と同じように少し疑問に感じていたらしい。
「それだけ私達を大切に思ってくださってるんだと思うわ」
「まあ、そうか……」
私の言葉に納得した様子で、ブドウのような果実を口へ運ぶオルカ。
学院長先生のところにお世話になっている間の食費ってどうなってるんだろう。後でまとめて払うのかしら。
食べる量も増えたしなあ、と思う。
「金なら魔力鉱石を売った時のがあるからそこから俺が払うよ。俺の問題でキリエにたくさん食わせてるしな」
食費の問題は後に学院長先生に確認したら、研究による学院への貢献度から無料で良いという話になった。
朝食も多めに(私は昨日の夕食の倍食べた)とり、午前中魔導書を読んで過ごしていると、アダム先生が学院長室を訪ねてきた。
ブレスレットのプロトタイプが完成したらしく、さっそく使ってみて欲しいという事で実習室に移動する。
実習室には叡智の歯車舎の面々が揃っていて、私達と一緒に学院長先生とイレーネ先生も含めた過去最大数のメンバーでの実験が始まった。
実習室でアダム先生からブレスレットを受け取り、右手首につけてみる。まだデザインは考慮されていなくて、機構と宝珠がむき出しになっている。
左手で宝珠に触れると、かすかに光が灯った。
動作確認を済ませると、イレーネ先生が召喚したデコイに魔法を当ててみる事に。
私はいつも通りに右手に魔力を集中させる。
「マジックアロー!」
伸ばした右手の指先から放たれた魔法の矢は、デコイに直撃した。前までのように粉砕されない。
オルカは説明で魔力が体内で循環するように切り替えるって言っていたけれど、特に魔力を消費したような感覚は無かった。
感覚的には本当に以前と変わらない。ただ、魔法の威力が他の人と同じくらいになっただけだった。
私のマジックアローの威力に、イレーネ先生と学院長先生は感嘆の声を上げる。
叡智の歯車舎のアダム先生以外の人達はよくわかっていないようだった。
「キリエ、オフにした状態でも使ってみてくれ」
「わかったわ」
オルカに言われてもう一度宝珠に触れると、灯っていたかすかな光が消える。
そして再び右手に魔力を集中させ、デコイに向けて魔法を放つ。
「マジックアロー!」
伸ばした右手の指先から放たれた奔流とも言うべき魔法の矢は、デコイを直撃して粉砕し、その先も直進し、壁に衝突して消滅した。
その様子に、叡智の歯車舎の面々だけでなく、イレーネ先生と学院長先生も絶句する。
「キリエさん、一学期より威力上がってますね……」
イレーネ先生の口からやっとという感じで言葉が零れ落ちる。
「まあ、こういう感じなんですよ」
オルカは叡智の歯車舎の人達に向かって説明するように声をかけた。私の魔法はアダム先生にはこの前見て貰ったけれど、それでも一番初歩の魔法であるマジックアローまでは見せていなかった。
「お、おお……。キリエ君、使用感はどうだ」
アダム先生も、やっとの事で絞り出したように声を出す。
「オンにしても私の感覚的にはいつも通りでした。威力が皆さんと同じくらいになった他は特に」
私の言葉に、オルカも続けて口を開く。
「俺の想定した通りの動きですね。このまま完成させて問題なさそうです」
オルカの言葉に、アダム先生は安心したように表情を緩めた。
「おお、良かった。オルカ君が丁寧に理論と機構を説明してくれたおかげだ」
もう数回テストをしてほしいと言われて、私は再び宝珠に触れてスイッチを入れた。イレーネ先生の召喚したデコイに何発かマジックアローやファイアーボルト等を当てて、ついでにオルカがもう一体召喚したデコイに、イレーネ先生のデコイと同時にファイアーボルトを分散させて当てる。
分散ファイアーボルトについては、単体へのファイアーボルトと同じ威力の魔法が両方のデコイに当たっていたみたいだった。
分散ファイアーボルトを初めて見た叡智の歯車舎の面々は歓声を上げていた。




