51話 空腹と食欲
夕食までの時間、私達は学院長室で魔導書を読みながらゆっくり過ごしていた。
その最中、いつもより早くお腹が空いたことに気が付く。
困ったな、と思いながら、私は学院長先生に声をかけてみる事にした。
「先生、ちょっとお願いがあるんですけど……」
私の声に、何か書き物をしていた学院長先生が顔を上げる。
「どうしたんだい?何か困り事かな?」
「今日のお夕食少し早めに出来ませんか?あと量も多めが良くて……」
「何かあったのかい?」
いつもと違う様子の私に、もっともな疑問を持つ学院長先生。
「あー……それ、俺からも話します。ちょっと俺の体質的に食べ物からエネルギーを摂取出来なくて。栄養は摂れるから体の維持は出来るんですけど、それでちょっとキリエに協力してもらって、俺に供給してもらえるようにしたんです。こうやって触れ合ってればキリエからエネルギー貰えるんですけど、それだとどうしてもキリエのエネルギーが不足してくる。それで空腹が早くなるし二人分のエネルギー摂取をしなきゃいけないので量を多めに、って話です」
オルカの説明に、学院長先生は次第に深刻そうな表情になる。
「そうだったのか、それでこの前から眠たそうにしていたんだね。気づけなくてすまなかった。すぐに夕食にしよう」
「いえ、俺も研究が進むまで原因に気づかなかったので。あとできれば俺の夕食に何か果物をつけて貰えますか?果物からならエネルギー摂取出来るみたいなんで」
学院長先生はオルカの言葉に深く頷いて、再度私に確認をする。
「キリエ君はおかずも含めて大盛りで良いかな?」
「はい。お願いします。もし足りなかったらおかわりしたいです」
「わかった。それも含めて食堂に伝えるよ」
やがて夕食が運ばれてきて、いつもより少し早いお夕飯になった。
オルカのトレーにはいつもの玉子料理の他に、ブドウのような果実とリンゴのような果実が切られて丸々一個分盛られている深皿が追加されていて、私のトレーには普段の倍の量のお肉が乗った大皿と、大きめのパンが二個乗っていた。
「思ったより多いなこれ……」
自分のトレーの食べ物の量を見てオルカが呟く。
「食べきれなかったら私が食べるよ」
私が言うと、オルカは少し安心したように微笑んだ。
とりあえずオルカは果物から手を付ける事にしたようだ。
『甘い……』
食べた感想を何故かテレパシーで伝えてくる。
私もお肉を切り分けて口へ運び始める。おいしい。これ普段の倍の量食べられるの幸せかも。
パンもまだ温かくて香ばしい。
『そういえばハンバーグ食べられるけどあれも無理?』
『食えるけどエネルギーは補給できなかった』
『そっかあ……』
学院長先生はオルカの様子をさりげなく確認しながら、自身もパンを千切って口に運んでいた。
結局、オルカは果物と玉子料理までは食べきったけれど、途中でパンまでは入らないと踏んだようで私に預けてきた。
私は食べながらもオルカにエネルギーが供給されていくのを感じていた。
パン美味しいなあ、と思いながら、千切ったパンでお肉を挟んだりしながら、すべて食べきった。まだ入りそうな気はする。
「すみません、先生。サンドイッチって作ってもらえるでしょうか」
「出来るはずだよ。具材の指定はあるかな?」
「えっと、じゃあ、お肉と玉子と野菜でお願いします」
「わかった。後でまたお腹が空いたときにも食べられるよう念の為多めに注文しておくよ」
パーティー用みたいなサンドイッチセットが四つ届いた。一つの大きなタッパーに色んな具材が挟まれたサンドイッチがたくさん入っている。
その量に思わず、わあ……と思いながら、私は一つを開けて食べ始めた。美味しい。
数日分か下手したらオルカの13年間分のエネルギーを補給しなくてはならなかった私は、結局届いた分の三つ分を食べきってしまった。残り一パックはおやつに取っておくことにした。
「オルカ君、だいぶエネルギーが不足していたんだね。よく頑張ったね」
私の食べる様子に驚きながらの学院長先生の言葉に、ちょっと照れたようなばつが悪そうな表情をするオルカ。
「いや……それよりキリエに無理させてないかちょっと心配になってきました。すごい量食べてますし……」
重ねられた空いたサンドイッチの容器を見ながらオルカが言う。
「私は大丈夫だよ。オルカの不調が回復するなら良かった」
そう言いながらも、オルカの生命エネルギーがまだそこまで回復しきっていないのを感じ取る。
指輪で繋がって供給しているのも、オルカの方で受け取る量を調整しているみたいだった。
これから時間をかけて多めに食べていくしかないかもしれないわ。
それと、魔法かあ。そういえばイレーネ先生が言っていたクローキングで魔力消費が多い問題、ちょっと使えないか試してみようかしら。
「すみません、お腹いっぱいなので少し外の空気吸ってきます」
「俺も行くよ」
私が立ち上がろうとすると、オルカも一緒に立ち上がる。
「ああ、暗くなってくるから気をつけて」
学院長先生に見送られて、ついでに空いたタッパーを廊下のワゴンに返して私達は廊下へ出た。
星空の見え始める夕方の空を廊下の窓越しに見ながら、職員用昇降口から外に出る。
『どこまで行くんだ?』
人気のない場所を探して歩いていると、オルカがテレパシーで尋ねてきた。
『この辺で良いかな』
校舎の角を曲がった辺りで歩みを止める。
私はオルカに答えると、クローキングの魔法を使用した。一瞬私の体が光に包まれ、不可視の状態になる。
その状態でオルカの様子を観察する。オルカはじっと私の方を見ていたけれど、何がしたいのかを理解したようだった。
私の魔力消費量に応じて、オルカの生命エネルギーが少しずつ回復していくのがわかる。でもそれも微々たるもので、食事の方がよっぽど効率が良かった。
「クローキングよりはヘヴンリィエクスプロージョン連発の方が回復できるぞ」
「やっぱりそうよねえ」
私はクローキングを解除した。ついでに人が居ないのを確認して、オルカにぎゅっと抱き着いた。オルカも私の背に腕を回して、しばらく抱擁を交わした。
「……戻ろうか」
オルカの言葉に私は頷いて、私達は手を繋いで学院長室に戻った。
寝る少し前にまたお腹が空いてきて、私は残りのサンドイッチを食べてからベッドに潜る。
いつものようにオルカと視線を交わしてから目を閉じ、意識を眠りの底へと落としていった。




