47話 アダム先生
朝食をとり終えた頃、また扉がノックされた。
「失礼します、学院長先生。おはようございます、キリエさん、オルカさん」
「おはようございます、イレーネ先生」
イレーネ先生に続いて、白衣を着た赤茶色の髪で黄金色の瞳をした男性が入ってくる。この方がアダム先生かしら。
「キリエ君、オルカ君、彼がアダム先生だ」
合っていたわ。
「初めまして、アダム先生。よろしくお願いします」
オルカが先に挨拶をして、私もそれに続いて初めましての挨拶をした。
「初めまして。魔道具学のアダムだ。叡智の歯車舎という研究室の主任でもある。我が研究室は魔道具学専攻の者たちが集まり日夜様々な魔道具を作り出す為の研究を行っている。学院長先生から軽くだが話は伺っているよ。キリエ君の魔法を制御する為の魔道具を作りたいそうだね」
自信ありげに話す、声に張りのある先生だ。
「はい。ちょっと魔法が強すぎて不便しているのでなんとかならないかなと、横にいるオルカ君に相談したら私の魔力調整用のブレスレットを考えてくれて……」
私の言葉を引き継いで、オルカが続けて口を開く。
「色々魔道具の案はあるんですが、授業で実習をする時に万が一他の生徒に被害が及ばないとも限らないのでどうにか通常威力で魔法が使えないかと。これが最優先で作成したい魔道具なんです」
オルカの言葉に、アダム先生は納得した様子で頷く。
「ふむ、確かにそれは。他の生徒の安全を守るためにも重要度が高いな。他の魔道具の案も聞きたいのだがひとまずはキリエ君の魔力調整ブレスレットを形にしようか。それで、オルカ君はどのように考えている?」
アダム先生からの質問に、オルカは学院長先生に金庫を開けて貰って、鞄からノートを取り出す。
「これなんですけど……」
ノートのページをめくって、昨日私に見せてくれたブレスレットのページをアダム先生に見せる。
「ふむ?……魔力の流れを根本的に変える……?」
ノートの記述をまじまじと見つめるアダム先生。
「はい。キリエの魔力の流れをずっと観察してたんですけど、どこか俺達とは別の場所からも供給されているみたいで。そこをこのブレスレットのスイッチで切り替えて、仮の魔力回路を作って体内だけで巡るようにする、というものです」
「それは……。この理論、機構……全て君が考えたのか」
アダム先生の興味はオルカの説明した仕組みよりも、ノートの中の記述に向いていた。続けてオルカが説明をするけれど、先生の目はノートに釘付けになっていた。
「はい。原案はキリエの、ファイアーボルトを一般的な威力で使えるようになる指輪だったんですけど、それじゃあ他の魔法に対応できないので俺が発展させてこのブレスレットになりました。一応学院長先生から聞いた模擬戦用の威力を抑える魔道具の応用をしたつもりですが」
「いや、これは全く別物だ。そもそも模擬戦用魔道具は聞いた話でしかないだろう?それの機構は私もよく知っているが、このブレスレットはキリエ君専用という限定的な用途ではあるが、魔力を余すことなく繊細に扱えるよう緻密な計算がされている。これは他の魔道具にも応用出来るぞ。……オルカ君、どうだ、我が叡智の歯車舎の一員にならないか」
アダム先生は興奮した様子でオルカのノートを読んで、さらにオルカを勧誘してきた。
「逆にアダム先生が俺等の傘下に入りませんか?キリエが生み出す叡智の歯車として」
そう言いながら、オルカが怪しく笑う。見た目には爽やかな微笑みだけれど、その目の奥にはシンとして、神としての底知れない輝きが宿っていた。
「あ、ああ……それは魅力的な提案だ。これだけの頭脳を持つオルカ君と研究を共にできるのなら」
「まあ、考えておいてください。俺も先生のような専門性を持つ協力者が居てくれると助かるので」
オルカの挑発のような言動に、アダム先生は熱に浮かされたような反応を示した。
シンは何か強制力でも働かせたのかしら……。そうでないとしても、この先生なら落ちそうな気もするけれど……。
オルカはアダム先生の手からノートを取り上げると、それをまた自分の鞄にしまう。
「学院長先生、アダム先生にどこまで話してあるんですか?」
振り返り、学院長先生に尋ねるオルカ。
「キリエ君のブレスレットの話しかしていないよ」
学院長先生は相変わらず優しい声で答えた。
「わかりました。それで、アダム先生。このブレスレット、作るのにどれくらいかかりますか?」
「そうだな、試作も兼ねて数日は見ておいた方が良いだろう。今日の午後は授業が無いから昼食後すぐにでも取り掛かれる」
「ありがとうございます。それじゃあ午後になったらそちらにお伺いします」
アダム先生が学院長室から出て行ったあと、オルカはまた応接テーブルのソファーに腰を下ろしてノートに向かっていた。
私もまた、魔導書を開いて何か無いかな、と考え始める。
「あなた達、本当に熱心ね」
イレーネ先生も、向かいのソファーでお仕事を進めながら私達に声をかけてくる。
私とオルカの応用魔力学研究室は学院長先生とイレーネ先生もその一員ではあるから、こうして共に過ごす時間が自然と多くなっていた。
「二人とも、少し休んだらどうかな。今朝もオルカ君は食事をとるまでずっと眠たそうだったから、体調が心配だよ」
そう言いながら、学院長先生はまたお茶を淹れてくださった。今日のお茶はふわっとしたお花の香りがする。
「あー……。そうですね。午後からまた忙しくなりそうですし」
オルカはペンを置いてお茶を受け取り、カップに口をつけた。
私も魔導書をテーブルに置いて、イレーネ先生が出してくださったお菓子に手を伸ばす。
クッキーと飴とマシュマロ。今日はマシュマロから食べる。柔らかくて弾力のあるそれは口の中でとろけながその甘さを私に供給してくれた。
そうしていたら、カップを置いたオルカが手を握ってきた。
「オルカ、先生達の前よ」
「休んでって言われたからこれくらいなら良いかと思って」
向かいに座る先生方は私達の様子を微笑みながら見守っていた。




