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46話 鈍い眠気

「キリエ君、オルカ君、おはよう。もうすぐ朝食だよ」

 誰かから名前を呼ばれ、私は眠りから覚める。目を開けるといつもの学院長室。

 まだぼんやりと眠たい中、私は体を起こす。

「おはようございます、学院長先生」

 声の主、学院長先生は私を見て優しく微笑んでいた。

 オルカの方を見ると、まだ眠っている。

 野外実習の期間、連日密度の濃い日々を過ごしていたから疲れが溜まっているのかもしれない。私も今日は先生に起こしてもらうまで目が覚めなかったし。

「オルカ起きて、朝だよ。もうすぐ朝ごはんだって」

 私の呼びかけに、オルカは形の良い眉を顰めながらゆっくりと目を開く。

「おはよう、キリエ……」

 まだだいぶ眠たそうだわ。

 オルカは世界の調整もしてるから、もしかしたら私よりも負担は大きいのかもしれない。

 単に今朝は寝起きが悪いだけかもしれないけれど。

 昨日はオルカの方が早起きしてたものね。

「オルカ君もおはよう。朝食は時間が迫っていたからこちらで注文させてもらったよ。いつも通りのメニューでよかったかな?」

「……おはようございます、学院長先生……」

 気だるそうに体を起こしながら、オルカも先生に朝の挨拶をした。

「はい。私はお肉料理で大丈夫です」

「俺も……」

 私に続いてオルカも欠伸をしながら同意をする。

「眠たそうだね。顔を洗ってくると良い」

 学院長先生に促されて、オルカはベッドから降りて立ち上がる。私もベッドから降りて、オルカと一緒に廊下へ出ようとする。その手前で、学院長先生はタオルを二つ差し出してくれた。


 学院長室から少し歩いたところに水道はあった。

 先にオルカが蛇口を捻り、両手で水を掬ってそこに顔を浸す。そのまま何度かまた水を掬っては顔を洗って、蛇口を閉じた。

 私が差し出したタオルで顔を拭いて、まだ眠そうな様子でもう一枚のタオルを預かってくれた。

 私も顔を洗って、オルカの差し出してくれたタオルで水気を取る。

「だいぶ眠たそうだね。大丈夫?」

「んー……食事すれば目が覚めると思う……」

『肉体があるのは不自由だな』

 いつものシンのテレパシー。シンも私と同じようにこの世界での肉体の扱いに戸惑ってるのね。

 私もカズ村の宿屋で、ドキドキしすぎるからとレイラの意識に切り替えて逃げようとしたらオルカに封じられてしまった。

『そもそも他人に囲まれるのに慣れてないからな……』

 この世界の人達は、私達の被造物だとしても確かに生きている。だからこそ、オルカは他者に興味がないし、私は出来る範囲で力加減をしないとならない。

『シン、貴方オルカとして振る舞うの疲れる?』

『いや、その程度で疲れたりはしない。やる事が多いなとは思うが』

 彼がいくら万能とはいえ、自らすすんで人の世話をするわけでもない。

『眠気の原因は連日の研究による疲れだろうな。キリエのように肉が食えればまだマシになるだろうが……』

 食肉をどういう扱いで存在させてるのか分からないけれど、栄養が不足してるのかしら……。

 けれど、彼の状態としては、意識ははっきりしてるのに身体がついてこない、という認識で良いらしい。

『肉は生命エネルギーが多く含まれている。ただ、俺がそれを取り込むのは自分の中に不純物が入るようで合わない。食ったら吐くだろうな。母乳ですら吐いていた』

 ああ……私の本質の混沌の部分で塊のお肉を食べても平気という事なのかしら。

 シンにとったら他者のエネルギーによって自身の本質である秩序が侵されるから無理、という事みたい。


 学院長室に戻って、応接テーブルのソファに腰かける。

「オルカ君はまだ眠たそうだね。無理せず座っていてくれ。二人に良い話があるんだ。今朝の職員会議の後に魔道具学を専門に研究しているアダム先生と話がついてね。君達の研究を手伝ってもらえることになったよ」

「そうなんですか?ありがとうございます」

 学院長先生の言葉に、私が答える。オルカは少し目を閉じては開くことを繰り返していた。

「……ということは、キリエの魔力調整ブレスレットを作り始められるってことですか」

 オルカも眠そうな声で学院長先生に言葉を返す。

「そうだね。朝食後にイレーネ先生も交えて話をすることになったよ」

「……それは良かった」

 オルカ、眠気で頭の回転がにぶそう……。


 そして、そうしているうちに扉がノックされ、朝食が届いた。

 私と学院長先生で配膳をして、オルカはぼんやりとした様子のまま先に食事を始める。

 オルカの飲み物だけミルクではなく果実のジュースに変わっている。それを一口飲んだ彼の目に少し輝きが戻ってきた気がした。

 私も朝食に手を付け始める。

 小さくカットされて焼いてあるお肉をパンに乗せて口に運ぶ。ソースも相まってとても美味しい。

 オルカの様子も本当にだんだん目が覚めてきたようで、表情も通常通りしっかりした様子に戻っていた。


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