45話 夕食
話は進んでいき、野外実習の残りの期間どうするか、という流れになっていった。
「三日後にキリエとのペアリングが届くのでそれまでは魔道具制作の方にも時間を割きたいです」
「そうだね。魔道具は君達の応用魔力学研究室の要の一つだ。明日の職員会議の前か後に魔道具研究の先生にも話をしよう」
「それ、俺とキリエも立ち会ってもいいですか?」
急に私の名前が出て、ちょっと驚いてしまう。でもそうか、私のあったらいいなリストから始まったのだものね。
「勿論。少し早起きしてもらう事になるが良いかな?」
「はい。もしその時間に起きてなかったら起こしてください」
オルカのお願いに、学院長先生は笑顔で頷いた。
「で、ペアリングを受け取ってまだ余裕があったらなんですけど……。カズノ遺跡と同じような異変が色々な地域で起こってるみたいなんです」
少し神妙な風で語るオルカに、先生達は緊張したような面持ちになる。
「それは……何故わかるんだい?」
当然の疑問だった。オルカと私は野外実習で少し出たきり、ずっと学院内で過ごしている。しかも、ほとんど学院長先生と同じ部屋で。
「実習に行く前、行き先を決めた時に、地図上のカズノ遺跡周辺や他の色んな地域に揺らぎのようなものが見えて。それで、実際に行ってみたらあの魔導師が居ました」
オルカの言葉に先生達は顔を見合わせた。
「たしかに、色んな地域で問題が起こってるって聞くわ。ある地域では原因不明の帯電現象が起こっていて誰も近づけなかったり、ある場所に行くと必ずカップルが別れてしまうという噂があったり……モンスターが狂暴化している地域もあるみたいで」
「学院や魔導院でも調査が行われてはいるけれど、どれも原因不明でね。魔導院から聞いた話ではカップルが別れるという場所に行った調査団はその後険悪な仲になってしまっていたりもしたらしい」
これは、そのカップルが別れるという場所を一番に調査して解決しろという流れなのかしら……と何となく考えた。
「魔道具制作がどれくらいの期間になるか分かりませんが、もし時間があればその地図上の揺らぎについて俺達で調べてきたいと思ってるんですけど……駄目ですか?」
オルカの言葉に、学院長先生は即座に反応する。
「それはまだ許可が出せないな。君達の安全が第一だ。学院は生徒達の安全を守る義務がある。それに、君達は今重要な研究を進めている最中だ。そう簡単に危険な場所への外出を許可する事は出来ないよ」
その言葉に、オルカは安心したように微笑んだ。
「そうですよね。学院長先生ならそう言ってくれると分かっていました。ただ、地図上の揺らぎについては俺もキリエも懸念している事ではあります。何か解決が出来ればなと思うのですが……」
「その揺らぎというのは、カズノ遺跡にはまだ生じているのだろうか」
学院長先生は考え込むように腕を組んだ。
「いえ、それは昨日の午後教室で地図を確認したんですけど、解消されていました」
私が答えると、学院長先生は驚いたような顔を見せる。
「なるほど。そうだね。揺らぎについては今後の課題としよう」
その日の夕食は、先生方が考え込む形で静かに終わっていった。
夕食後は、学院長先生から魔導書をお借りして読む時間に充てた。
この世界の魔法の様子は大体わかったけれど、もう少し何か知識が得られないかと思って。
「そういえばオルカ、私が魔法を普通の威力で使えるようになる魔道具ってどういう仕組みなの?」
「ああ、それな。特定の動作をすることで魔道具が反応して威力の調整がされるような感じだよ」
そう言いながら、オルカは自分の研究ノートを私に見せる。
利き手にはめるブレスレットとして書かれているその魔道具は、私が左手で宝珠に触れる事で機能のオンオフが切り替えされるようで、オンの時には私がいくら魔力を使おうと、通常の威力でしか魔法が発動しない仕掛けがされているらしい。
「模擬戦では魔道具で魔法の威力を抑えるって学院長先生が言ってたからそれを応用すれば作れるんじゃないかと」
それよりも少し複雑な回路になるけどな、とオルカは笑う。
「キリエさんが私達と同じくらいの力で魔法を使えるようになったら、デコイもその度に召喚しなおさなくてよくなりますね」
「そうですね。手間が減る分研究が進めやすくなります」
イレーネ先生の言葉にオルカが答える。
研究の為の会話をしながら魔導書を読み進め、夜も遅くなってきたのでイレーネ先生は職員宿舎へと帰っていった。
「そろそろ私も休もうかな……」
魔導書を閉じて傍らに置き、私は座ったまま伸びをする。
「キリエが寝るなら俺も寝るよ」
オルカも読んでいた魔導書を閉じ、立ち上がって私の読んでいたものと合わせて学院長先生の机に置いた。
「お疲れ様。ノートと荷物を預かるよ」
学院長先生は私達からノートと鞄を受け取ると、金庫にしっかりとしまって鍵をかける。
「ありがとうございます。それじゃあおやすみなさい」
「学院長先生もお疲れ様でした。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ、良い夢を」
学院長先生と挨拶を交わすと、私とオルカは室内の一角に設置されている簡易ベッドに上がって横になった。
眠る前にまた、オルカと視線を交わす。微笑みあって、静かに目を閉じた。




