40話 宝石加工師
学院長先生が出て行くと、オルカは私の両の手を取った。
私の手を見つめて、彼の指先で指を撫でられる。
「どの指がいいかな」
「結婚するわけじゃないから右手の薬指とか?」
私の提案に、少し考える様子を見せる。
「そうだなあ……利き手よりは反対の手が良いと思う。左手中指はどうだ?」
「そうね。そうしましょうか」
「決まりだな」
そうか、指輪のサイズを測って貰わないとだものね。
少し待っていると、話し声と共に学院長先生が戻ってきた。
見知らぬ女性が一緒だった。綺麗にカットされた金髪に緑色の瞳の美しい細身の女性だった。
学院長先生はその女性を会議室内に案内すると、それでは私は学院長室にいますので、と出て行ってしまった。
「おはようございます、初めまして。わたくし、宝石加工師のエレナ・ルブランと申します。今日はペアアクセサリーのご依頼と伺って参りましたわ」
「初めまして。キリエ・オランジュです」
「初めまして、ルブランさん。オルカ・フェールと言います。今日はおれ……じゃなくて僕からのお願いで隣のキリエさんとのペアリングを作っていただきたくて」
慣れない感じで丁寧な喋り方をするオルカに、エレナさんは微笑んだ。
「いつも通りに話してくださって結構よ。普段のお二人の様子を見て自然に似合うデザインにしたいから。わたくしの事もエレナと呼んでちょうだいな」
「あ、はい。じゃあ、えっと、エレナさん。急なお願いで何なんですけど、キリエとのペアリングが欲しくて、腕の良い宝石加工師さんを探していたんです」
エレナさんの言葉に、オルカの調子がいつも通りに戻る。
「あら、腕が良いだなんて嬉しいわ。うふふ。珍しい宝石をお持ちだって聞いたけれど、見せてくださる?」
「はい」
オルカは鞄の中からアクアサファイアの原石を取り出してエレナさんに見せた。
「あら、こんな大きなアクアサファイア何年ぶりに見たかしら……これ、本当に指輪にしちゃうの?大きさ的に宝珠とかにした方が良いわよ」
手のひらで転がせるくらいの大きさだけど、それでも結構大きいみたい。
「うーん、やっぱりそうですよね。じゃあちょっと待ってください。他にも小さめの宝石いくつか持ってきたので」
そう言いながら、オルカは鞄の中から小さな巾着袋を取り出す。
その中身、カズノ遺跡に行ったときに拾った小さな宝石を手の平に出していく。
「あらあらいっぱい。ちょっと待ってね、トレーを出すわ」
そう言ってエレナさんは自分の鞄から、宝石用の内側が滑らかな起毛素材になっているトレーを取り出して、机に置いた。
オルカはそのトレーに手の平の宝石を全て移して、均等に広げる。
「どれが良いですかね」
「そうね、ペアアクセサリーにするのなら、同じ種類の石か、好きなカラーの石が良いけれど……ちょっと待ってね、カラーで分けるわ」
慣れた手つきでエレナさんは色別に分類していく。
その中でも同じ種類の石はペアを作って並べられていった。
「できた。キリエさんはお好きな色はある?」
エレナさんの言葉の色とカラーの使い分け、多分だけれど、石や素材の色のことはカラーと呼ぶのだろう。
「私は白か青が好きです」
「ふんふん。オルカさんは?」
「俺も白と青が好きです」
「なるほどね。それじゃあ最初にご依頼いただいたアクアサファイアと同じブルーにしましょっか」
青系の石以外が一か所にまとめられる。そして、何個かの青い原石を確かめ始める。
「ちょっと待ってねー。あ、小さめだけどアクアサファイアの原石あるわね。これにする?」
「はい。お願いします」
その中でも状態の良いアクアサファイアを二つ選別して、もう一つ取り出した小さなトレーに移すエレナさん。
「どんなデザインが良いとかご希望はある?」
「学生がつけてても違和感のないようなシンプルなのが良いです」
「ふんふん。キリエさんは?」
『私も希望出して良いの?』
『構わない。何かあるか?』
私は少し考えて、答える。
「リング部分に光沢のないのが良いです」
「マットな感じね。出来るわよ」
エレナさんはメモ帳に私達の希望を書き込んでいく。
「いいわねいいわね。それじゃあこの二つの石をお預かりして作らせていただくわね。次はリング部分のカラーだけど、何色にする?アクアサファイアに合わせるのならブラックかシルバー辺りが良いと思うわ」
オルカは私の手をじっと見つめて少し考えている様子。
「黒かなあ」
「目立たないのならシルバーの方が良いんじゃない……?」
「どうせ俺等が付き合ってることみんな知ってるし」
それもそうか。
「どっちにする?」
エレナさんは私達の様子を見てにこにことしている。
「黒かな」
「黒で」
私の言葉を受けて、オルカが再度黒を指定する。
「ブラックね。わかったわ。それじゃあ最後にリングサイズを測らせてちょうだいな」
そう言ってエレナさんは鞄からチェーンにリングがたくさんついたものを取り出した。
「どの指にする?」
「俺もキリエも左手の中指でお願いします」
「はぁい」
オルカが左手を差し出すと、エレナさんはいくつかのリングをオルカの中指にはめてサイズを確かめていく。
「ふんふん。オルカさんはこの号数ね。キリエさんも測らせてね」
エレナさんがメモを取るのを確認すると、私も左手を差し出した。いくつかのリングがはめられ、ちょうど良いサイズのが見つかる。
「この号数ね。ありがとうね」
私のリング号数もメモして、エレナさんは鞄から空の小さな宝石ケースを取り出した。
そこに、小さいトレーの上のアクアサファイアの原石二つを丁寧にしまった。




