39話 今日の予定
脱衣所を出るとオルカが待っていてくれた。
「お待たせ、オルカ」
「おかえり、キリエ」
合流した私達は、学院長室に戻った。
入る前にコンコンとノックし、ドアノブに手をかける。ギィ、と低い音を立てて扉が開く。
「おかえりなさい、キリエ君、オルカ君。もうすぐ朝食だよ」
「ただいま戻りました」
「学院長先生、タオルありがとうございました。お借りしました」
オルカも学院長先生からタオルを貸してもらったみたいだった。
「うんうん。役に立って良かった。さて、お二人は朝食は何にする?」
「私はいつも通りお肉料理でお願いします」
「俺もいつも通りで」
私達の答えに、学院長先生は笑顔で頷く。そしてマジックレターで食堂の職員さんに連絡を飛ばした。
「今朝はイレーネ先生は授業の資料作成があるから別になるよ」
そう言いながら、学院長先生は金庫を開けて私達の鞄を取り出してくれる。
お礼を言って受け取り、中からノートを取り出す。
私は、何を書いたっけ、と思いながら開いて見返してみる。複合属性魔法の案が色々と書かれている。
呪文の案だけでなく、この属性とこの属性を組み合わせたら面白そう、みたいな事も書いてあった。
一晩置いて見てみると、いくつか説明どおりにはいかない組み合わせがある事に気が付く。検証しながら書き出したわけではないからいくつかは想定通りの発動はしなそうだった。
私はソファに座って、食事が届くまでに、一つずつ確認をすることにした。
イメージの中で動かしてみて、想定通りに発動出来ない魔法に印をつけていく。
オルカも隣に座って私の様子を眺め始めた。
「そういえばオルカ君、朝話したとおり、今日の午前中には宝石加工師さんが来てくださる。朝食を終えて少しした頃になるだろうね」
「そうなんですね。ありがとうございます」
ペアリングを作ってもらうって言ってたけど費用はどうするんだろう。と何となく思う。
「本当に魔力鉱石一個で作ってもらえるんですか?」
私の心配をよそに、オルカと学院長先生は話を進めていく。
「ああ。この前の収集品の魔力鉱石はとても価値のあるものがだから、それを費用に充てられるよう交渉しておいたよ」
「良かったです。言い出したもののもしお金足りなかったらどうしようって思ってたんですよ」
『って話だ』
オルカからのテレパシーで思わず吹き出してしまいそうになった。
やがて、食事が届いて、私達は応接テーブルで朝食を囲んで座る。
朝からお肉のソテーが食べられるこの学院の食堂はとても良い。
スープから口にしながら、私は何となく学院長先生のトレーを見た。
今朝はフルーツサラダのセットにしたみたい。
「キリエ、ミルク飲んでくれ」
昨日の失敗から学院長先生に無理をするなと言われ、オルカは普段通りに私にミルクを渡してくる。
「うん。オルカもお水どうぞ」
ミルクと交換で、私はポーションの魔法で作ったお水をオルカの前に置く。
小瓶に入ったミルクを一口飲んで、パンをちぎって口へ運ぶ。
「ありがとう」
学院長先生は私達のやり取りを微笑ましそうに見つめていた。
朝食をとり終え、廊下のワゴンに空いた食器を乗せておく。
オルカは鞄の中からテーブルの上に魔力鉱石を何個か取り出して、どれにするかと並べて見ている。
「いつ持ってきたの?」
「今朝早く起きたからその時に。特別に転移魔法の許可貰って行ってきた」
転移魔法のワープは一度行った場所になら何度でも一瞬で移動できるというものだ。呪文書で転移する場合はその呪文書に行き先まで指定されているから、行った事が無くても人から貰ったりすれば使える。
学院内の移動での使用は転移先での衝突の危険性があるため禁止されている。けれど、オルカの自室との行き来だけなら、という事で許可してもらったらしい。
『俺の部屋も個室だからな』
行ったことのある場所にしか行けないので、当然お互いの寮の部屋には行けない。
『そうなんだ。知らなかったわ』
『他人が居ると面倒だしな……』
相変わらずオルカは他者に興味が無いようだった。
「そうだね。キリエ君も寮の自分の部屋との行き来だけなら学院長室内からなら許可しよう。その方が何かと便利だろう」
「良いんですか?ありがとうございます」
また新しく特別な許可をいただいてしまったわ。
そうしている間にも、少しずつ時間が過ぎていく。
オルカはどの鉱石にするか決めきれないようで、結局加工師さんにどれか選んでもらうことにしたようだった。鞄に一つずつしまわれていく。
「そろそろ会議室に移動しようか」
学院長先生の一声で、私達は部屋を移動することになった。
「はい。キリエ、行こうか」
「うん」
私は鞄にノートをしまって、学院長先生に促されるまま金庫に鞄を預けた。オルカも自分のノートを金庫に預ける。
学院長先生がきちんと金庫の錠がされていることを確かめると、私達は廊下に出た。オルカは鉱石類を入れた鞄を肩から掛けている。
会議室は職員室の隣の部屋。
学院長先生が会議室の鍵を開け、三人で中に入る。
それから少し待っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します。学院長先生、お客様がいらっしゃいました。職員室へお願いします」
空いた扉から他のクラスの先生が顔を覗かせる。
「はい、今行きます。それじゃあオルカ君、キリエ君、少し待っていてくれ」




