38話 四日目
野外実習期間の四日目の朝。
私は窓からの朝の明るさで目が覚める。
学院長室の一角に設置してもらった簡易ベッドで私とオルカは実習期間中他の同級生が帰ってくるまで寝泊まりしている。
横のオルカの方を見ると、彼はベッドに座って私を見ていた。
「おはよう、キリエ」
「おはよう、オルカ。今日は早起きだね」
実習でカズ村に行った時も、昨日も、オルカは私より遅く起きていた。
「早く起きたからキリエの寝顔を見てた。可愛かったよ」
寝顔をじっと見られていたという事に、頬が熱を持つのを感じる。
寝転がったまま学院長先生の姿を探すけれど、今朝も部屋には見当たらなかった。
「学院長先生なら職員会議だよ」
「そうなのね」
「キリエが起きたら風呂に行くって伝えてあるんだけどさ」
何か含みを持たせるような言い方のオルカ。
「うん?どうしたの?」
「いや……本当に良いのかわからないんだけど職員宿舎の風呂を使ってくれても良いって。寮に行くより近いからってさ。話は通してくれてあるらしい」
オルカの言葉に驚きが隠せない。まさか職員宿舎まで立入許可が出るなんて。だいぶな特権な気がする。
「でも着替えを持ってきてないわ」
「それなんだけど、職員宿舎の風呂の脱衣所ロッカーには俺たちの寮のクローゼットと同じ機能があるらしい。先生達急がしいから部屋に戻れない時用に作ったのかもな」
寮の部屋のクローゼットは入れたものが自動で綺麗な状態になるような魔道具だ。
寮の部屋というだけあって、寝具も入れれば次に開けた時には綺麗な状態になって取り出せる。
自動と言っても、一度自分の手で扉を閉める必要はある。
「それなら行こうかしら」
私は起き上がってベッドから降りる。
立ち上がって伸びをして、同じように立ち上がったオルカと一緒に学院長室を出た。
『ノートや鞄は俺達が部屋を空ける時の為に金庫にしまわれてたから心配ない』
『そうね。極秘扱いだものね』
テレパシーでやり取りもしつつ、職員用の昇降口を出てそのまままっすぐ進み、職員宿舎へ入る。
入り口に居た警備の職員さんに生徒手帳の提示を求められ、私とオルカはポケットから生徒手帳を出して職員さんに見せた。
私達の生徒手帳を確認した職員さんは、お風呂は突き当りですよ、という案内も込みで笑顔で通してくれた。
私達はお礼を言うと、奥へ進んでいく。
「じゃあ一旦ここで」
「うん。また後で」
男性用と女性用のお風呂は当然分かれている。オルカと一度別れると、私は女性職員用の脱衣所に入った。
職員用の浴場も学生寮の設備とほぼ変わらない。違いと言ったら、私物を入れられるロッカーも備え付けられている事くらいだった。他の先生や職員さん達のお風呂セットがその窓から見える。
私は脱衣所の奥へ進み、服を脱いで畳んで、ロッカーに入れていく。そういえばタオル持ってきて無かったな、と思った。
ふと脱衣所のベンチを見ると、かごの中に綺麗な状態のタオルが置かれている。その上にはイレーネ先生の文字で、「キリエさんへ。使ってください イレーネ」と書かれたメモが乗っていた。
こんなところまで気遣っていただいて、ちょっと恐縮してしまう。
私は浴室用の小さめのタオルを手に取ると、ロッカーに鍵をかけて浴室へと向かった。
洗髪と洗顔を済ませ、体を洗いながら、そういえば水分補給をしていなかった、と思い出した。
ポーションの魔法でお水の小瓶を作り、一気に飲み干す。冷たくて美味しい。空いた小瓶はすぐさま消滅して、何事もなかったかのようになる。
引き続き体を洗っていく。シャワーで泡を洗い流すと、ちょっとお湯に浸かってみようかという気になった。
浴槽の方へ進み、タオルをつけないように気をつけながら体をお湯に浸していく。
温かくて気持ち良い。ここ数日の体の疲れが取れていく感じがした。
しばらくお風呂を堪能していると、オルカからテレパシーが届く。
『湯舟に浸かってるんだな。俺もこっちで入ってるよ』
相変わらずオルカの本体であるシンはどこからでも私の様子を見ている。
『お風呂気持ちいいわね。貸し切りな感じもなんかいいなあ』
『だなあ。俺はそろそろ上がるよ。キリエはもう少し入ってるか?』
『私も出ようかな。髪の毛乾かすのオルカより時間かかるし』
『了解。じゃあまた後でな』
会話はそこで途切れた。
私は浴槽から出ると、入り口の方へ歩いていく。扉の手前でタオルを絞り、体の水分を拭き取っていく。
浴室から出て、イレーネ先生が用意してくれた大きめのタオルでさらによく髪や体についた水分を取っていった。
ロッカーから服を取り出すと、脱いだ服は本当にしわも汚れもなくきれいな状態になって出てきた。すごいなあ職員宿舎。
着替えて鏡台の前に移動して、温風の出る魔道具で髪を乾かしていく。この魔同具も何か名前があるんだろうか。ドライヤーみたいな。と、前に降りた魔法の無い世界の道具を思い出す。多分温風扇とかそのくらいの名前だろうな。
そんな事を考えながら、備え付けの使い切りの櫛で髪の毛を整えていく。
そうしながら、使ったタオルどうしよう、と思う。
もしかして、と思いつき、髪を乾かし終わった後にロッカーに一度二つのタオルを入れてみた。
蓋を閉じて、もう一度開ける。
思った通り、イレーネ先生からお借りしたタオルは二枚とも綺麗な状態に乾いて出てきた。
すごいなあ職員宿舎。
私はタオルを取り出すと、先生が用意してくださったかごに戻す。
メモ帳とペンを取り出してその一ページに「お借りしました。ありがとうございました キリエ・オランジュ」と書いて、そのページをちぎってかごの中のタオルの上に乗せた。




