37話 お夕食
私達が話し込んでいると、扉がコンコンとノックされた。入ってきたのはイレーネ先生だった。
「失礼します。ただいま戻りましたわ。お食事も届きましたよ」
イレーネ先生の後に続いて食堂の職員さんが顔を覗かせる。
「失礼します。お待たせしましたー」
学院長先生はノートを畳んで机に置くと、職員さんが運んできた料理を応接テーブルに一緒に並べ始める。
「いつもありがとうございます」
学院長先生の労いの言葉に、職員さんは照れくさそうに笑顔を見せた。
「では、失礼します」
職員さんは深々とお辞儀をすると、扉を閉めて出て行った。
私達はまた、いつもの通りの席に座って夕食を囲んだ。
カレーライスを食べながら、イレーネ先生が口を開く。
「実習期間あと七日もありますね。お二人は何か他にやりたい事は?」
「学院の外に出るのってあんまりですかね」
玉子焼きを切り分けながらオルカが応答する。
「そうねえ……」
「どこか行きたい場所があるのかい?」
少し困った様子のイレーネ先生。
オルカの質問に、学院長先生は微笑んで問いかけてきた。
「前にモンスターから貰ったアクアサファイアを加工して貰いに行きたいなって思ったんですけど」
「宝石加工か。今は出来るだけ学院の外に出るのは避けて貰いたいが……それなら信頼できる加工師を呼ぼうか。用途は?」
「あ、いや……単にキリエとペアリングを作りたいなって……」
オルカの言葉に、イレーネ先生と学院長先生はにこにこと嬉しそうな笑顔になる。
「そうかそうか。それならすぐにでも連絡して明日来てもらえるようにしよう」
「ありがとうございます」
私はその様子を、頬に熱を感じながら見守っていた。
夕食後、教室で書いていたノートの内容はイレーネ先生にも共有された。
私のノートをまず見たイレーネ先生は、複合属性魔法の可能性に目を輝かせる。
「キリエさん、これ本当にすごいわ。複合魔法だなんて。発動イメージがこれだけ具体的に書かれているって、実現可能なのでしょう?この炎と氷の複合属性のものも」
「はい。実際どんな感じに発動するのかはやってみないとわかりませんが」
次に、イレーネ先生はオルカのノートにも目を通す。
「オルカさんのもすごいわ……。これ程の理論は王国最高峰の魔道具師でも到達できないレベルだわ……」
「オルカ君はノートが盗まれる危険性も考慮してフェイクを混ぜて書いているよ」
学院長先生が、オルカの先程言っていた嘘を織り交ぜている話を追加でしてくれる。
「そうなんですか?だとしても凄いわ……。フェイクを混ぜられるくらいの理解をしているのね」
「ありがとうございます。この解呪の指輪なんですけど、もし流通させるとしたら一度の発動で壊れる仕様でいいかなと思ってます。壊れないのも作れますけど、この指輪に使われている理論を完全に把握していないと作れません」
オルカの言葉に、先生方二人は息をのむ。
「……なるほど……。一度で壊れる仕様なら魔導院が持つ絶対抵抗の魔道具で状態異常が完全に防げる今はそこまで軍の需要は無さそうに見えるね。だけど壊れないものを作れるのなら……これは絶対に秘匿しなければならない」
「そうですね……。オルカさんがこの理論を持っているという事も秘匿しなければなりません。オルカさん、絶対に私達以外の人のいるところでこの話をしないでくださいね」
「はい。わかってます。その辺は徹底します。先生達も気を付けてください。探査が防がれているとはいえ誰が聞いているか分かりませんし」
そして、オルカは続けて言う。
「一番大事なのは、キリエがイメージの中でこの解呪の指輪の仕組みを完成させている、という点です。俺はそれを言語化したに過ぎません」
先生方の視線が一気に私に移る。急に私に話が移ってちょっとだけ怯んでしまう。
「……とにかく、キリエ君とオルカ君を私達が守らなければならない、という事がはっきりと理解できたよ。これは私達も気を引き締めていかないといけないね」
「そうですね。学院長先生」
学院長先生の言葉に、イレーネ先生は強く頷いた。




