36話 新しい魔法
オルカと時々言葉を交わしながら、夕方近くまで私達はノートに向かっていた。
そして終業のチャイムが鳴り、私達は顔を上げた。
「念のため一回ノートしまってくるよ」
「私も研究用のノートとメモ帳だけに荷物入れ替えてくるわ」
私は立ち上がって椅子をもとの位置に戻す。
そうして教室を出ようとしたとき、廊下を歩いてくるイレーネ先生と出会った。
「おつかれさま。後は先生が施錠しておきますからね」
「はい。ありがとうございます。荷物を置いたらまた学院長室に戻ります」
「はあい。また後でね」
私とオルカは一度寮に戻り、鞄の中を整理する。クッキーの空いた包みはごみ箱へ、教科書の魔導書と授業用のノートは机の上に。メモ帳とペン一本を制服のポケットに移動させ、残りの新しく買った研究用ノートと筆記具を入れた鞄を再び肩から斜めにかける。
部屋を出て施錠をして、寮の分かれ道へと戻った。
私が着くのとほぼ同時にオルカも着いて、他の生徒が食堂へと向かう中、私達は学院長室へ向かった。
学院長室の扉をノックし、ドアノブに手をかける。ギィ、と低い音を立てて扉が開く。
「お二人とも、おかえり。ゆっくりできたかな?」
相変わらず学院長先生は優しく笑みを浮かべている。
「はい。ゆっくりもしたんですけど、ちょっとだけ研究の事もやってきました」
「そうなんだね。それなら夕食が届くまでに少し見せて貰おうか。お二人ともいつものメニューで良かったかな?」
「はい。俺はいつも通りで」
「私もいつも通りお肉でお願いします」
昼食後からお肉が食べたくなってたから、夕食が少し楽しみだった。
学院長先生はマジックレターの魔法で食堂の職員さんに注文の連絡を飛ばした。
「ノートを持っていくのを忘れたので新しく買って書いたのですけど、私のはこんな感じです」
「俺のはキリエの考案した魔道具を作るとしたらこうしたらいけるんじゃないか、っていうのをまとめました」
それぞれからノートを受け取ると、学院長先生は中身を確かめ始める。
「なるほど、新しい魔法の案だね。予想される効果、か……これはキリエ君もまだ使ったことの無い魔法なんだね?」
「はい。こんなの出来るんじゃないかな、と」
「それにこの、複合属性魔法……今までの概念にはなかった魔法だ。これが実現したら一大発見になる」
目立つ目立たないの話ではなかった。これは流石に表に出たら魔導院に目を付けられるのでは。
でも、学院長先生が後ろ盾になってくれているから何故だか安心できる気がする。
「オルカ君のノートも見せて貰うよ。…………なるほど、この機構、たしかに理論的には可能だ。未知の技術ではあるが、自動解呪の指輪もあり得ない話ではないな。ただこれは……この魔道具は完成したとしても秘匿しなければならないな……。各国の軍がこぞって求めてくるだろう」
「それは俺も懸念していました。なのでこのノートが盗まれても良いよう、わざと噓を交えたり詳細に書いてない部分もあります」
「……なるほど。オルカ君はそこまで考えているのだね。秘密を守るという点でとても素晴らしい」
軍、と聞いて私は一つ気になったことがあった。王国軍や魔導院はこの学院を遠隔で監視していたりしないだろうか。
あの人達ならやりかねない。
「あの、先生。もしかして、実習室での新しい魔法の研究とかって、軍が探知したりしませんか?」
「それならば心配ないよ。生徒たちのプライバシーを守るという観点からも、この学院内は外部からの探知が利かないよう結界が張られているからね。直接訪れて見学したりしない限り漏洩する事は無いよ」
『今回の流れを継続するにあたって調整した』
学院長先生の言葉と、シンのテレパシーの言葉で私は胸を撫でおろした。
『お前が心配するような事は何も起きないから大丈夫だ。俺もついているから安心しろ』
『ありがとう、シン……』
シンへの感謝の言葉を伝えると、彼からは深い愛情の波が伝わってきた。それをキリエの身でもろに受け取ってしまい、一瞬視界が白くなりかける。
私は意識をしっかりと保ち、学院長先生に向けて言葉を続けた。
「良かったです。そういえば前に王国軍の魔導師部隊から招待状が来たんですけど……」
「あの件だね。将来有望な生徒が居たら魔導院に報告する義務があるのだけど、今はもう、君達の事は徹底して守る体制が作られているから心配ないよ。もしも生徒から君達の噂が漏れてしまう事があったらその時は私達が君達を守る。勿論研究室での研究内容はイレーネ先生も含めて私達四人だけの秘密だ」
本当に心強い言葉を学院長先生からいただいたわ。




