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35話 教室で

 ふと、視線を感じてオルカの方に顔を向ける。視線が合った。

 オルカは私の瞳の奥をじっと覗き込むように私を見ていた。

「どうしたの?」

 そのまま私は抱き寄せられ、唇を重ねられる。短時間だけのキスだったけれど、唇が離れた後もオルカは間近で私をじっと見ている。

「オルカ……」

「好きだよ、キリエ」

 そう言って微笑むオルカからは好き以上の感情が伝わってくる。

「私も……好き、オルカ……」

 その言葉を聞いて満足したのか、オルカは私の体を解放した。

 頬に熱を感じながら、私は座りなおす。


「二人きりで過ごすとあんまやる事無いな」

 オルカがぽつりと呟く。

 それは『元の場所』での私達の過ごし方もそうだった。こうして寄り添っているか、彼に抱かれているかのどちらか。その癖が抜けていない。

「研究の事でも考えましょうか」

「それが良いかもな」

 私とオルカは鞄から先程買ってきたノートと授業で使っていたノートを広げる。授業ノートの方を一通り見直すと、黙ってお互い交換した。

 オルカの授業ノートは板書に対しての疑問点とその答えが、この世界を創ったシンの立場で書かれている。

 これ、先生に見せたらまずいんじゃないかと思う。

「キリエのノート、すごい丁寧だな」

「貴方のノートはこれ大丈夫なの?もし提出求められたら……」

「ああ、それか。俺の認識が書かれいないコピーも作ってある。これはお前に見せる為に持ってきた」

 そう言って、オルカはもう一冊同じノートを取り出した。受け取って開いてみると、板書の写しだけだった。

「提出の時に間違えないようにね」

「万が一間違えたら戻す」

 提出ミスまで世界の流れを巻き戻して完璧を求めるのね、この人は……。

 オルカのノートのシンの書き込みを見ていると、世界の仕組みを完全に理解している様子が克明に書かれている。

 私の力には触れられていなかったけれど、それでも新しく魔法を組み立てる為の手助けにはなった。

「ありがとう、参考になったわ」

「ん。なら良かった」

 授業ノートをお互いの手元に戻して、鞄の中にしまいなおす。


 私は新しいノートに、新規魔法案と書き込んだ。

「ねえ、シン。この世界に炎と氷の複合属性の魔法って存在する?」

 私は彼の本当の名前を呼びながら尋ねる。

「今のところ無いな」

 つまらなそうに、オルカの口からシンの言葉が紡がれる。

 それなら、と思って私は複合魔法の案を書き始めた。

「ある程度の魔法理論はあるがそこまで魔法技術が発達していない世界だからな」

「それなら言葉の持つ力もまだ未解明の部分が多そうね」

「そうだな。彼等は呪文を魔法の効果を発動させるものとして認識してはいるが呪文に使われる言葉の持つ力についてはまだ理解しきっていない」

「……なるほど」

 ブレイジングアイシクル、イリュージョンフレアとか、呪文として使える言葉を組み合わせた複合属性魔法を書いてその予想される効果を簡単に書いていく。

 まるで魔法の無い世界での創作活動のように。

 これだけでも多分、先生方には新鮮に映るのかもしれない。


 いくつか書いた後、オルカの書いているノートを見てみる。

 可能性として、とは書いてあるけれど、私が通常威力の魔法を使えるようになる魔道具の仕組みを色々と書いているみたいだった。

「ねえ。もし私の魔力と反応する形の魔道具だと破裂するかもしれないわ」

「キリエが心配しなくてもちゃんとそこも考えてる」

 彼の口調はオルカとしてのものに戻っていた。

「ついでに言うと、既存の魔法に使われる言葉以外はキリエが『あると仮定』しない限りこの世界で魔法として発現する事は無いよ」

 ノートを書きながら、さらっと重要な事を言うオルカ。

「だからキリエが王都を破壊したメテオの呪文も、今はまだ発見されてない。一度使ったから存在はするけどな。その辺は俺が上手く調整する。使用できなくする事も可能だ」

「そうなのね。一度封印しておきましょうあれは……危険すぎるわ」

「了解」


 それから私は、教室に置いてあるこの地域の地図を取りに行って広げた。野外学習の前に目的地を決めるために配られたのと同じもの。

 実習で行ったカズ村周辺の揺らぎはなくなっていた。

 その地図上で揺らぎが発生している部分に指をあてて意識を向け、何が起きてるのかを把握しようとしてみる。

 帯電、モンスターの狂暴化、人同士の諍い等、場所によっていろいろな事が起きているみたいだった。これも大きくなる前に何とかしなきゃなのかな、と思いながら、私は地図をもとの場所に返した。


 オルカの隣に戻り、再びノートに向かう。学院長先生の部屋で読んだ魔導書に無かった言葉を使った呪文も、先程書いた中に含まれているのを確認した。

 今まで読んだ魔導書の中での大体の属性魔法には、ファイヤー サンダー アクア アースの四つの属性が呪文として使われている。それ以外の言葉で修飾されている魔法はアイス、ホーリー、ダーク以外にはほとんどなかった。

「ヘヴンリィの概念は解放されたのよね」

「そうなるな。扱い方は他の魔法と違うみたいだけどな」

「これは私がホーリーエクスプロージョンと唱えない限り変わらないのよね」

「その認識で合ってるよ」

 世界を創りながらそこで暮らすというの、やったことが無かったから新鮮だわ。

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