34話 午後の過ごし方
私とオルカは学院長室を出て寮へと向かっていた。
ずっと人に囲まれていたから一人の時間が欲しいのもあったけれど、鞄の中のクッキーも気になっていた。
職員室の前を通り過ぎたころ、オルカは自然に私の手を握る。私もオルカの手と指を絡めて繋ぐようにして、寮への分かれ道まで歩いた。
「それじゃあまた後でね」
「ああ。また後で」
分かれ道の少し手前で数秒だけ別れを惜しむように見つめあうと、それぞれの寮へと歩き出した。
自室に着くと、私はベッドに倒れ込むように寝転がった。思い切り伸びをして、突っ伏す。
そのまま少しだけ体を横たえる。目を閉じ、全身のバランスを整えるように魔力を巡らせる。そうしていると自然に精神的な疲労も肉体的な疲労も回復していった。
「よし……」
全快したとみるや、私は起き上がって実習に持って出た鞄からクッキーを取り出す。
あ、でも。鞄ごと持って行こうかな。
鞄の中を確かめる。ノートと授業で使う魔導書、筆記具、実習に持って出たナイフが入っている。
ナイフだけ鍵のかかる机の引き出しにしまって鍵をかけておいた。
クッキーを再度鞄に入れて、私はオルカに連絡をする。
『オルカ、出る準備出来たけれどどこで過ごそうかしら』
『そうだな……。図書館はまた研究の続きになりそうだし、ゆっくりするなら教室にでもいくか?』
『そうね。中庭だと目立つものね。そうしましょう』
学院の中庭は生徒の憩う場だけれど、授業中に行く生徒は滅多にいない。今は他の学年は授業中だった。一年生は皆野外実習に出ている。
『先生に教室使うって連絡入れとくよ』
『ありがとう』
オルカの言葉を聞くと、私は鞄を肩から斜めにかけて自室から出、鍵をかける。
再び寮の分かれ道へと足を進めた。
私の方が少しだけ先に到着して、オルカは少しだけ遅れて合流した。
「お待たせ。快諾してもらったよ。鍵開けておくってさ」
「よかったわ。行きましょうか」
オルカも肩から鞄をかけている。私と同じように考えたのかもしれない。
「行く前に購買寄ろう」
彼の言葉に頷いて、私達は校舎の一階にある購買部へ向かった。
購買部に着くと、オルカと私は文具の棚を見始める。ノート、メモ帳、ペンといった授業で使う基本的なものが色とりどりに揃っている。
私は白色の表紙のノートとメモ帳を一冊ずつ手に取る。オルカは空色のノートとメモ帳を手に取っていた。
「買ってくるわ」
「ああ。任せた」
オルカからノートとメモ帳を受け取ると、私は会計台へ向かった。
「これお願いします」
カウンターに品物を置くと、学生証の提示を求められた。
素直に提示する。魔道具で読み取りが行われると、店員さんはちょっと驚いたような顔をする。
「キリエさんご本人ですか!お会いできて光栄です!」
店員さんはそう言って手早く会計の手続きを手早く進めていく。私も学生証を再びポケットにしまってお財布を取り出す。
「あ、お会計結構です!成績優秀者のキリエさんとオルカさんは特別割引を適用させていただいているので!」
「そうなんですか。ありがとうございます」
オルカが実習前に言っていた「割引」ってこれの事だったのね。
私は品物を受け取って、お店の前で待つオルカのもとへ戻った。
「はいこれ、オルカの」
空色のノートとメモ帳をオルカに手渡す。
「ありがとう。割引されたろ?」
「割り引いてるっていうより無料だったわ」
私の言葉にオルカは笑う。
「なるほどな。俺の時はナイフだけは危険物だからっていくらか支払った」
責任をもって扱うように、という事なのだろう。
「クッキーは?」
「タダだったよ」
そうだったのね。
買った品物を鞄にしまうと、私達は教室へと歩き出した。
私達の1年2組の教室の扉の鍵は、確かに開錠されていた。
教室に入り、私達はオルカの席とその隣に座る。そのままだとちょっと離れているので少し椅子を寄せた。何となく、オルカが嫌ってる私の隣のライの席に座ってもらうのは気が引けた。
私は鞄からクッキーの包みを取り出す。二人の間に置いて、お水の小瓶も二つ作って一つをオルカの前に置いた。
「ありがとう。クッキー残ってたんだっけか」
そう言いながらオルカは包みを開けて一枚取り出し、口に運んだ。
私も一枚つまんで口に運ぶ。相変わらずとても美味しいこのクッキーは、口の中で甘くほろほろと解けていく。
しばらく無言でクッキーをつまみ、お水を飲んで過ごす。
「なんかここ数日濃かったな」
「そうね……なんだかフル稼働な感じだったものね」
ぽつりぽつりと話し始め、また無言の時間。
クッキーも残り少なくなっていく。




