33話 研究室
学院長室で昼食を囲む。
私は少し疲れたのでお肉料理ではなくてスイーツランチを先生に頼んだ。ケーキとハーブティーとフルーツサラダのセットだ。オルカはいつも通りに玉子料理を注文して貰っていた。
「キリエ君、オルカ君、お疲れさまでした。午後はゆっくりと過ごして欲しい」
学院長先生が私達を労ってくださる。
「ありがとうございます」
私はケーキをフォークで一口大に切り分け、口へ運ぶ。控えめな甘さのクリームが舌の上でとろけてとても美味しい。
「先生方も長時間お疲れさまでした。オルカもありがとう」
私から感謝を伝えられたオルカは、パンを咀嚼しながら私に微笑みかけた。
「いえいえ、私に付き合わせてしまっているものだからね。昨日から続けっぱなしでだいぶ疲れたんじゃないかい?」
「俺は平気ですけどキリエは大丈夫か?」
オルカが心配そうな視線を向けてくる。
「ちょっと疲れたけど少し休めば大丈夫よ」
そうは言ったものの、甘いものを欲するくらいには疲れていた。
魔力の消費は無尽蔵にあるみたいだから問題ないものの、長時間観察されていると精神的な負担がくる。
それでも、魔導院の監視とは本質的な違いがある。あっちは単に私を徹底的に監視して管理下に置くことを考えての行為だったけれど、ここでは学院長先生もイレーネ先生もオルカも私の事を本当に気遣ってくれている。
それを思ったら、何だか頬を伝うものがあった。
「キリエ?涙が……」
「キリエ君、大丈夫かい?……負担をかけてしまってすまない」
ぽろぽろと涙が止まらない。
「いえ、違うんです……学院長先生。先生方とオルカに気遣っていただけてることが嬉しくて……っ私……」
声を上げて泣き出す私の背をオルカがさすってくれている。
イレーネ先生はおろおろとしていたけれど、学院長先生は黙って優しく見守ってくれていた。
しばらくして涙が収まり、私はフルーツサラダのフルーツに再び手を伸ばし、フォークで口へ運んだ。
みずみずしい果実は甘酸っぱくてとても美味しかった。
「お騒がせしてしまってすみません。もう大丈夫です」
赤く腫れぼったくなってしまった目のまま、微笑んでみせた。
「それならよかったわ。キリエさんもオルカさんも、もし悩み事があったら抱え込まないで私にでも学院長先生にでも良いから相談してね。学院の先生方はみんなあなた達の味方よ」
「ありがとうございます。悩み事といえば……研究室の件なのですが……」
イレーネ先生の言葉も本当に暖かい。
そして私は、ずっと考えていた研究室のことを切り出した。
「どういうことを研究すればいいのかなって思って」
私の言葉に、学院長先生はにこやかに頷いた。
「そうだね、それを私もキリエ君達と考えていきたいと思っていたんだ」
そう言いながら、学院長先生は手に持っていた食器を置く。そして、改めて私とオルカに視線を向けた。
「まずは、キリエ君が感覚的に行っている魔法の発動方法を、万人に理解の出来る魔法理論に落とし込むことだ。例えば今日使ったファイアーボルトの分散。あれはオルカ君が言ったように、呪文による追加要素の付与で実現可能な事は今日の実験で立証された。私個人としてはキリエ君の創作魔法をヘヴンリィエクスプロージョンと同じように、我々にも実現可能な魔法にしていく事を目指していきたいと思っているよ」
学院長先生に続けてイレーネ先生が目を輝かせて口を開く。
「私はキリエさんのあったらいいなリストの魔道具を実用可能なものとして作っていく事に興味があります。学院には魔道具制作の授業もあります。それの発展形としてキリエさんのアイディアを形にしていけたら良いなと思っているわ」
先生達の言葉を聞いて、オルカは少し考えているようだった。
『どうしたの?』
『俺のやりたい事って何だろうなって思って。一応キリエと俺の共同研究室だろ?俺のやりたい事もやらないと不自然だろうなって思ってさ』
そういえば今回の世界ではオルカは私のサポートしかしていない。
そして少しして、オルカは顔を上げて口を開いた。
「俺は研究中のキリエの困り事を解決する手助けをしたい。キリエの苦手とする理論化を俺が受け持つ形で一緒にやろう」
三人の言葉に、私は自然と笑顔になった。
「ありがとうございます。私も色々やってみたいのでよろしくお願いします」
「それじゃあ、決まりだね。研究室名の希望はあるかい?」
「……応用魔力学研究室、とかどうだ?」
あ。それっぽい。私はオルカの案に乗る事にした。
「良いと思うわ。それじゃあ先生、応用魔力学研究室でお願いします」
私達の言葉を聞くと、学院長先生は微笑みながら頷いた」
「それじゃあ、食事を終えたら申請書を書いてしまおう」
話が長引いたけれど、私達はまだ昼食中だった。
私達は再び食事に手を付け、私はお肉が食べたいなと思い始めていた。
昼食後、学院長先生は研究室立ち上げのための申請用紙を持ってきた。
この用紙に私は研究目的である魔法の応用と理論化を書き込み、署名をする。オルカも私に続いて署名をして、学院長先生に提出した。
「うん。間違いないね。あとは研究施設の提供になるが、用意が出来るまではこの学院長室を使ってくれたら良いよ」
私とオルカは学院長先生にお礼を言うと、午後の時間を過ごすために一度学院長室を後にした。




