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32話 ファイアーボルト

 実習室へ移動した私達は、学院長室で話していた魔法の検証を始める。

 まずはまた学院長先生がデコイを三体召喚する。そのうち一体は動くものだった。

「さて、キリエ君。試しにあの動くデコイだけをファイアーボルトで攻撃してみてください。イレーネ先生、オルカ君、準備は良いですか?」

 研究者モードになった学院長先生がそれぞれに指示を出す。

「はい、学院長先生」

「俺も準備出来てます」

 学院長先生の問いかけへの返答を確認すると、私はデコイに向き直る。


「絶対当たるようにやれば良いですか?」

「はい。それでやってみてください」

 私はデコイに魔力でシールを貼るようにしてから、手の平に小さく魔力を集中する。それを呪文を唱えながら放り投げるようにデコイに向けて放つ。

「ファイアーボルト!」

 私の手のひらから放たれた炎は魔力のシールめがけて弧を描いてデコイに着弾し、一瞬で焼き尽くした。

 シールを貼ったのは、経路を作るより効率が良いかなと思ってのこと。

「なるほど。マーキングをしてそこに着弾するように……」

「マーキング、私も試してみましたけれど外れますねえ……」

 先生達の言葉にオルカは少し考えているようだった。

『どう?出来そう?』

 オルカも多分この方法で魔法を使えるはずだけれど、彼はあくまでも秩序を持ったルールの中で出来る事をするのだと思う。

『いや……これは人間には出来ないだろう』

 いろいろとシミュレーションしてみたようだったけれど、その結論に辿り着いたようだった。

「たしかに、自分の魔力を切り離してそこを的にするっていうのは俺達には難しいかも知れませんね」

「学院長室でキリエ君が言っていたように経路を作る方法も、出来なくはないが相当の集中力が必要になるな」

「意識を同時に二つ使うことになりますものね……」

 人の感覚だとそういう感じなのね。


「という事はやはり、キリエ君がモンスターの魔法も扱える能力によるものととらえて良いでしょうね」

 学院長先生の言葉にイレーネ先生も同意する。

 意識を同時に二つ、か……。私は主観でしかやっていないけれど、レイラとキリエの意識があると考えたらまあ、おかしくない原理かもしれないわ。


「次に、単体魔法を分散させる様子を観測させてください」

「わかりました」

 残り二つのデコイに向けて、私はまた右手に魔力を集中させる。それを二つに分離させ、それと同時にデコイ二つに魔力のシールを貼り、呪文を唱えて魔法を放つ。

「ファイアーボルト!」

 私の手から放たれた二つの炎はそれぞれのデコイに着弾し、焼き尽くす。

 私の魔力の流れをすべて観察されているのか……と少しだけ考えた。

「なるほど、先程の説明どおりですね。キリエ君、ありがとう。イレーネ先生、オルカ君、気づいたことはありますか?」

「中間試験の時よりも炎の勢いが強い印象がありました。的が半分の二つになったからでしょうか」

「先生のその認識で合ってると思います。俺が見てて思ったのは、狙うための制御の難しさですね。二つの的に当てなければいけませんし」

 三人は、それぞれの見解を話していく。


「そうですね……。少し、試させてください」

 学院長先生は再びデコイを二体並べて償還する。

 そして、右手に魔力を集中させる。見ていると、分裂した魔力は再び一つに融合してしまう事を繰り返していた。

 分裂したタイミングで学院長先生はデコイに向かって呪文を唱え、魔法を放った。

「ファイアーボルト!」

 何とか二つに分かれた炎はデコイに向かって進んでいくが、途中でまた一つになり、二つのデコイの中央を通り過ぎていった。

「はは……難しいですね」

 照れたように学院長先生は笑う。


「もしかしてですけど、ツインとか頭に付ければ要素を付加できるんじゃないですか?ヘヴンリィエクスプロージョンの時みたいに。あれもヘヴンリィとエクスプロージョンで分かれてましたし」

 オルカの言葉に、先生達は驚きながらも納得する。

「オルカ君は呪文の持つ意味を正確に理解しているのですね。たしかに原理にも沿っています。ただ、キリエ君はそれを単体のファイアーボルトで行っている。という事はキリエ君は通常の魔法の概念までも拡張できる才能を持っているという事になります。ライトの魔法もそうでしたが、本当にすごい才能です」

 喜んで良いのだろうか。単にルール違反と言われているような気もする。

『気にしすぎだ。お前は願いどおり暴れれば良い。お前がやりたいようにやれ。俺が見ているから心配ない』

 私の考えていることを読み取ったのかシンがテレパシーで話しかけてくる。

『学院長とイレーネからの評価は正当なものだ。お前を優れた生徒、魔導師として見ている。もしこの流れが疲れるのであれば戻っても良いぞ?』

 と、シンは再び分岐点に戻って世界を途中からやり直す提案をしてくる。

『……いえ、大丈夫。まだやれるわ。続けましょう』

 そこからは、他の属性魔法を私が発動し、先生方とオルカが観測して記録する事を数度繰り返し、その日の午前中の実習室での活動は終わった。

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