30話 学院長室での朝
翌日の朝。窓の外からの明るさで目が覚める。
時間はそれほど長くなかったけれど、寝心地の良い寝具で睡眠は十分にとれた。
うーんと伸びをして、体を起こす。オルカはまだ寝ているようだった。
学院長先生は不在だった。ベッドから降りると、応接テーブルに書き置きがあるのを見つける。
職員会議に参加してきます
窓の外を見ると、まだ日が昇って少し経ったくらいの位置にお日様がある。
のどが渇いていたので、お水の小瓶を作成して飲み干した。
冷たくて美味しいお水が喉を通る感覚。体の隅々まで水分が浸透していくような心地よさがあった。
私は昨日途中まで読んでいた魔導書を手に取るとベッドの方へ戻ってオルカの様子をじっと見た。よく寝てる。
オルカの顔が見えるようにベッドに腰かけて、私は魔導書の続きを読み始めた。
外で鳴く小鳥のさえずりと、オルカの静かな寝息だけが耳に届く。そんな静かな朝を楽しんでいると、オルカの喉から声が漏れた。
「う……ん…………。おはよ、キリエ」
薄く目を開けたオルカはまだ少し眠たそうだった。
「おはよう、オルカ」
目をこすりあくびをしながらオルカも起き上がる。
「学院長先生は会議に出てらっしゃるわ」
「あー……そうなんだ……」
まだオルカは頭がぼんやりしてそうで、反応が少し鈍い。
「お水のむ?」
私が問いかけると、オルカは頷いた。
私は魔法の小瓶に水を詰めると、オルカに手渡す。
彼はお礼を言いながら小瓶を受け取り、蓋を開けて一気に飲み干す。
「あー。うま」
頭もすっきりしてきたようで、ベッドから降りて伸びをした。
オルカが起きたならベッドに座る理由もなくなった。私は応接テーブルのソファーへ移動して、オルカと並んで座る。
ノートに、オルカが寝ている間に読んだ範囲の魔法をメモしていく。
オルカも昨日読んでいた魔導書を開いて、時折ノートにメモをまとめていく。
「とりあえず覚えていってるけどいくつか気になる魔法があるわ」
「そうなのか。どれ?」
私は、アクアウェーブとイリュージョンの魔法を指し示す。前者は水属性の奔流を発生させて辺り一帯を押し流す魔法。後者は幻覚を生じさせて相手の命中力を阻害する魔法。
「アクアウェーブはどの程度の規模の魔法なのかしらと思って。魔力の消費目安を見る感じ、そこまで大きくはなさそうだけれど。イリュージョンはどういう経路で発動するのかなって」
「なるほどな。後で実習場借りてみるか。イリュージョンは……そうだな。相手の眼球の働きを狂わせる感じだ。ブラインドと似てる」
まるで知っているかのようなオルカの言葉。
「どうしてわかるの?」
私の問いかけに、意外な答えが返ってくる。
「魔法理論を読んでたらシミュレーションできるようになった」
「そうなんだ。すごいわ」
状態異常……解除するための方法も用意しておかないとな。
今まで、人に対して私達は状態異常魔法のみで対処してきた。学院の生徒として、下手に殺傷してしまったりしたら後々良くないと判断しての事だった。
特に私。襲われた時に攻撃魔法で対処したら十中八九相手の命は無いと思う。
そう思うのと同時に、魔道具への興味が出てきた。例えば、モンスターから貰ったファイアルビーを使った指輪で一般的な威力のファイアーボルトが発動する指輪とかが作れるんじゃないかと思う。
となると、着用者と繋がって状態異常解除の魔法が自動で発動するアクセサリーも作れるかもしれない。
私はノートの新しいページに思い付いた魔道具、私的あったらいいなリストを書いてまとめていく。
そうして過ごしているうちに、入り口の扉が開かれた。
「おはようございます、キリエ君、オルカ君」
学院長先生が朝の挨拶と共に入ってくる。イレーネ先生も一緒だった。
「おはようございます、先生」
私達は立ち上がって先生達に挨拶する。
「おはよう、キリエさんオルカさん。よく眠れましたか?昨晩は遅くまでお勉強されてたと聞きましたよ」
「はい。今も起きてから続きをやってました」
イレーネ先生の言葉に、オルカが返答をする。
「あらあら。起きてすぐからすごいわ」
嬉しそうな様子のイレーネ先生。
「お腹が空いたでしょう。すぐに朝食にしよう。食堂にはもう注文してあるから、もうすぐ届くだろう」
学園長先生の朝食開始の言葉に、私達はテーブルに広げていたノートを閉じて一旦脇へと置く。
そのノートに目をとめたイレーネ先生が、「ちょっと見せて貰っても良いですか?」と尋ねてきた。
私達は快く承諾し、イレーネ先生にそれぞれのノートを手渡す。
私のノートからページをめくるイレーネ先生。
「この、呪文の前に丸がつけてあるのは?」
「それはどんな魔法なのか実際に見たり使ってみたいなと思ったものです」
「そうなんですね。実際に使用してみるのも大切ですものね。……あら、これは」
と、あるページに目をとめる。




