28話 深夜のお茶会
夕食の後、私達は学院長室で寝泊まりさせて貰うことにした。
最初の世界の時と同じように簡易ベッドを用意してくださるという事で、お言葉に甘えることに。あの寝具はとても寝心地がよかった。
私達もベッドの設営を手伝って、それ以降は魔導書を読む時間になった。
私もオルカも、集中して読み込んでいく。
まずは上級生が使う魔導書から目を通していき、学院で教わる範囲の魔法を覚えていく。
ノートを持ってくればよかったな、と思って呟いたら、学院長先生が予備のノートと筆記具を貸してくださったので、それにまとめながら読み進めていった。
魔法の名前と、要約した説明の文章を書き綴る。オルカも同じように、魔法理論をノートにまとめていた。
質問があったら遠慮なくどうぞ、と言われていたけれど、私達は黙々と読んではノートにまとめる形で進めていた。
深夜深くなっても学院長先生は私達に付き合ってくださって、私達の様子を気にかけながらもお茶を飲んだりお菓子を食べたりして過ごしていた。
私達にもお茶を淹れてお菓子も分けてくださって、そこで野外実習の前に購買部で買ったクッキーが残っていたことを思い出す。湿気てしまう前に食べないとだわ。
「ありがとうございます、先生」
オルカも手を止めて少し休憩する事にしたみたいだった。
「そういえば、教科書に載ってる範囲外で授業で教えられる事ってあるんですか?」
オルカの質問に、そうだねえ、と学院長先生は答える。
「この学院では基本的にその教科書通りに教えるが、先生によって時折脇道に逸れた話が入ることもあるだろうね。例えば魔法理論に沿った具体的な事例を出すとか、関連する小話を挟むとか」
なるほど、とオルカはクッキーを一枚口に運ぶ。
私もお茶をいただきながら、クッキーを一枚口に運んだ。相変わらずの優しい甘さで、口の中でほろほろと解けてとても美味しい。
「じゃあこの、地域による元素の量と質の違いって実際にはどんな感じですか?」
「そうだね、それは空気の循環と同じで、人通りの多い街よりは自然の多いところの方がその環境に応じた元素が増えたり減ったりするという感じだ。森の中ならば水と土の元素が多く、火山帯ならば火の元素が多く水の元素が少ないというように。質の違いについては土地の魔力量によるところが大きいかな。遺跡なんかがある場所だと、歴史がある分土地の魔力も蓄積されて濃密なものになる。神殿は魔力量の多い土地に建てられる事が多いね」
それであの魔導師は遺跡を根城にして魔力を集めていたのね。
学院長先生の説明を聞いて、オルカは理解していたとおりだったらしく、納得していた。
「キリエさんは何か質問はあるかな?」
「うーん。一般の魔導師は攻撃魔法で対人戦をする事があるんですか?」
最初の世界で軍の魔導師部隊に攻撃されかけた時のことを思い返し、質問してみる。
「十分にあり得る。魔導師同士の模擬戦も時々行われたりするし、模擬戦の場合は魔道具を使用して出力を抑えた魔法で戦う事が多い。だが、一般魔導師のいさかいによる魔法戦が行われることもある。その為学院では魔法は慎重に扱うよう教えているよ。よっぽどの事が無い限り人に向けて攻撃魔法を撃ってはいけない、襲われた際の正当防衛なら仕方がない、といった感じだね」
子供相手にキレた軍の魔導師達の大人げなさにため息が漏れそうになった。
「ありがとうございます。模擬戦の事は知りませんでした」
気持ちを切り替える為に、私はまた一口お茶を口に含む。
「学院では最上級生にならないとやらないから、知らないのも無理はない」
先生もまたクッキーを一つつまみ、ティーカップを傾ける。
「そういえば、お二人は夏休みはどうだった?ゆっくり出来たかな?」
「ええ。オルカと二人で故郷のエゼル村に帰って、星祭りにも参加してきました」
私の返答に先生はにこにことしながら頷く。
「良いですね、伝統行事に参加できるのも長期休みの醍醐味だ」
「帰郷に両親も喜んでくれて、成績表を見せたらあっという間に噂が広まって有名人扱いでした」
私の言葉に、続けてオルカも口を開く。
「星祭りではキリエがライトの魔法を応用して会場に飾りつけをしたんです。とても幻想的な光景で、村の人達も楽しんでくれてました」
ライトの魔法、という言葉に先生が反応を見せる。
「ほう、ライトの魔法を。そうですか。もしよければ今実演して見せてもらえるかい?」
「良いですよ。ちょっと部屋の灯りを暗めにしていただけますか?」
私が言うと、先生は壁に取り付けられている光源のスイッチを切る。
調節は出来ない灯りだったか、と思いながら、私は両手で包み込むように魔力を集中させ、呪文と共に腕を広げた。
「ライト」
星祭りの時と同じように、学院長室の中はきらきらと穏やかな星明りが降り注ぐ空間になった。
「おお……」
思わず先生の口から感嘆の声が漏れる。
「美しいですね……これはさぞかし村の皆さんも喜ばれたでしょう」
私は光源に注ぐ魔力量を調整して、時々明るく輝いたり、明滅を繰り返す部分も作ってみる。
「キリエ君はここまで繊細に魔法を扱えるのか……」
私の実演中、オルカは私と室内の魔力の流れをじっと見ているようだった。
「ありがとう。とても良いものを見せて貰ったよ」
先生の言葉に私は空中をつかむように手を動かし、ライトの灯りを全て消した。
再び部屋の光源のスイッチが入れられ、学院長室全体に明るさが戻る。




