26話 実験開始
穏やかな雰囲気のまま時間は進み、食事を終えて少しした頃にイレーネ先生が魔導書を手に戻ってきた。
「火属性魔法の研究書ですー」
赤い表紙のその本を、イレーネ先生から手渡される。
私はその本をぱらぱらとめくり、改めて目次を見てエクスプロージョンの魔法のページを開いた。
理論立てて文章が書かれていて、発動コストになる魔力の目安も示されていた。なるほど、普通の魔導師は魔力量を気にして魔法を使うのね、と改めて認識する。
「どうだい?専門書は」
私はオルカにもその魔導書を手渡す。
「ちょっと書いてある事が難しかったですけど大体理解できました」
私の返答に、そうですか、と学院長先生は微笑んだ。
オルカもエクスプロージョンのページをなぞるように読んでいる。
「この魔導書も同じものが学院長室にあるよ。お二人は今後は私に申請してくれたら書棚のどの魔導書でも読んで良いので、気軽に声をかけてほしい」
「ありがとうございます、学院長先生」
そして授業後を少し過ぎて、私達は誰も利用者のいなくなった実習室に入った。
他の生徒達がいないととても広く感じる。
「さて、キリエ君。少し君の魔力の流れを観察させてください。まずはデコイを召喚します」
今度は研究者モードだろうか、再び学院長先生の口調が変わる。
そう言うと学院長先生は、一学期の最初の授業で使用した無属性のデコイを実習室の中央に召喚した。
「マジックアローを撃ってみてください」
「はい」
すう、と息を吸い込み、右手に魔力を集中させる。そして、人差し指と中指の先をデコイに向け、その指先から魔力を放つようにイメージする。
「マジックアロー!」
呪文と共に魔力の矢が放たれ、デコイに着弾する。そして、粉砕した。
「おお……これが例の。どうですか、イレーネ先生、オルカ君」
「一学期の最初の時より洗練されていますね。魔力が放出される瞬間が研ぎ澄まされています」
「俺は一学期の時のはちゃんと見てなかったですけど、今回のは魔力の流れが具体的な感じは受けました」
二人の分析結果に、学院長先生も頷く。
「ではキリエ君。ヘヴンリィエクスプロージョンを使ってみてくれますか?」
「わかりました」
私は同じように魔力を右手に集中させて、拳を握る。それを開くのと同時に、呪文を唱えた。
「ヘヴンリィエクスプロージョン!」
私の手の平から放たれた光線が、大爆発を起こしながら壁に突き当たるまで前方へ進んでいく。
その光景に、先生方の口から感嘆の声が漏れた。
「これはすごい。……どうですか、イレーネ先生、オルカ君」
「えっと、魔力放出までの流れはエクスプロージョンの魔法と同じですね。けれど発動した魔法は光属性のものでした」
「こうやるんだな、って流れは見えました。この前遺跡で使った時はちゃんと見てなかったですけど、何となく今の方が洗練されてるような気はします」
再びの二人の分析に、学院長先生は頷いた。
「なるほどなるほど。そうですね。イレーネ先生の言う通り、発動までの流れは通常のエクスプロージョンと同じのようです。では、オルカ君。君の思う常識的な範囲でのヘヴンリィエクスプロージョンを使ってみてくれますか?」
「はい」
オルカが息を吐き、静かに吸い込む。周囲の空気が張り詰め、彼が集中している事がわかる。
そして、握られた彼の手の平に魔力が集まり、呪文と共にその拳が開かれる。
「ヘヴンリィエクスプロージョン!」
魔力の消費量で加減したのだろう、その魔法は前方一メートル程に光属性の爆発を生じさせる。
「なるほど。オルカ君の様子を見ていましたが、魔力消費量に合わせると思っていたよりもささやかな爆発になるのですね」
学院長先生とイレーネ先生はここまでの実験結果をノートにメモしていく。
「次はイレーネ先生、エクスプロージョンの範囲に合わせてヘヴンリィエクスプロージョンを使用してみてください」
「はい、学院長先生」
イレーネ先生は洗練された動きで拳を握り、そこに集中させた魔力を解き放つ。
「ヘヴンリィエクスプロージョン!」
光の爆発は私程ではないけれど、オルカの魔力消費量で制御した魔法より広範囲に広がった。
と同時に、イレーネ先生は少しよろめく。
「ちょ……っとこれは消耗が……」
私は急いでポーションの魔法で水の小瓶を作ると、イレーネ先生に手渡した。先生の消耗した魔力が全て回復するように濃縮して作ってみた。
先生はそれを受け取ると一気に飲み干す。
「……ぷは。学院長先生のお話通り、このお水本当に美味しいですね。冷たくて生き返りますー。ありがとう、キリエさん」
「大丈夫ですか?イレーネ先生」
学院長先生はイレーネ先生を心配そうに気遣う。
「はい。キリエさんのお水で全快しました!」
心なしか、さっきよりも元気そうなイレーネ先生。
「それは良かったです。そうですね。ここまでの実験記録をまとめるので少しお待ちを」
再び学院長先生はイレーネ先生と話し合いながら、ノートにメモを取っていく。




