24話 学院長室で
イレーネ先生がコンコン、と扉をノックしてドアノブに手をかける。ギィ、と低い音を立てて扉が開かれ、私達は室内に入った。
「おかえりなさい、キリエ君、オルカ君。今朝早くに学院の職員数名をカズノ遺跡の調査に向かわせたよ。皆忠実に学院の為に働いてくれる者達だから情報漏洩の心配は無い。安心してください。さて、野外実習のレポートは書けたかな?」
「ありがとうございます、学院長先生。レポートは昨日カズ村の宿に帰った後すぐに書きました」
私達の言葉に学院長先生は笑顔で頷く。
「それじゃあ、イレーネ先生、一緒に二人のレポートを確認しましょうか」
「はい。学院長先生」
私とオルカは鞄からレポート用紙をだして、先生達に手渡す。
イレーネ先生と学院長先生は二人で並んで私達のレポートを確認していった。
「なるほど、キリエ君のレポートは周囲の様子とどう過ごしたかが分かりやすくまとめられているね。オルカ君のレポートは収集品の特徴がイラスト付きで分かりやすくまとめられている」
「すばらしいですね、学院長先生。たった一日でここまでの成果をまとめられるなんて」
しばらく二人はレポートに何度も目を通していた。
「さて、このレポートの中で書かれている収集品だけど、いくつか気になるものがあるね」
「そうですね。鉱石はまだよいのですが、この丸い球体というの。見せていただけますか?」
「はい」
私達は、鞄の中から遺跡前で拾ったいくつかの透明な丸い球体を取り出した。
先生の机に大小様々な大きさの球体を並べて置く。
「なるほど。これは……」
「魔力のエッセンスですね。大きさがまちまちなのは二人の話どおりなら魔導師に吸収されてしまったからでしょうね……」
「そうなりますね。オルカ君、キリエ君。貴重な資料をありがとうございます。これはこちらで預かりたいのだが良いかな?」
私とオルカは「はい」と短く答えた。
「ありがとう。念のため、他の収集品も全て見せてれるかな」
私達は言われるままに鞄の中の収集品を机の空いているスペースに並べていく。
オルカが最後に取り出した草の入った小瓶を見て、イレーネ先生は小さく歓声を上げる。
「オルカさんは本当に魔法のコントロールがお上手ですね。ポーションの魔法の小瓶にそのままアイテムを封入するのはまだ教えていないのに」
学院長先生も笑顔でうんうんと頷いた。
「そうだ、キリエ君、昨日は美味しいお水をありがとう。お陰で呪文書作成に使った魔力が全て回復できたよ。ありがとう」
他の収集品は特に問題なかったようで、鉱石も大きさに見合った量の魔力を持ち合わせていたようだった。
「こちらこそ、私達の移動のためにお力を割いてくださりありがとうごさいました」
収集品をしまっていただいて大丈夫だよ、と言われ、また鞄にしまい込む。
「さて。野外実習の日数はまだあるけど、お二人はどうする?特に予定がなければしばらく私に付き合ってもらえると嬉しいのだが」
私はオルカと顔を見合わせた。そして、オルカが口を開く。
「特に予定は無いんですけど、寮に戻ったら風呂に入りたいなって二人で話してました」
長時間歩いたのと遺跡の探索で汗をかいたので体と髪が少しべたついてしまっている。
「そうだね。荷物の整理とかもあるだろうし、一度寮に戻って落ち着いたらまたここに来て貰えるかな?」
「わかりました」
オルカが続けて答え、私達は一旦解散した。
「じゃあ、また後でな」
「うん。お風呂が終わったら連絡するわ」
寮への道で私達は一度別れて、私は女子寮の自室に向かう。
自室に着くと、収集品を別の袋に移していく。この寮のクローゼットは何だか優れもので、中に入れた服やベッドシーツ等、お洗濯ものを自動で綺麗な状態にしてくれる。私は実習先で着ていた寝間着をクローゼットの中に収納して、着替えのブラウスと下着を取り出す。
お風呂用品と一緒にまとめて、部屋を出て浴場へ向かった。
脱衣所のロッカーに服を脱いで入れ、その上に着替えをしまう。
扉に鍵を書けて浴室へ。
浴室は大きな浴槽に並々とお湯が湧いていて、その手前には体を洗うための鏡付きのシャワースペースが並んでいる。全体的に明るくて居心地の良い空間になっていた。
午前の授業の時間なのもあって、誰もいない貸し切り状態だった。
その中の端のシャワー前の椅子に私は腰かけ、髪から洗っていく。
温かいお湯を全身で浴びられてとても気持ち良かった。
綺麗な服に着替えて髪を乾かしながら、ふとオルカの様子が気になる。
『オルカ、お風呂もうすぐ終わるわ。今髪を乾かしてるところ』
テレパシーを使ってキリエの言葉で話しかけてみる。
『了解。俺は風呂は終わって脱いだ物を部屋に置きに戻ったとこだよ』
『分かったわ。ちょっと学院長先生にご飯食べてから行きますって連絡しておいてくれる?』
『はいよ』
少しの間を空けて。
『学院長室で食べてくれってさ。今授業中だから食堂やってないって』
なるほどそっか。と私は納得した。
『分かったわ』
髪を乾かし終えた私は、少し急ぎ足で自室に戻る。
お風呂用品を部屋に置き、脱いだ服をクローゼットに入れて、ついでに綺麗な状態のスカートとジャケットに着替える。ポケットの学生証もきちんと着替えた方に移して、部屋を出てオルカの待つ寮の分かれ道へ向かった。
「おかえり、キリエ」
出迎えてくれたオルカはいつも通りの様子だった。少し良い匂いがする。
「ただいま」
私達は並んで学院長室に戻る道を歩く。
その道で、オルカに手を握られる。指を絡めて手を繋がれ、私の頬が少し熱を持つのを感じる。
「キリエのその反応、いつも新鮮で楽しいよ」
「あれだけ一緒に居るのにね……」
元の場所で無限の中を過ごしてきた私達だったけれど、こうして世界の中で過ごしているとどうしても肉体の反応が優先される。
「でさ、この流れでいいよな?」
この、今の状態を現行世界とする為の確認の質問。
「……うん。良いと思う」
「了解。最初の流れを閉じる」
シンとしてオルカは何かの操作をしたらしく、最初の世界の記録が動かないようにされたようだった。
やがて私達は学院長室の前に到着し、扉をコンコンと二回ノックする。
ドアノブに手をかけ、ギィ、と低い音をさせて扉を開く。
入る直前にお互いの手を離し、学院長室に入室した。
「おかえり。お二人の好きなものを用意しておいたよ」
応接テーブルの上にお肉料理と玉子料理がそれぞれ乗ったトレーが置かれているのが見える。
「ありがとうございます、学院長先生」
イレーネ先生の姿は無かった。
オルカと私は応接テーブルに備え付けられたソファに腰かけ、朝食をとり始める。
その間、学院長先生は外を眺めたり、書類に目を通したりしていた。
軍の招待を受けた時のような監視の視線は一切感じない。
改めて私は、学院長先生の優しさに感謝した。




