23話 カズ村
カズ村へ行く呪文書と学院に戻る呪文書を手渡され、私達は戻りの呪文書を鞄にしまった。
「表向きのレポートはきちんと作成してくださいね。行ってらっしゃい」
イレーネ先生に見送られて、カズ村行きの呪文書を開く。
軽い浮遊感の後、私達はカズ村の入口に立っていた。
時刻は夕方近く。一度宿屋の部屋へ戻る事にした。
と思ったけれどその前に村の食堂でお夕飯を取る事にする。お昼ご飯はクッキーだけだったから結構お腹が空いていた。
オルカはそこでも玉子料理を注文する。私もお肉料理を注文した。
お料理が運ばれてきて、食べながら私達は適当に会話を始める。
「この辺の魔力の流れ、おさまったな」
「そうね。何だったのかしら」
知らないふりをする。
私達の話を聞いていたらしい隣のテーブルに座っていたおじさんがこちらを見た。
「お嬢ちゃん達魔法学院の生徒さんかい。最近この村付近で妙な事が続いててな……村人は悪夢を見るし作物の生育は悪くなるしで大変だよ。でもその話、本当かい?おじさんも心なしか元気が吸い取られる感じが無くなったんだよ」
「あら……そうだったんですね。私達も何が起きたか分からないんですけど、午後過ぎくらいからおさまったみたいで」
「うんうん。わかるよ」
頷くおじさん。このおじさんも体感したのだろう。
オルカは玉子焼きをフォークで切り分けている。
「邪魔しちゃって悪いね。おじさんの事は気にせずに彼とおしゃべり楽しんで」
おじさんも自分の食事に戻った。
私もお肉を切り分け、パンと一緒に口へ運ぶ。
美味しいなあ、と思いながらまたオルカと雑談を再開した。
食事を終えて宿屋の部屋に戻る。
先生の話だともう帰っても良いという事だったけれど、どうしよう。
「レポートは拾ったアイテムの事でも書いとくか」
鞄を置いたオルカは、テーブルとセットになっている椅子に腰かけて、レポート用紙を広げた。
私もそれに倣って鞄からレポート用紙と筆記具を取り出し、オルカの向かいの椅子に腰かける。
私は行きの道でどう過ごしたか、周辺地域のモンスターの事とか、見たもの拾ったものを色々と書いていく。
オルカの用紙を少し見てみると、文字と簡単な絵で拾ったアイテムを色々と書き記しているようだった。
その冒頭に、その辺の草というのが書かれていて思わず笑ってしまう。
「草としか書きようがないからな。特に何の効力もなさそうだったし」
「そうね。レポート書き終えたらどうする?」
「学院に帰るかなあって思ってるけど、このままキリエとここで二人で過ごすのも悪くないなとも思ってる」
学院に戻ったら寮生活になる。そうしたらなかなかオルカと二人きりでは過ごせない。
「どうしようね」
まだ、決めきれない。
「でも今レポート書いてるし、戻る?」
「そうだな。そうしようか」
鞄も収集品でいっぱいなことだし、と。
そのままレポートを仕上げるまで、私達はそれぞれ黙々と作業を続けた。
その夜、私がベッドに横になると、オルカも同じベッドに上がってきた。
何をする気なのかと思って見ていると、隣に寝転んで間近で私の顔をじっと見てきた。
「キリエ、せっかくだから一緒に寝よ」
微笑みながら言うオルカ。
そのまま軽く触れる程度に唇を重ねられる。その瞬間、固定されていた私の意識の封印が外れる感覚がした。
「外しとく。おやすみ、キリエ」
オルカの温かい手が私の髪を優しく撫でる。
「……おやすみなさい、オルカ」
その温かさに安らぎを感じながら、私は目を閉じた。
窓からの明るさで目を覚ます。
オルカはまだ私の目の前で眠っていた。
身動きが取れないことに気がつく。オルカの腕が私を抱き締めるように背に回されていた。
そのままじっと、オルカが目覚めるまで待つことにした。
それから程なくして、オルカも目が覚めたようで、目が開かれる。
まだ半ば寝ぼけ眼の様子のオルカは、私を抱き締める腕に力を込めた。
「まだ帰りたくない……ずっとキリエとこうしてたい」
「オルカ……それは私も同じ気持ちだけど戻らないと……」
「……だよな。帰り支度するかあ……」
オルカの腕から解放され、彼は伸びをするとベッドから降りた。
私も起き上がって伸びをして、ベッドから降りる。
寝間着から制服に着替える最中、オルカは自分の着替えを私の様子をじっと見ながら進めていた。
「見られると緊張するわ」
私の素肌を少しでも目に焼き付けておこうとしてるのだろうか。
「綺麗だな、と思ってな」
落ち着いた声が返ってくる。
着替えを終えて、髪を整える。寮に帰ったらお風呂に行こう。そう思った。
オルカも身支度を終えた様子で、ベッドに腰かけている。
「忘れ物ないよね」
そう言いながら私は鞄に寝間着を畳んで入れながら持ち物の確認をする。
結局持ってきたナイフ使わなかったなあ、と思いながら。
そのうちまた使う機会はあるかもしれない。
「俺の方は大丈夫だ」
鞄を肩にかけてオルカが言う。確認を終えた私も鞄を斜めにかける。
「うん。私も大丈夫そう」
「じゃあ行こうか」
部屋を出て一階に降り、受付の方に学院に戻るのが早まってしまった事を伝える。残りの宿泊費を返金してくれたので、私達はそれぞれお財布にしまった。
村を出ると、私達は学院までの転移呪文書を開いて学院へと移動する。
軽い浮遊感に包まれ、次の瞬間にはもう学院の校舎前だった。
私とオルカはまず職員室へ向かった。その途中、職員室から出てくるイレーネ先生と出会う。
「あらあら。おかえりなさい、お二人とも」
先生はにこやかに出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
オルカの言葉に、先生は優しい笑顔で頷く。
「ちょうど良かったわ。戻って来て早々だけれど、一緒に学院長先生のところに行きましょう」
「はい」
先生の言葉に同意して、共に学院長室へ向かう。




