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子々孫々まで祟りたい 〜転んで祠を壊しちゃったら怨霊が子々孫々まで祟りに来たけど「俺で末代」と言ったら怨霊が困り始めて子孫を残させようと奮闘しだした件について〜  作者: zingibercolor・種・がくじゅつてきあかげ
23シーズン

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我慢も耐えるももうできない

 2クール目の抗がん剤2日目。食べても全部吐いてしまう。今までになくきつい。

 しかも、とうとう髪の毛が全部抜けてしまった。帽子で隠しておいたが、お見舞いに来た千歳は気づいたようだ。


『帽子、あってよかったな』

「うん……ごめん、ここんとこシャワー浴びられてなくて……臭くない?」

『別に臭わないけど。シャワー行けないなら、体拭いてやろうか?』

「あ、そうか。そうだな、体拭くだけでも」

『ワシ、看護師さんにお湯もらえませんかって言ってくる』


 千歳はナースステーションに向かって、ほどなくして戻ってきた。片手には、おしぼりの袋を大きくしたようなのがある。


『看護師さんがさ、清拭用の使い捨てタオルくれた!』

「そんなのあるんだ」

『脱げよ、拭いてやる』

「ありがとう」


 ベッドのカーテンを引いて、俺は素直に上を脱いだ。しかし、俺の裸を見た千歳は、なぜか息を飲んだ。

 何だ? と思って自分の体を見下ろして、俺は気づいた。うわ、骨と皮じゃん! いきなりこんなの見せたら、そりゃ千歳びっくりするよ!


「え、えっと、その、食べれるものは食べてるから! 大丈夫だから!」

『う、うん、わかった、体拭くぞ』


 別に背中以外は自分でやれるのに、千歳は背中だけじゃなく腕も脇も胸もお腹も全部拭いてくれた。


『下も拭いてやろうか?』

「い、いや、自分でできるから」


 またパンツ下ろされそうになったらたまらない。千歳があっち向いてる間に下半身を拭く。


「終わったよ」


 服を着なおしてそう声をかけると、千歳はこっちを向いた。


『あのさ、真面目な話がある』

「何?」

『お前、お前の好きな人もうあきらめろ。ろくなやつじゃない』

「え、なんで……」


 千歳は唇をかみしめた。


『だってお前こんなにガリガリになってさ、こんなに大変なのにさ、お前の好きな人見舞いにも来ないじゃないか、そんな奴よしとけよ!』

「それは……その……」


 嫌だよ! 好きな人諦めたくないよ! こんなに尽くしてくれて、こんなにそばに居るのに!


『お前のこと思ってくれないやつのことなんて想うの、もうやめろ。もっといい女、世の中にはたくさんいる!』

「…………」


 俺は黙りこくった。朝から何度も吐くくらい体きついのに、なんで好きな人にこんなに怒られて問い詰められなきゃならないんだ? 何でこんなに我慢しなくちゃいけないんだ、俺?

 頭がふらふらする。俺は、こらえるとか我慢するとかいうことが、あんまり考えられなくなってしまった。俺は、俺の望みは……。


「……俺、もう他の人と結婚とかできない、千歳とずっと一緒に仲良く暮らせればそれが一番いい」

『諦めるなよ! 人工授精なら子供作れるんだろ!』

「諦めるとかじゃないんだよ、俺は千歳とずっと一緒にいたいんだよ……」

『それだけでいいわけないだろ! 早くいい女見つけろ! そんでさっさと子供産んでもらえ!』


 好きな人に怒られて、俺は涙が出た。


「……千歳だよ……」

『何が?』

「俺が、俺が好きなのは千歳だよ……」

『……へ? え?』


 千歳は目も口もまんまるにした。千歳があんまりポカンとするので、俺ははっと我に返った。


「……ごめん、なんでもない、忘れて、こんな事言うつもりじゃなかった」

『ど、どういうことだ!?』

「ごめん、忘れて、本当にごめん……」


 もう耐えられなくて、俺はボロボロ泣き始めてしまった。

 苦しかった、千歳に気持ちを伝えられなくて本当に苦しかった、でも言わずに仲良く暮らせるならそれでいいと思ってた。でも、ここに至って、体がつらくて抑制が効かなかった、言ってしまった、言ってしまった……。


『いや、本当にどういうことだよ!?』

「ごめん、言うべきじゃなかった、ごめん、聞かなかったことにして、本当にごめんなさい……」


 理解の範囲外すぎてあわあわしてる千歳に何度も謝っていると、看護師さんがベッドのカーテンの近くに来た気配がした。


「あの、もう面会時間過ぎていますので……」

「ごめん千歳本当にごめん、忘れて、ごめん、今日は帰って」

『え、ええ……?』


 千歳は俺と看護師さんを交互に見て、額を抑え、『明日も来るからな!』と言い残して帰っていった。

 俺は、カーテンの中でしばらくぐすぐす言っていた。でも頻尿は容赦なく来る。鼻をすすりながらトイレに出て、帰ってきたら太田さんと長田さんが病室に戻ってきてて、「どうしたどうした?」と心配された。

 俺は、もう我慢するということができなくて、「千歳に好きだって言ってしまったんです……」とうめいた。

 ある日いきなり現れた人。一緒に暮らしていくうちにかけがえのない存在になって、恋してしまったこと。でも相手は一切の恋愛感情を持たないから、自分の内に秘めておこうと思ってずっと我慢していたこと。でももう体が限界で、今日ついに本音がボロボロ出てしまったこと。

 二人に全部ぶちまけてしまった。これまで、ただ苦しかった。

 俺はティッシュで鼻をかんだ。


「これからどうしようかと……」


 長田さんが聞いてきた。


「振られたら、もう一緒には居られないのかい?」

「わからないです……千歳がどう受け取るのかまるでわからない」


 太田さんが俺を慰めるように言う。


「振っても、なんだかんだで一緒にはいてくれるんじゃない?」

「そうだといいですけど……」


 その時、俺の主治医が病室に入ってきた。


「和泉さん、いきなりすみませんが、病室を引っ越していただきます」

「え?」

「白血球がとんでもなく減っています。このまま抗がん剤を続けたいのですが、この病室でそれは無理なので、クリーンルームに移って頂きます」

「え、え、白血球増やす注射打ってるのに?」

「それでなお減っています。クリーンルームに移ってください。しばらくご家族としか面会できませんが」


 家族とだけってことは……それじゃ、千歳と面会できない! 千歳は同居人でしかなくて、家族でも何でもない!


「そ、そんな、せめて明日1日だけでも……」

「無理です、危険です。引っ越しの準備をしてください」


 そ、そんな……明日から、どうすればいいんだ……。

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