どうにも嘘をつききれない
相変わらずだるい。それでもなんとか起きて、シャワー室に入って頭と体を洗った。
病院の規則では、入浴後は排水口を掃除しなきゃならない。なので排水口をチェックしたんだけど、排水口にはありえないくらい髪の毛がたまっていた。
……もしや。
髪をつかんで引っ張ってみると、そのままごっそり抜けてしまった。うわあ……副作用の脱毛か……。
病室に帰って、太田さんと長田さんに「ついに髪が抜け始めました……」とぼやくと「あー、来たかー」と言われた。
「ほっとくと抜け毛ひどくてうざったいから、最初から全部むしっちゃうと楽だよ」
「そうそう」
「そうですか……」
確かにそのほうが楽なんだろうけど、いきなりハゲになったら千歳を驚かせてしまう、そう思うとなかなか踏み切れない。とりあえず、医療用帽子をかぶってごまかそう。
午後に千歳が来てくれた。
『その帽子どうした?』
「あー、ちょっと頭皮が過敏になっちゃって……なんてことないよ」
『大丈夫じゃないなら、大丈夫じゃないって言えよ? ワシ、何でもしてやるんだからな』
千歳がそう言って俺の腕に触れるので、俺は嘘をつききれなくなった。
「……髪の毛が抜け出しちゃって……ハゲ隠し」
『あ、そうか……』
千歳は、心配そうな顔ながら、得心がいったようで頷いた。
「髪抜けると、頭守るものが何もなくなるから、だから帽子かぶってて……」
『そっか、その帽子そういう意味で必要なのか……でも、治療終わればまた生えてくるんだろ?』
「1、2ヶ月で生えてくるって」
『なら何も心配いらない! 毛生え薬もいらないし!』
千歳は笑った。心からの笑顔ではなく、俺を元気づけようとする笑顔だった。
千歳……ありがとう。本当にありがとう。




