吐き気がしても間に合わない
今日はまた抗がん剤を入れる日。
初めて本当に吐いてしまった。ベッドをだいぶ汚してしまい、看護師さんがてきぱきと処理してくれたけど、俺はだいぶショックだった。トイレに駆け込んで吐くこともできなくなってるのか、俺……。
吐く時用の洗面器をベッド横に置いてもらい、吐き気止めを増やしてもらったが、微妙な吐き気は続くのでずっと食欲不振。メイバランスは何とか飲んでるし、プロテインゼリーも食べられるときは食べてるけど、普通の食事にはほとんど手を付けられていない。
午後に千歳が来てくれたが、俺は吐いてしまったことを言えなかった。だが、千歳は洗面器の存在に目ざとく気づいた。
『これどうした? こんなの、うちから持ってったっけ?』
「あ、あの……その、吐いちゃうこともあるからって看護師さんが貸してくれた」
『あー、そっか、ずっと吐き気あるんだもんな』
千歳はいたわるように俺の背中をなでてくれた。俺は、千歳に触れられて、もう隠し事ができなくなってしまった。
「ごめん……今朝本当に吐いちゃって……だいぶ汚しちゃって、看護師さんが処理してくれたんだけど、またいつ吐くかわからないからって洗面器貸してもらって……」
千歳は目を丸くしたが、泣いたり悲しんだりせずに、また俺の背中をなでた。
『そんな、謝ることないからさ。大丈夫だよ、看護師さんも世話してくれるんだしさ、お医者さんもついてるんだから、治るよ』
「うん……」
千歳は、千歳はもう、本当に頼らせてくれるんだな。俺が状態悪くても、泣いたり動揺したりしないで、俺を慰めてくれるんだな……。




