竜宮城に参りたい
理解不能なうちに海に沈んでいく。何!? 海にさらわれた!?
すると、ボフッと音がして顔の周りが晴れた。晴れたというか、これは空気の層? 呼吸をしてみる。息ができる。え、これ宇迦之御魂神様の守護!?
青すぎて遠くが黒く、何も見えない海の中、俺の服をくわえて海に引き込んでいくのは、巨大な亀だった。
「何!? ちょっと、離して! 死ぬ!!」
[心配ありません! 宇迦之御魂神の加護があるあなたなら!]
耳ではなく脳に響く声。あ!? なんか神様関係の亀!?
「加護はあるけど! 何!? 普通海に落ちると人は死ぬよ!?」
[乙姫様がお呼びです! 閻魔大王様から直々に頼まれたあなたに話があると!]
「それだったら千歳も呼んでよ!」
千歳の目の前で海に落ちてしまった、きっと心配している。
[閻魔大王様から直接頼まれたのはあなたです!]
「それはそうだけども!」
とりあえず、呼吸に支障はない。冬の海に落ちたはずなのに、冷たくも寒くもない。これも宇迦之御魂神様のおかげ? 閻魔大王様の加護もあるかも?
少し落ち着いて、それから亀の言うことを少し理解し始めた。乙姫様? と言うことは……龍宮城!?
「もしかして、海の底まで連れてく予定?」
[はい!]
「嘘だろ……」
服を脱いで亀を振り払おうかと思ったが、亀の進行スピードは速く、すぐに水底に降り立ってしまった。
[こちらから龍宮城へ! いわゆる異界って奴です!]
ふっと体に何か過ぎる感覚がした。見ると目の前が明るい。
翡翠の屋根、朱色の柱、白い壁。日本でいう城のような、見上げるような大きい建物。龍宮城!?
[和泉豊様をお連れしました!]
門に行くと、天女のような服装の若い女性たちが集まってきた。
[ようこそお越しくださいました。乙姫様のところへご案内いたします]
これ、話聞かないと帰してくれそうにないな……。
「よ、よろしくお願いします……」
奥へ入る。亀も泳いでついてくる。作りは和風の廊下だが、飾ってあるのは紅色の大きなサンゴ、輝く真珠、螺鈿の漆器。言わずもなが高級品である。さすが宮殿……。
[乙姫様、お連れしました]
案内された部屋には、ひときわきれいな女性が座っていた。彼女は微笑んだ。
[ようこそ、龍宮城へ。お構いできず申し訳ありません、事情は亀から説明させましたが……]
「え、いえ、まったく何も聞いておりません。乙姫様がお呼びということしか……」
俺がそう言うと、乙姫様は俺の後ろの亀に「ちょっと!」と眉をつり上げた。
[陸でちゃんと事情説明したの!?]
[陸なんて野蛮な子供しかいないので行きません!]
[ちょっと待って、じゃあどうやって連れてきたの]
亀のかわりに俺は答えた。
「船に乗ってる時、ものすごい水柱に襲われて、そちらの亀に捕まえられて海の底まで引きずり込まれましたが」
乙姫様は頭を抱えた。
[何してるのこのアホ亀!]
亀は全く悪びれもせずに答えた。
[連れてはきました!]
[本当にもうお前は……]
乙姫様はひたいを抑えてため息を付き、そして俺を見て頭を下げた。
[亀が無礼を働き申し訳ありません、和泉豊様。あなたの噂は聞き及んでおります。和束ハルの件につきましては、竜宮城も被害を被っていました。お礼を申し上げます]
「あ、いえいえ。千歳なしには不可能でしたし、私がってことではありませんよ」
謙遜ではない、最後に手を下したのは千歳だ。
乙姫様は言葉を続けた。
[閻魔大王様の件についても聞き及んでおります。実は、問題の藁人形を海に捨てた人間が多数いるようでして]
「え、そうなんですか」
[皆で藁人形を買った人間を追っていると聞き及んでいます。そういう人間が捨てたのかもしれません、追求を恐れて]
「なるほど」
[藁と術は処分しましたが、遺骨は処分しづらく……なにしろ大量ですから。そちらで霊を引き出すのに使っていると聞いて、対処をお願いしたく]
「わかりました、お預かりいたします」
俺が頷くと、乙姫様は傍らの女性に目をやり[持ってきなさい]と言った。その女性が持ってきたのは、お重のような形の大小の漆器。
[この中に全て入れてあります]
俺は少し迷った。大きな方の漆器は、小さい頃に絵本で見た玉手箱、まさにそのものの姿なのだ。
「……これ、開けてもお爺さんになったりしませんよね?」
[これはなりませんよ]
なるやつもあるのかい。
乙姫様は小さい方の箱を指差した。
[こちらは、魂の気配を感じる遺骨が入っています。魂を引き出せるとしたら、おそらくその遺骨でしょう]
「わかりました。こちらで対処します」
俺は嬉しかった。魂が引き出せるなら、これで8人目。順調に集まってる!
乙姫様は亀に目をやった。
[では、帰りも亀に送らせます。無礼をした亀で申し訳ありませんが、陸上と竜宮城を生き来できる者は少なく]
「いえ、大丈夫です。さっき海に落ちたのと同じ場所に戻れますかね?」
亀が元気よく言った。
[戻します!]
「それはどうも……頼むよ」
そういうわけで俺は竜宮城をあとにし、亀の背中に捕まって海上を目指した。




