豪華客船取材したい
2人で横浜港に向かった。船ではお酒も出るので、千歳は二十歳の姿だ。
港の先に広がる青い海。冬の海もきれいだ。
「俺、横浜生まれ横浜育ちだけど、港に来るの初めてかも……」
千歳は目を丸くした。
『ええ!? 横浜といえば港じゃないのか!?』
「だって、生まれも育ちも海から遠かったし……横浜市って広いんだもん……」
『そうなのかあ』
「船に乗るのも初めて」
『マジか……まあワシもこんな豪華客船初めてだけどさ……』
チケットを持って大桟橋へ。そびえ立つ船の威容をみて俺はたまげた。写真で見たとおりではあるのだが、大きさと言うかスケールが想像以上だったのだ。
「でっかいホテルじゃん……いやでっかいホテルだったな……」
『ホテルだよなあ、遊ぶところもたくさんあるし』
何せ900人近く泊まれるのである。そりゃホテルではある。
『早く乗ろう、夕飯楽しみだ』
船に乗り込む。船内に入って、千歳は『うわあ……すごい……』とため息をついた。
天井にしつらえられた巨大なステンドグラス、生演奏のピアノバー。いかにも高級ホテルと言った木造りのレセプション(受付)。その先には結婚式や高級ホテルを思わせるテーブルが並ぶメインダイニング。
俺はレセプションで取材に来た旨を伝え、写真撮影の了解を得て、そこここで写真を撮り、気がついたことをメモした。
その後、予約した上の階の客室へ。広い船なので、客室に向かうだけで結構歩く。客室は一番安いものだったが、設備といいベッドといい十分すぎるくらいだった。
『このシャンプー高級そう!』
「アメニティが充実している……」
『夕飯のあと露天風呂行こう!』
俺は目を剥いた。
「その格好で!?」
『バカ、ちゃんと男になるよ』
千歳はボンと音を立ててヤーさんの姿になった。
『この格好で行く』
「あーそう、びっくりした……」
千歳はボンと音を立てて再び二十歳の姿に戻った。
『じゃあ飯! 飯!』
「はいはい」
メインダイニングでの夕飯はフルコース。前菜にマグロ寿司、アワビの昆布ジュレ、トマトとチーズの味噌風味。寿司は大きいネタに香味野菜が散らしてあり、一緒に食べるスタイルのようだ。食べてみると、ネタの良さはさることながら、野菜が後味を軽やかにしていて大変おいしかった。
『前菜からうまいな』
「最高」
スープは栗のポタージュ。甘さはもとより栗の香りが強く、満足感が高かった。
『栗ってお菓子だけじゃないんだなあ』
「なんかすっごく高級感がある……」
生ハムとパンも出たが、俺は自分の胃の容量をわかっているのでこれは千歳にあげた。
次は鯛・ウニ・ホタテの盛り合わせ。カルパッチョ風で、すりおろしタマネギのドレッシングがかかっている。海鮮がおいしいのは言うまでもないが、ドレッシングとの相性がとても良かった。
『えっこのドレッシング船で売ってんのか!買おう!』
「普通のサラダにも絶対合うよねこれ」
次はオマール海老とスープの包み焼、柚子を添えて。スープがかかった海老の味わいは非常に濃厚だったが、柚子のおかげでしつこくならない。
『お前柚子が一番嬉しいんじゃないか?』
「バレたか」
次に黒豚のグリル。口にしてみてびっくりした。豚肉特有の臭みを全く感じないのだ。それでいてうまみが濃く、脂身が甘い。
『え、これもしかしていい牛肉と間違ってないか!?』
「めちゃくちゃおいしい……」
デザートは船特製モナカと芋焼酎がかかったアイス。最中の餡は小倉と生クリームを合わせたもので、アイスの香りはスイートポテトかと思った。
『あんこ、えらくうまい……』
「芋焼酎ってこんなに甘いものに合うんだ……」
最後に緑茶が出た。甘いもののあとにはうれしい。
総じて大満足のディナーだった。千歳もニコニコしている。
『いいもんが食えた!』
「明日もあるよ」
『最っ高!』
それから客室に戻り、露天風呂へ。千歳は頭にタオルを乗せて湯船につかり、気持ちよさそうに鼻歌を歌っていた。
『夜の海の露天風呂って面白いな、何も見えないのに海の音は聞こえる』
「そうだねえ、リラックスミュージックというか……まあ、命の洗濯だな」
俺は顎までお湯に浸かった。明日は1日仕事だ、今日はゆっくり休むことにしよう。




