父への方針定めたい
LINEでおばあちゃんとビデオ通話している。千歳も隣にいる。
おばあちゃんは、俺を見て目をぱちくりさせた。
「まあまあ、豊ちゃん、大丈夫なの? 本当におチビちゃんになってたのお?」
「大丈夫だけど、本当に子供になってた。ごめん、信じられないよね」
信じてくれなくてもしょうがないと思う、普通ありえないことだし。
けれど、おばあちゃんは首を横に振った。
「信じるわよお。豊ちゃん、そんなことで嘘つかないでしょう?」
「……ありがとう」
そうか……俺のこと、それくらい信頼してくれてるのか。
「あの、それで本題なんだけどね。俺が子供になってるときに、お父さんが家の近くまで来て、会っちゃってね」
俺は、父親が来たことと、千歳が怒って父親を追い払ったことを話した。
千歳は、おばあちゃんに申し訳なさそうに頭をペコンと下げた。
『ワシ、和泉はちっちゃいし、和泉大泣きするし、カッとなって怒鳴って脅して追い返しちゃったんです』
「まあ、その時はそれで終わったけど、本当にお金に困ってるならまた来るだろうと思って、おばあちゃんと対策を練りたくて」
「そうよねえ……」
おばあちゃんは頷いた。
「おばあちゃんは、お父さんがお金いる理由を自分からちゃんと説明したら、ある程度は貸そうと思ってるんだよね」
「ある程度はねえ。でも、釈が筋を通したとしてもある程度よお、おばあちゃんはね、栗田さんとここで長生きしたいから、その分のお金は必要なのお」
「そりゃそうだよね。俺は、悪いけどお父さんに貸すお金はないかな。貯金ないわけじゃないけど」
多少は貯金あるけど、父親に貸したいかというのは、また別の問題だ。
おばあちゃんは「それはそうよねえ……」とつぶやいた。
「あと、釈は自分に都合の悪いことはできる限り隠し通そうとするからねえ……」
「そうなの?」
「そうなのよお、おばあちゃんはね、豊ちゃんよりも長く釈と暮らしてきたんだからあ」
説得力がある……たしかに、俺は父親と18年と少ししか一緒に暮らさなかったしなあ。
「お父さんに、口割らせたい?」
「割るかしらねえ。おばあちゃん、釈は他にも何か都合の悪いこと隠そうとしてる気がするのよお」
「えっ、まだ何かあるの……」
正直、これ以上のトラブル嫌なんだけど……。
おばあちゃんは、少し視線を下に向けた。
「……くろはさん関連じゃないかしら、とは思うけどねえ」
「お母さん? 病気、ただの病気じゃないのかな?」
薄情だとは思うけど、俺、母親が病気だとしてもあんまり関わりたい気持ちが起きないんだよな……。
『でもお前、お母さんのことそんな好きじゃないだろ?』
千歳があまりにもドンピシャのことを言うのだけど、認めるとあまりにも薄情なので、俺は少し言い淀んだ。
「まあその……積極的に不幸になってほしいとまでは思わないけど、あんまり関わりたくはない」
『複雑だな』
「そんなに簡単なものではない……実の子供としては親不孝だと思うけど、このままフェードアウトできたらなあと思っちゃう」
おばあちゃんは深く頷いた。
「まあ……ねえ。扱いに困る人だからねえ」
おばあちゃんは、些細なことにもヒステリーを起こして大騒ぎする母親に苦労していた。大声を出されるのを怖がって腫れ物扱いしていたし、母親は全く家事をしないのに家事全般してるおばあちゃんに文句だけはつけるし、「扱いに困る」という表現はかなり控えめだと思う。
おばあちゃんは言った。
「でも、豊ちゃんが関わりたくないなら、釈が来ても「おばあちゃんに洗いざらい話せば多少は貸してくれる」だけ伝えてくれれば、それでいいからねえ」
「うーん、そうか……」
俺は、ふと思いついて言った。
「その一言でおばあちゃんの方に誘導できるなら、もうこっちからお父さんにその一言伝えるよ」
「そう?」
「着信拒否解除して留守電するか、ショートメッセージ送るかすればいいだけの話だから」
「豊ちゃん、嫌じゃないのお?」
「それくらいはやるよ、いい歳の大人だからね」
俺はおばあちゃんに微笑みかけた。そう、今の俺は2歳じゃなくて、30歳のいい歳の大人なのである。
そういうわけで、おばあちゃんとのビデオ通話が終わってから、俺は父親にショートメッセージを送った。
「お父さんが訴えられて示談金が必要なことと、お母さんが病気なのは聞いてる。おばあちゃんは、お父さんが洗いざらい話せば多少は貸すって言ってる。悪いけど、俺は貸せるお金はない」
けれど、俺の父親は、どうしても俺と会って話がしたいみたいだった。




