【若返り】は呪いじゃない
仕事初め。外仕事なのでスーツに着替えようとした俺に、千歳が言った。
『お前、世話になった人に会うなら、香水つけておしゃれしてったらどうだ?』
「あー、あのスノーミントなら爽やかで良さそう」
そう言う訳で俺は、千歳にもらったスノーミントの香水を肘の裏に一吹きしてスーツに着替えた。
待ち合わせの喫茶店まで出かける。いつも使う、個室のある喫茶店。萌木さんと久慈さんは、すぐ来た。
「おはようございます、直接お会いするの初めてですね」
俺は萌木さんに言った。基本フルリモートのうちの会社、グリーンライトは、社員が直接顔を合わせる機会がなかなかない。萌木さんにはこれまで本当にお世話になったが、直接会うのはこれが初めてなのだ。
「うん、和泉さんに直接会える機会だなと思って、千葉から車飛ばしてきちゃった」
萌木さんは微笑んだ。久慈さんから聞いてはいたが、萌木さんは上背があって横幅もなかなかある。画面で会うんじゃわからなかったけど、巨漢だったんだな……。
久慈さんが言った。
「個室席あるのいいですねえ、いい喫茶店だ」
「そうなんです、個室便利なんで、人と会う時よく使うんですよねここ」
そんなこんなで、俺達は萌木さんへの仕事の引き継ぎを無事済ませた。予定より少し時間が余ったな、と思ったところで、萌木さんが「ところで」と言った。
「あの……直接会いたかったのは、和泉さんにお礼を言いたくて。和泉さんに親のこと相談しなかったら、俺は思い切って生活を変えるのできなくて、奥さんも子供も手に入らなかったと思う。本当に、本当にありがとう」
萌木さんは、俺に深く頭を下げた。
「いえ、そんな……萌木さんが幸せなら良かったです、萌木さんがいなかったら今の仕事できてなかったし、恩返しできてうれしいです」
そうか、萌木さんはちゃんとやれてるのか。俺は父親とトラブル起こしそうだけど、似たようなことで困ってる人の助けにはなれたんだよな。俺は、少しと心が慰められた。
すると、久慈さんが「ん?」と眉をしかめた。なんだ? 俺の後ろの方に視線をやっている?
振り返ってみたけど、誰もいない。
「あの、すみません、この席使ってて……」
久慈さんが俺の後ろに話しかけた時、俺の耳元で、鼓膜を震わせるのではない声が聞こえた。
(やっぱり呪いはできんねえ。でも大丈夫、これは【祝福】やからね)
次の瞬間、萌木さんと久慈さんがどんどんおおきくなって、え、なあにこれ、くじさんともえぎさんがぼくをみおろして、わかんない、わかんない、よくわかんなくなった。




