しばらく家から出られない
緑さんの尋常ならざる電話に、俺は身を固くした。何があったの? 即千歳の安否を聞くようなこと!?
『わ、ワシ何もないけど、どうしたんだ緑さん、何があったんだ?』
千歳は戸惑いながら答え、俺にも聞かせたほうがいいと思ったのかスマホをスピーカーにした。
緑さんの声が聞こえた。
「あのっ、和束ハルが莫大な霊力を手に入れてしまったの、私の旦那がバカで霊力を渡しちゃったの!」
『ど、どういうこと?』
緑さんは詳しく話してくれた。緑さんの旦那さん、アレな噂がたんまりの朝霧春太郎氏だが、新年の神事のために霊力を貯めていたのを根こそぎ和束ハルに奪われたそうだ。
「本人は襲われたって言ってるけど、絶対違うのよ、だって現場に不妊治療の病院リスト落ちてたから……和束ハルの筆跡で……」
「え、どういうことですか?」
俺も普通に会話に参加してしまった。
「あ、和泉さんも聞いてくれてたんですか、助かる……あの、漫画とかで、「お前の願いを叶える代わりにお前の何かを差し出せ」みたいな契約結ぶのあるでしょう?」
「ああ、悪魔が願い叶えてやるから魂よこせみたいな」
「ああいう「契約」って、術をかけるのに非常に有効なんですね。願いをかなえる代わりに何かよこせって。で、旦那は多分子供を作る方法を願ったか何かして、その代償に霊力を根こそぎ持ってかれたんだろうと……」
朝霧春太郎氏は、自分の不妊をかたくなに認めず、自分の検査も拒み続けて、緑さんを病気にして子宮摘出に追い込んだ男である。
『え、じゃあ緑さんの旦那って病院行けば子供作れるのか?』
千歳は目を丸くした。
「多分そう、本当に願い叶えないと契約成立しないし、契約成立の力がないと霊力全部引き剥がすなんて真似できないから」
そういうものなんだ……。
俺は緑さんに聞いた。
「あの、和束ハルが強くなってしまったということですけど、千歳がまた狙われそうなんですか?」
俺にとって、朝霧春太郎氏の事情は割とどうでもいい。大事なのは千歳の安全。
「狙われる可能性は大いにあるんです……守り刀があれば変な術は弾けますけど、成功の可能性に賭けて和束ハルが千歳ちゃんの周りに現れる可能性は高いと思います」
「和束ハルが千歳を狙って、成功する確率は?」
「……わからない、としかいいようがないです。和束ハルはかなりの霊力を手に入れてしまったし、そこに本人の高性能な術式が合わさったら、どうなるか……」
『……ワシ、どうしたらいい?』
不安げな千歳の声に、緑さんは明確に答えた。
「守り刀に霊力を蓄えて。守り刀の術式が焼ききれないように注意して霊力を流しておいて。少しは守る確率上がるはずだから。あと、身辺になにか不審なことがあったらすぐ南さんに連絡してほしい、和束ハルが近くにいるかも知れないから」
『うん、わかった』
「あと、しばらく外に出ないでほしいの。家ってそれ自体結界だし。後で人をやって、千歳ちゃんちにできるだけ結界の強化を施すから」
『買い物もダメか?』
千歳はしょぼんとした。生活に必要なのもあるが、多分星野さんと一緒に買い物できないのが悲しいんだろう。
「俺が代わりに買いに行くよ」
俺は千歳の背中を軽くなでた。かわいそうだけど、千歳の安全には代えられない。
緑さんの慰めるような声がした。
「ごめんね、しばらくは我慢して。すぐに人をやって結界用の御札渡すから。今御札依頼してるから、できたら南さんが持っていくと思う」
『うん……』
そんなこんなで緑さんからの電話は終わり、千歳は大きくため息をついた。
『なんかとんでもない元旦になっちゃったな……』
「うん、でも、対策は教えてもらったし、しばらくは家から出ないようにして。俺、外に出る用事何でもやるから」
『でも、お前、6日になったら仕事だろ?』
千歳は不安げに俺を見上げた。
「俺の会社、仕事時間割と融通きくし、打ち合わせの予定なければいつでも外出れるから。土日もあるしさ、本当に外の用事何でもやるよ」
こういう時千歳のために働けなきゃ、俺は千歳を好きでいる資格がない。
『うん……じゃあ、頼む』
千歳は頷いた。
しかし、俺の親も不穏だし、千歳も危ないしで大変なことになってきちゃったな……。
と言っても、千歳の安全のためにできることは買い物代行くらいしかない。あとは……不安材料を減らすために、父親のことをおばあちゃんと栗田さんに相談しておくか。




