番外編 金谷千歳と顔合わせ
緑さんが「一度、うちのメンツと顔合わせしてくれない?」とのことなので、篩建築事務所分所に来た。川崎駅の東口を出て、少し歩いた辺りの貸しビルの一角。割と小さい事務所だな。
目立たないドアを叩いて『こんにちは!』と言ったら、すぐ緑さんが出てきてくれた。
「ごめんね、呼び出すような形で」
『ううん、一度来てみたかったし』
パッと見、地味な貸しオフィスなんだけど、ワシはなんとなく、霊力を込めた道具の気配を感じた。そうか、お祓いやるところなら、そういうの使うよな。
奥にあかりさんと、知らないおばさんがいた。緑さんが2人を手で示しながら紹介してくれた。
「常勤の実働部隊は、私と、あかりちゃんくらいしかいないの。で、こちら金栄さん。この分所の「すべて」をやってくれてる人だから、この人こそがこの事務所の要」
『こ、こんにちは』
なんかすごい人なのか?
「ただの事務方ですよ」
金栄さんは苦笑した。
「事務も経理も仕事の割り振りもなんだから「すべて」でしょ! 私たち、金栄さんいなきゃやってけないのよ! そうでしょあかりちゃん!」
話を振られたあかりさんは、笑いをこらえながら頷いた。
「「すべて」です。いつもお世話になってます」
あっ、裏方を全部やってくれてる人なのか。じゃあワシもちゃんと挨拶しとかなきゃ。
『じゃあ、ワシのこともよろしくお願いします!』
「よろしくお願いします」
金栄さんは笑って会釈してくれた。
『あのさ、緑さん。ついでだから、できてる分の御札持ってきた。とりあえず15枚』
ワシは御札を入れた封筒を緑さんに渡した。和束ハルを探すために、素質のある人の感知力を高める御札。
「ありがとう! すっごい助かる!」
緑さんは喜んでくれたけど、あかりさんがため息を付いた。
「探せる人増えて、和束ハルが見つかるといいんですけど……」
緑さんも暗い顔になった。
「それしかできないからねえ……」
「狭山さんが、見つけるのはとりあえずあとにして、襲われたらまずいところを守るべきだってずっと言ってて」
「そりゃできたらいいけど、探さないわけに行かないし、守るのはとんでもない霊力がいるし」
ふーん、そんな話出てるのか。ワシ、守り刀作ってもらってるし、狙われそうなところがあるなら守れたほうがいいよな。
……あ、そうだ。
『あのさ、前作った組紐みたいのでよかったら、ワシ作ろうか?』
「え、いいの!?」
緑さんは目をまんまるにしてワシを見た。
『いくついる?』
「え、ちょっと待って、どこに優先して配布するかまとめないと……いや、でも、タダってわけに行かないし、そんなにすぐお金用意できないのよ……」
緑さんは困りだした。
『払えるときでいい、和束ハルになんかやられると困るんだろ?』
和束ハル、何度も事件を起こしてる。ワシは爆発させられかけたし、和泉は殺されかけたし。そんな目に遭う人、増やしたくない。
緑さんは「え、そうなの?」と救われたような顔になった。
「そ、それじゃ、何年かかけて払うんでも大丈夫?」
『大丈夫』
「え、えっとじゃあ、御札終わったら組紐作って、できるごとにあかりちゃんに渡してくれない!? その辺の契約とかはハンコ押せばOKなまでにしとくから! 金栄さんが!」
『わかった!』
この時、御札を後回しにして、組紐を最優先で作ってれば、和泉には何も起こらなかったかもしれない。でも、それがわかるのは、ずっと後のことだった。




