大切な人とお参りしたい
どうせお墓参りに行くならお彼岸のうちにしよう、ということになって、早々に千歳(朝霧の忌み子の姿)とおじいちゃんのお墓に行くことにした。一度鎌倉駅まで行って、そこからはバスで向かう。
『結構遠いんだなあ』
「車があればそんなでもなさそうなんだけどね……俺免許ないし」
バスを降り、霊園の門をくぐってしばらく歩く。えーと、ここから、斎場ホールのある通りをしばらくまっすぐ行って、右に曲がって、階段を登ったところにおじいちゃんのお墓があったはず。
「えっと、斎場ホールに仏花売ってるみたいだから、一応それ買ってからお墓行きたい」
俺はスマホで霊園の案内を見つつ言った。
『そうか、お前のところ仏教なのか』
千歳は頷いた。そう言えば、仏教とか神道とか、千歳が来るまであんまり気にしたことなかったな……。
「宗派とかよく覚えてないけど、仏壇あったし、おじいちゃんのお葬式はお経あげてたねえ」
売店で見栄えのする花を買い、手桶に水を汲んでおじいちゃんのお墓へ向かう。おじいちゃんだけじゃなく、和泉家のお骨が全部入ってるお墓だ。
「うわ、雑草ひどいな」
お墓を見て、俺は思わず呻いた。墓石には特に汚れはなかったが、玉砂利の下から雑多な草がいくつも突き出ているのだ。うーん、墓石磨く用の金だわしは持ってきてるんだけど……。
『これくらいなら引っこ抜けるだろ、ワシも手伝う』
千歳が手近にあった雑草を引っこ抜いた。
「うん、ありがとう」
しばらく千歳と黙々と草取りをし、お墓はだいぶきれいになった。
「どうもありがとう、じゃ、本格的にお参りしようか」
俺は墓石に柄杓で水をかけ、花を供えた。千歳と二人でお墓の前に並び、手を合わせる。
おじいちゃん、ずっと来なくてごめん。しばらく人生が大変だったんだ。でも、今隣にいる人のおかげで今はちゃんとやれてるし、すごく幸せだよ。千歳っていう人なんだ。
特に恋愛関係ではないんだけど、いや俺は好きなんだけどまあそれは置いといて、俺が人生どん底のときに助けてくれた命の恩人なんだよ。これからもずっと一緒にいてくれるんだって。
結婚とか子どもとかは……千歳を好きな限り出来る気がしないんで許して欲しいけど、でも元気にやってるよ。仕事も割と順調だよ、漢方関係の仕事もしてるんだ。おじいちゃんにいろいろ教わったのが役に立ってるよ、本当にありがとう。
お祈りを終え、目を開けると、千歳が『ずいぶん長くお祈りしてたな?』と笑った。
「いやあ、近況報告とかしてたら長くなっちゃった。付き合わせてごめんね」
『別に、ワシも自己紹介してたらしばらくかかったし』
「なんて自己紹介したの?」
『んー、無難に。和泉と一緒に暮らしててて世話になってますとか、いろいろあったけど今は普通に暮らしてますとか、あと和泉はすごく優しくていいやつなのに全然結婚しそうにないから良縁を恵んでくださいとか』
あー、なるほど、怨霊とか子々孫々まで祟るとかは伏せたわけか……良縁はもう恵まれてるからいいけど。
「無難でありがとう、えーと、結婚とかは相手のあることだから長い目で見てください」
俺は千歳の考えを俺の結婚から逸らしたかったのだが、めちゃくちゃ追求された。
『そういうばっかで何もしてないだろうが! 肋骨治ったらバシバシ婚活させるからな!』
「そんなあ」
『そこまで情けない顔することないだろ?』
「そんな情けない顔してる?」
とはいえ、情けない顔にもなるかも。もう誰よりも大好きな人がそばにいるのに、その人に他の人と結婚しろって迫られるのは、それなりに、きつい。




