大切な人を会わせたい
バスと地下鉄を乗り継いで、おばあちゃんのいる老人ホームまで来た。面会許可が出たので、千歳(女子大生のすがた)も一緒だ。
「今の格好で無理してない?」
『まあまあ平気だ。帰ったらすぐお化けか朝霧の忌み子になりたいけど』
「ごめんね、おばあちゃんに会う間だけでもいいから」
『それは大丈夫だって。ほら、目上の人に会っても大丈夫っぽい服にしたんだぞ』
千歳はくるっと一回転した。長いワンピースの裾がふわっと広がる。フォーマル系の服を選んだとかで、きれいめの装いがずいぶん似合っている。
「本当、気を使ってくれてありがとう」
『まあ、これくらいはな』
老人ホームに入り、受付を済ませると職員さんにおばあちゃんの部屋まで案内された。栗田さんもいるそうだ。
「まあまあ、豊ちゃん! 千歳さんもこんにちは!」
おばあちゃんは相変わらず血色のよい顔で、元気そうだったので俺はホッとした。栗田さんもおばあちゃんの横に車椅子を寄せていて、俺たちに微笑して頭を下げた。
『こんにちは! はじめましてじゃないですけどはじめまして!』
「こんにちは、敬老の日に来れなくてごめんね、やっと千歳連れてこれる許可もらえたんで……」
「うん、会えてよかったわあ。千歳さん、いつも本当にありがとうねえ」
俺はおみやげに持ってきたお茶やお茶菓子を渡し、それから四人でなんだかんだ近況を話した。おばあちゃんは最近、杖でなくて歩行器を使うことにして、毎日縦横無尽に老人ホーム内を散歩しているとのことだ。
俺は、心停止して入院したことは千歳に隠してくれとお願いしていたけども、何もなかったと嘘をつききるのも無理そうだったので、先月末に肋骨が折れて大変だったことだけは話した。
おばあちゃんは目を丸くした。
「まあ! 大丈夫なの!?」
「今はもうだいぶよくなってるんだけど。しばらく千歳に介護されてたよ、一人で起き上がれなくてさ」
「まあまあ、まあ、千歳さん本当にありがとう……」
おばあちゃんは口を手で覆った。
『全然平気です、ワシ力強いし! カルシウムいっぱいの食事作るほうが大変でした!』
千歳は無邪気に笑った。
「うん、まあ、そっちもすごく気を使ってくれて、頭が上がらない感じ」
「もう本当に、豊ちゃんは千歳さんに任せておけば安心ねえ……」
おばあちゃんはしみじみと頷き、栗田さんがおばあちゃんの肩をつついた。
「あのことは話さなくていいのかい?」
「あ、そうだったわ、豊ちゃんと千歳さんが大丈夫ならお願いしたいことがあるの」
「え、何?」
なんか困ったことでもあるのか?
しかし、おばあちゃんが口にしたのは予想外のことだった。
「あのねえ……おじいちゃんのお墓に、お参りしに行ってほしいの。今、豊ちゃんは千歳さんと会えてちゃんとやってますって、報告に行って欲しいの」
おじいちゃんのお墓。そう言えば、実家を出てからろくにお参りしていない。あんなに尊敬していたおじいちゃんだったのに……。
俺は、良心がうずくのを感じた。
「わかった、時間見つけてお参りしてくるよ。千歳も、時間空いてたら来てくれないかな?」
『うん、行く』
千歳は素直に頷いた。おばあちゃんは「ありがとうねえ」と言った。
「最低限の管理は霊園にお任せしてあるんだけど……釈もくろはさんもお参りに行くほうじゃないし……」
おばあちゃんの顔に、明確に影がさした。釈は俺の父親の名前で、くろはは母親の名前だ。そうだな、父親は明確におじいちゃんに反目してたし、母親も自分をよく見せることに繋がらなきゃあんま興味ないからな……。
俺は、言葉に力を込めて言った。
「千歳と一緒に、今幸せにやってますって報告に行くよ。お墓の手入れもちゃんとしてあるか見ておく」
「うん、ありがとうねえ」
そう言うわけで、俺は千歳といっしょにおじいちゃんのお墓まりに行くことになったのだった。




