閑話 ストレス解消
俺は夕飯の後の残業中、千歳(朝霧の忌み子のすがた)は隣の机で鳴子の組紐作り中。しばらく集中していたのだが、千歳が『できた!』と叫んだ。両手には鈴のついた組紐。
「おっ、お疲れ」
『疲れたからぎゅーしろ、肋骨痛くない程度でいいから』
千歳はボンと音を立ててお化けの格好になった。
「え、話の流れがよく……」
千歳はぷーっとむくれた。
『ぎゅーしたらストレス減るって言ったのお前じゃないか! それともあれ嘘だったのか!?』
「いや、嘘じゃない、嘘じゃない、そっかストレスだったんだね、ぎゅーしよ、ごめん」
千歳は俺の懐に飛びこんで背中に手を回し、俺も千歳を抱きしめた。うん、いつものウレタン感触。これなら変な気持ちは起きない……多分。
『ぎゅっとしても痛くないか?』
「これくらいなら」
『……一応さ、鳴子が敏感になる術式もらって組み込んだんだけどさ、これで大丈夫かなあ』
千歳の声は不安げだ。
「やれるだけのことはやっただろ、大丈夫だよ」
『……嫌な奴が、お前かワシをまた狙うかもっていうの、怖い』
俺の背中に回った千歳の手が、ぎゅっと握りしめられるのを感じた。そうか、それもストレスだったんだな……。
「……これまで、なんとかなってきたしさ。備えられるだけは備えたし、なんとかなるよ」
俺は千歳の背中をポンポン叩いた。
『本当に?』
「だって千歳は鳴子も守り刀もあるし、俺は千歳のお守り改があるし。周りの人もみんな助けてくれるし。大丈夫だよ」
『うん……』
「備えられることは備えておいてさ、後は普通に暮らそう。毎日やんなきゃいけないことあるし、それこなすだけでけっこう大変じゃん?」
『……うん』
千歳は納得したらしく、俺に抱きついていた腕をほどいて体を離した。
『まあ、毎日お前の飯作るだけでもそれなりだしな。普通にやるか』
「いつもありがとうございます、俺は俺で仕事が詰まってるからやらないと」
『今日残業まだやるか?』
「今日はやる気なくなっちゃった」
『おい』
だって千歳と抱きしめあって話し合うなんて究極のプライベートだから、仕事のことなんて頭から飛んじゃうよ。
「まあ、明日朝早くからまたがんばるよ」
俺は進捗をスケジュールアプリにさっとメモした。
『うん、がんばれ、飯作ってやるし掃除も洗濯もしてやるから』
「ありがとう」
普通に暮らしていければいいんだ。千歳と一緒に、お互いやることを分担して、労わり合って。
……まあ、俺の千歳への気持ちは、隠しておかなきゃいけないけど。




