神様に礼を尽くしたい
朝起きたら、びっくりするほど体の調子が良かったので驚いた。起き上がるのはまだ痛いので千歳に助け起こしてもらったが、折れた肋骨以外は絶好調な感覚がある。
「なんかさ、ものすごく体の調子がいいよ」
『あっお前もか? ワシも!』
変な動きはともかく、普通に静かにしていれば肋骨も全然痛くない。本当に体治す力があるんだなあ、この宿……。
『……もしかしたら、できるかなあ?』
千歳は首を傾げた。
「ん? 何?」
千歳はボンと黒い一反木綿の姿になった。うわ、久々に見る!
『できた!』
「え、元に戻ったの!?」
千歳にもそんなに効果があったの!?
『んー、とりあえず一番楽なこれだけ出来る感じかな。他の格好はがんばらないとダメそう』
千歳は首を傾げた。
「でもよかったねえ」
千歳は目をキラキラさせながら俺に迫ってきた。
『この格好なら寝る時くっついてもいいよな? ていうかぎゅーもしてくれるんだよな?』
「えっと、まだ肋骨治ってないから、そっとね」
俺はそっと千歳を抱きしめた。弾力のあるウレタン感触。千歳も俺にそっと抱きついた。
うん、この姿なら邪な気持ちは起きないな……邪な気持ちなくても俺は千歳と触れ合えたら嬉しいし、今後はこの格好なら抱きしめるのをためらわないようにしよう……。
しばらく抱き合ってから、俺たちは体を離した。
『んー、この格好になれるようになったけど、昨日と姿違うとびっくりさせるかもしれないから、もとに戻るか』
千歳は再びボンと音を立てて朝霧の忌み子の姿に戻った。
「それが無難だね」
顔を洗って寝間着から着替え、コルセットもつけると、狐の女の子が来て「朝食を広間に用意させていただきます」と言った。
「あ、昨日夕飯いただいたところですね。すぐ行きます」
「いえいえ、どうぞごゆっくり」
広間に千歳と二人で行くと、もう九さんがいた。
「おはよう、調子はどうじゃ」
『すっごくいい!』
「おかげさまで、だいぶよくなりました。本当にありがとうございます」
俺は頭を下げた。おお、コルセットつけてたら前かがみになっても痛くないぞ!
『ワシも成長痛ちょっとよくなったんだ、ありがとう』
「そうか、霊力の方はどうじゃ?」
『多分結構よくなってる』
「そうか、よかったのう」
朝食が運ばれてきた。ナスとみょうがの味噌汁、きゅうりと紫蘇の浅漬、卵焼き、ご飯。うん、今日も五葷抜きだな……そうだ、多分食べた後、宇迦御魂神様に会うんだよな。
俺は一緒にご飯を食べている九さんに聞いた。
「あの、今日この後宇迦御魂神様にお会いするんですよね。礼儀正しくする以外、何か気をつけたほうがいいことってありますか?」
「礼を失さなければそれでよい。お主なら大丈夫じゃ。気をつけなければならんのは千歳じゃな」
『ワシ?』
いきなり話を振られて、千歳は目を丸くした。
「お主、誰に対しても気安い言葉を使うじゃろうが。宇迦御魂神様には敬語を使え」
『え、うん、ごめん……』
千歳はシュンとした。ちょっとかわいそうなな気もしたが、千歳が誰にでもタメ口なのは、言われてみたら確かによくないことなので、俺は言った。
「俺のおばあちゃんに会うときとか、ちゃんと敬語使えてたじゃない。あんな感じでやれば大丈夫だよ」
『うん……』
朝ご飯後、九さんに「宇迦御魂神様とお会いする前に口を清めてこい」と言われたので、二人で歯磨きしてきた。
また広間に戻ると、九さんが「こっちじゃ、宇迦御魂神様がもうすぐおいでになられる」と俺たちを手招きした。
案内されるままついて言った先にあったのは、きれいに整地された広場と、その先に立っている巨大な鳥居だった。
九さんが鳥居に向かって言った。
「恐れながら申し上げます、例の二人を連れてまいりました」
すると、鳥居の向こうがふわっと光り、光りが集まってできた光の玉が鳥居を通り抜けた。
そして、光の玉は天を突くように大きい女性の形になり、ゆったりした服を着た巨大な女性が姿を表した。
[おお、よく来たな。お前たちが、和泉豊と金谷千歳か]
ゆったりとした声は、耳に響くのではなく頭の中に直接響いた。




