神様と少し話したい
宇迦御魂神様は、おだやかな微笑みを浮かべていった。
[今回の件だが、特に礼はいらない。お前たちで解決したようなものだからな]
え、どういうこと?
俺は、神様に口を利いていいものか迷ったが、そんなに怖い人でもなさそうなので思い切って聞いた。
「あの、でも、私にかけられた術を焼き切るための霊力の半分を分けていただいたと聞いておりまして……ぜひお礼を申し上げたかったのですが」
[それだが、私の霊力ではない。そこの金谷千歳のものだ]
宇迦御魂神様は、巨大な手で千歳を指さした。千歳は目をまん丸くした。
『え、ワシですか!?』
[佐和水香と言う娘が、お前に霊力を分けろと言いに来ただろう]
『は、はい』
[追加で同じことを2回してくれと言いに来ただろう、あれは実は私だ]
『ええ!?』
「ええ!?」
千歳とハモってしまった。え、じゃあ、1回目の時点で必要な霊力1/4は賄えてて、あと2回で2/4も賄ったの!?
宇迦御魂神様は、口に手を当てて笑った。
[皆、お前の回復力を見誤っていた。霊力を搾り取ろうと思ったら、もっと搾り取れたのだ。誰も気づいていないようだったから、私が佐和水香の姿で霊力を絞りに行ったら、必要な分は手に入ったのだよ]
そ、そうだったのか……。
俺は口を開いた。
「いえ、それならなおさらお礼を申し上げなければなりません」
[何を? 私の霊力は何も分けていないぞ?]
「でも、千歳からもっと霊力を分けてもらえることにお気づきだったのは宇迦御魂神様だけで、千歳から霊力を引き出すために一芝居打ってくださったのは宇迦御魂神様なので、宇迦御魂神様がいらっしゃらなければ、今、私は生きていませんでした。本当にありがとうございます」
俺は頭を下げた。俺を見て、千歳も頭を下げた。
『本当にありがとうございます! 和泉を助けてくれて本当にありがとうございます!』
宇迦御魂神様はきょとんとしていたが、やがて愉快そうに笑い出した。
[ふふふ、では気持ちは受け取っておこう。あと、大したことではないが、お前たちに少し教えておこうと思ったことがある]
「なんでしょう?」
[和泉豊。お前はな、そこの金谷千歳に出会っていなければ、一昨年の冬に死んでいたのだよ]
「え!?」
一昨年の冬……あ、悪霊に俺がさらわれた時!
千歳もピンときたみたいだった。
『えっ、こいつ悪霊にさらわれて殺されてたんですか!?』
[一言で言えばそうだ。まあ、蝶の羽ばたきが回り回って台風を作るようなものだが、お前がいなければ和泉豊は体が治っていなくて、遠くに流行り病のワクチンを打ちに行かなくて、悪霊になる前の鹿沼もみじに会わなかったのだよ。それで、鹿沼もみじの母親を騙した一味とみなされて殺されていたのだ]
九さんが俺たちに説明してくれた。
「宇迦御魂神様はな、絶対の予知ではないが、かなり正確に未来を予測されるし、【もしあの時何かが違っていたら】というのもある程度ご存知なのだ」
「そうなんですか……」
『えっと、じゃあ和泉はワシと会ったから今も生きてるんですか?』
千歳が聞くと、宇迦御魂神様は頷いた。
[その通りだ。お前たちは、出会う確率がとても低かったから、今2人でいて、そのおかげで生き延びているのはまさに奇跡なのだよ。せっかくの縁なのだから、大事にするのだな]
『は、はい……』
千歳はさっきからびっくりしっぱなしの顔をしている。いや、俺もびっくりしっぱなしなんだけどさ。
[それでな、金谷千歳。がんばったお前に少しおまけをしてやろうと思ってな]
『え? おまけですか?』
千歳はまた目を丸くした。
[お前は、今の姿は数えで16だが、国に登録してある年はもう少し高いのだろう?]
『えっと、戸籍では満二十歳です』
[では、満で二十歳まで生きていた時の姿を教えてやろう]
宇迦御魂神様は、千歳をひとつかみできそうな大きな手を伸ばし、人差し指で千歳の頭にそっと触れた。すると、ボン! と音がして、千歳は少し背が伸び、大人びた姿になった。
……いやいや、体のラインがもっと女の人らしくなってる! それをちょっときつい服がさらに強調してる! こ、これはあんまり見たらまずいやつじゃないか!? す、すごくきれいな美人で、あんまりジロジロ見たらそれだけで失礼に当たるような……。
千歳は、二十歳になった顔で目をパチクリした。
『え、え、これ、ワシ大人になったんですか!?』
[まあ見た目はな]
千歳は、なぜかしゅんとした。
『でもワシ、まだいろいろ子供だから、この格好の資格ないかもしれません……』
宇迦御魂神様はまたきょとんとしたが、かわいらしいものを見たときみたいに笑った。
[もう少し成熟したと思えたら使うとよい。まあなれる姿が増えて役立つと思え]
『はい、ありがとうございます』
千歳は頭を下げ、ボンと音を立ててまた中学生くらいの姿になったので、俺はホッとした。
[では、話は済んだのでこれでな。これでも今の時期はずいぶん忙しいのだ]
宇迦御魂神様はまた光の玉に戻り、鳥居を通って消えた。
……どんな人か怖かったけど、確かに礼を尽くせば怖い人じゃなかったな。ていうか、俺達はものすごく助けられていた……。
大きく息をつくと、千歳が『すっごく緊張した……』と同じく安堵のため息を付いた。九さんが言った。
「礼を尽くせばお優しい神様じゃ。まあ無事に会わせられてよかった」
というわけで、主目的は達成したので、俺達は狐のお宿から帰ることになった。この宿の玄関の引き戸を、俺の家の玄関につなげてくれるそうだ。
俺は包んでおいたお金を九さんに渡そうとしたのだが、「アホタレ、宇迦御魂神様に合わせる口実に我が家に来いと言ったのがわからんのか。お主に金を払わせるためではない」と言われてしまった。
「お主今日も仕事なのじゃろう、早く帰って早く働け」
まったくもってその通りなので、俺達はお礼だけ何度も言って家に帰った。せっかく体調よくしてもらったし、確かに頑張って働かなきゃな。




