痛いのだけは消したげたい
千歳は朝から新幹線で関西行きで、夜まで帰ってこない。一人でさみしいなと思いつつ、仕事して作り置きの夕飯食べて、仕事済ませてのんびりしてた。そしたらインターホンが鳴って、対応したら九さんだった。
「様子はどうじゃ」
「あ、こんばんは! すみません、先日は助けて頂いたのにろくにお礼もせず」
「水香に礼を伝えておいてくれたじゃろう、それでよい」
とりあえず九さんを家に上げて、お茶を出そうとしたら、九さんに止められた。
「怪我人が無理をするでない、湯呑みだけ出せ」
九さんは手提げから魔法瓶と干し柿を出した。
「妾の家の茶の木で作った茶での。干し柿も妾の家のものじゃ。多少だが、体を癒やす力がある」
九さんは、湯呑みにお茶を注いで俺に勧め、干し柿もくれた。
「ありがとうございます、何から何まですみません」
二人でお茶を飲みつつ、俺はなんとか頭を下げた。前かがみになるとやっぱ痛いな。
「今回は本当にありがとうございます、宇迦御魂神様にもお礼を言いたいのですが、本白神社にお参りすれば大丈夫でしょうか?」
「まあ、それでもよいのじゃが」
頷きつつも、九さんは何か違うことを言いたそうだ。
「宇迦御魂神様がな、お主と千歳にお会いになるそうじゃ」
「え、そうなんですか?」
その時玄関が開いて、千歳の『ただいま!』が聞こえた。
『あれ、九さん!?』
「邪魔しておるぞ」
「わーちょうどよかった、お願いしたいことあったんだ」
千歳は嬉しそうに九さんのところへやってきた。
「千歳、話の前に手洗ってうがいしてきな」
『はーい』
「流行り病も大変じゃのう」
「なかなかなくならないんですよね……」
話していると、洗面所でいろいろ済ませてきた千歳が戻ってきた。
「一応お主ら二人の様子を見に来たんじゃが、なんぞ困ったことでもあるのか?」
『えっと、九さんは人の痛いの抜けるんだろ、それをまた和泉にやってほしい』
千歳は俺を指さした。
「俺?」
『だってお前、痛くて起き上がるのも一人じゃできないし、シャワー浴びるだけで温まって炎症がひどくなって痛いって騒ぐじゃないか』
「まあそれはそうなんだけども」
肋骨の折れたところの炎症がひどくなるので、湯船に浸かって温まるのはできない。なので入浴はさっとシャワーで済ませるのだが、それでも体が温まるので痛い。ていうか日常動作で不意に体を捻るだけで痛いし寝返りもままならない。
九さんは浮かない顔をした。
「できないわけではないんじゃが……和泉のような人間にはしたくないのう」
『えっなんで!? 前はしてくれたのに!』
「前は妾に敵意がないと言いたかったし、軽い打撲だったから痛みを抜いてやったが、今回はひどい怪我じゃ。和泉、お主のような人間は痛くなくなったら無理をするじゃろう。そうしたら治りが遅くなるし、体のためにならん」
うーん、まあ、痛みは体の危険信号だからな……。
「すみません、確かに痛くなくなったら無理しそうなんで、このままでいいです」
『じゃあ、しばらく痛いままなのか……』
千歳はしょぼんとした。九さんはとりなすように言った。
「別に何もしてやらんということではない。そうじゃな、和泉、明日の夜、妾の家に泊まりに来んか? 千歳、お主も一応ついてこい」
『え?』
「え?」
今の話と九さんちに泊まるのがどういう関係が……あ、九さんちで採れたものが体を治すから、家自体にも何かあるのか?
「千歳、要はお主、和泉を早く治してやりたいんじゃろう?」
九さんは穏やかに千歳に聞いた。
『うん』
「妾の家は異界にあるでの、そこで食事して一晩休んだら、多少ながら治りが早くなる。だから、家で一晩泊まってはどうじゃ」
『ワシも泊まっていいのか?』
「お主も今回の件でだいぶ霊力を使ったじゃろう。おまけで休ませてやる。あと、和泉には話したんじゃが」
九さんは居住まいを正した。
「宇迦御魂神様がお主らとお会いになって、お話をされるそうじゃ。泊まった次の日の朝、宇迦御魂神様がお越しになるじゃろう」




