君の誕生祝いたい
土曜日、小児科の予約の日。千歳と二人でりゅーちゃんを連れて行って、怖がるりゅーちゃんをなだめて、今打てるワクチンを全部打ってもらって、泣くりゅーちゃんをなだめて。
「りんごじゅーちゅ……」
『よしよし、帰ったらあるからな』
「あんぱんまんちょこもたべゆ……」
「1本だけね」
そんな事を言いながらバス停に行き、バスを待っていたら、スマホが震えた。この震えは電話だな。
スマホを見ると、和泉辰の表示。アドレス帳に登録した覚えはないが、あの子ならスマホの表示いじるなんてお茶の子さいさいか。
俺は電話に出た。
「はいもしもし、どうしたの?」
[すぐ出てくれて助かる。実は、あなたの耳に入れたいことがあったので知らせに来た]
「何?」
[先日、私の愛すべき人、和束美枝氏と初めて直接話したのだが]
「え!? ええ!? 和束美枝さんだったの!?」
愛すべき人!? 和束美枝さん!? そりゃ、確かに辰くん(ちゃん)と縁がある人だが……。
辰くん(ちゃん)は言葉を続けた。
[彼女は支援と愛を必要としていた。どちらも提供できるのは、私しかいなかった。まあ、実務的なことは弁護士の力を借りているが]
「そうだったんだ……」
[それから、彼女とちょくちょくやりとりしている。彼女は、産んだ子全員の誕生日を覚えていたよ。本人は自分の子を愛せなかったと言っているが、育てる能力に難があっただけで、愛はあったと私は考えている]
「そうか……そうだね」
[それで、大変なことが判明したのだが]
「え、何!?」
まだ何事かあるの!?
[金谷竜くんの誕生日は、今日だ]
「ええ!?」
今日!? 今日三歳の誕生日!?
[命に関わるようなことではないが、あなたは知りたい情報だろうと思って]
「うん、教えてくれてよかった、ありがとう」
三歳の誕生日……お祝いしてあげなきゃ、ちゃんと。
[では、いろいろやることがあるので、これで失礼する。和束美枝氏とのこともあるしね]
「うん、とっても助かったよ、ありがとう」
俺は電話を切り、不思議そうにしている千歳に「りゅーちゃんの誕生日、今日なんだって!」と伝えた。
『マジか!?』
「うん、和束美枝さん、産んだ子の誕生日全部覚えてたんだって」
『マジか、そうか、じゃあ今日ケーキ買ってやらなきゃ』
りゅーちゃんは「けーき?」と不思議そうだ。
『ケーキは甘くておいしいのだぞ、りゅーちゃんは今日3歳だからケーキ食べていいんだぞ』
「けーき!? あまい!?」
『うん、とっても甘いぞー』
千歳はりゅーちゃんの頭をなでた。俺は言った。
「プレゼントもあげなきゃ、何がいいだろう」
『お絵かき好きだし、なんかその辺でいいのないか?』
「うーん、じゃあ、いい画用紙と、あといいクレヨンとかにするか」
『駅前にいかないとケーキ屋ないし、家に帰る前に駅前行こう』
「そうだね、駅前なら文房具屋もあるしね」
そう言うわけで乗るバスを変更、駅ビルがある方の駅へ。りゅーちゃんは、大量の人が往来する駅前を見て目をぱちくりしていた。
「いっぱいいゆ」
「もっといっぱい人がいるところたくさんあるよ」
「もっといっぱい……!?」
まず文房具屋に行く。俺はいい画用紙のスケッチブックを手に取り、クレヨンも探して、32色のがいいやつだろうと思って買った。
「ほら、これでたくさんお絵描きしようね」
「いまおえかきすゆの」
『おうち帰ってからな』
それからケーキ屋に行き、するとりゅーちゃんはケーキのショーケースにひっついて離れなくなってしまった。
「じぇんぶ! じぇんぶたべゆの!」
『全部はダメ! お腹壊すぞ!』
「一個だけだよ、どれが一番いい?」
「じぇんぶたべゆのー!!」
りゅーちゃんは渾身の力を込めて叫んだ。俺は困って千歳を見た。
「どうしよう」
『まあ誕生日だし、景気よくホールケーキ買おう。一番デコレーションが多いやつ』
そう言うわけで、クリームとフルーツと砂糖菓子の人形が乗ったショートケーキをホールで買った。誕生日用のろうそくももらい、りゅーちゃんをショーケースから何とか引き剥がし、帰途につく。
夕飯にはケーキと、りゅーちゃんの好きなものばかり出た。鮭おにぎり、五目豆、かぼちゃの煮物。
ケーキに火をつけたろうそくを立て、俺たちはりゅーちゃんに言った。
「ふーして火を消すんだよ」
「ふー?」
『ろうそくにお口ふーっとしな』
りゅーちゃんはよくわかってない顔で「ふー!」と騒ぎ、「きえい!」とろうそくの火をつかもうとしたので、俺たちはあわててりゅーちゃんの手を押さえた。
「火はちょっと早かったか……」
『消しちゃえ消しちゃえ』
千歳が火を吹き消し、その隙にりゅーちゃんはケーキを手でもぎとって口に入れてしまった。そして目をまんまるくした。
「おいちい……」
もしかして、りゅーちゃんはケーキ食べるの初めてか? いや多分そうだ、誕生日祝ってもらってた可能性低いもん。
「おいしいねえ、でもまずご飯食べようねえ」
「や! けーきもっとたべゆ!」
りゅーちゃんがさらにケーキをもいで、口周りをクリームでべったべたにして食べるので、千歳が『こりゃもうダメだ』と天を仰いだ。
『まあ誕生日だし、今日はもう特別! 好きなだけ食わせよう』
「まあ、食べられそうならご飯も食べさせようね、栄養的な意味で」
「おいちいー!」
りゅーちゃんは全身が嬉しそう。そうだね、誕生日だもんね、これくらい楽しくったっていいよね。これから毎年、君の誕生日を祝おうね。
俺は、べったべたになりながらケーキを食べているりゅーちゃんの写真を撮って、これからも記念日の写真はたくさん残しておこうと思った。




