君の姿を残したい
ところで、りゅーちゃんはよく転ぶ。普通に歩いてるときはまだ大丈夫なのだが、少し走るとすぐ転ぶ。何でもない顔で起き上がるので、足が痛いとかではないみたいなんだが。
「たぶん足の筋力がないんだな……ずっと地下室暮らしだったんだもん」
朝食の時に千歳にそう言うと、提案があった。
『外遊びさせてみるか? 3時間なら他の人と会ってもよくなったし』
「でも、りゅーちゃんの靴買わないと無理じゃない?」
『お前がチビになったときの靴あるだろ、あれ試してみるよ』
卵かけご飯をスプーンですくっていたりゅーちゃんが首を傾げた。
「あちのきんりょくってなーに?」
「あんよを動かす力のことだよ」
りゅーちゃんは足をバタバタさせて「あちのきんりょく!」と騒いだ。
そんなわけで、俺が子どもになったとき使ってた靴をりゅーちゃんに履かせてみたら、ぴったりだった。
「おくちゅ! おくちゅはいた!」
りゅーちゃんは、靴を履いただけで飛び上がって喜んだ。りゅーちゃん、下手したら靴履くの初めてなんじゃないか? 地下室じゃ靴なんて履かなかっただろうし、うちに来てからもまだ外に出してないし……。
『とりあえず、今日の午前は裏庭で遊ばせてみるよ』
「そっか、でもそのうち公園にも連れてってあげたいね」
休日ながら仕事があったので、俺はしばらく2階にいたのだが、10時頃にお茶を汲みに一階に降りたら、草と泥でぐちゃどろのりゅーちゃんと千歳が悪戦苦闘してるところだった。
『ああー……風呂だこりゃ』
「す、すごいことになってるね……」
「おとしあないっぱいほったの!」
りゅーちゃんは、泥だらけのスコップを誇らしげに掲げた。千歳が庭木の世話するのに使ってるやつだ。
千歳はため息をついた。
『スコップ持たせたら、全身で掘りまくってこれだよ……まあ、体は動かしたかな』
千歳はりゅーちゃんを抱き上げたが、りゅーちゃんが歩いたらしき床もぐちゃどろ。
『ワシりゅーちゃんを洗ってくるからさ、床頼めないか?』
「お風呂? 千歳大丈夫なの?」
『下着だけ着て洗う』
「そう、じゃ床拭いとくから」
「ちーちゃんとおふろ!?」
りゅーちゃんは目を輝かせた。
『ちーちゃんはお風呂入らないぞ、りゅーちゃんを洗うだけ』
「ええー?」
明らかに不服そうなりゅーちゃんを抱いて、千歳はお風呂場に消えた。俺は雑巾を出してきて床を拭いたが、きれいになるまで3回雑巾がけが必要だった。
まあ、これが小さい子の面倒を見るということか……りゅーちゃんのこれまでを考えたら、体を使う遊びはどんどんさせたいから、これくらいは甘受しよう。
例年ほどではないが、外は暑い。外遊びさせるなら、もっと早い時間のほうがいいのかな。
そういうわけで、翌日。早めに起きて、早めに朝ご飯にして、千歳と二人でりゅーちゃんを近所の公園まで連れて行くことにした。
「こうえんってなーに?」
「遊ぶものがいっぱいあるんだよ、お砂場もブランコも滑り台もあるよ、たくさん掘ろうね」
「おしゅなば!? ぶらんこ!?」
飛び跳ねて喜ぶりゅーちゃん。
『お外はぶーぶーがたくさんいるからな、危ないからな、ワシと和泉おじちゃんとちゃんと手ぇつなぐんだぞ?』
「ぶーぶーいゆの!?」
りゅーちゃんはさらに興奮した。
「ぶーぶーさわゆ!」
「だめ! 危ないよ!」
『触ったら痛い痛いだぞ! ケガするぞ!』
俺と千歳は、慌ててりゅーちゃんに車の危険性を刷り込んだ。こんなんで外に連れ出せるのかな……。いや、千歳と二人でしっかり手をつないでおくしかないか……。
小さいバケツにスコップを入れて水筒に麦茶を詰めて、千歳と二人、りゅーちゃんの手をつないで公園まで歩く。2歳児の歩幅に合わせて歩くのは大変で、本当に近所の公園なのにだいぶ時間がかかった。まあ、りゅーちゃんに足の筋力つけさせる役には立ったかな。
公園に着き、りゅーちゃんに遊具を見せると、りゅーちゃんは砂場に一目散に駆け出して、またずべしゃと転んだ。
「大丈夫!?」
『大丈夫か!?』
「おしゅなほゆ!」
りゅーちゃんは何事もなかったかのように立ち上がり、砂場にログインし、「すこっぷ!」と騒いだ。
「おしゅないっぱいあゆ! いっぱいほゆの!」
「はい、スコップ」
スコップを渡してあげると、りゅーちゃんはすごい勢いで砂を掘り出した。
「おとしあなつくゆの!」
『誰を落とすんだよ』
「お山作るのも楽しいよ、ほら」
りゅーちゃんが掘った砂プラスアルファで俺が適当に山を作ると、りゅーちゃんは目を丸くした。
「おおきいねえー!」
「りゅーちゃんならもっと大きいの作れるよ」
『ほんと!?』
「周りからいっぱいお砂持ってくるんだよ」
「おやまつくゆ!」
「バケツにお砂入れようね」
「うん!」
りゅーちゃんはバケツに砂を入れまくり、俺が作った山にどさーっと被せ、「おやま!」と喜んだ。
『おー、すごいすごい』
「ちゃんとできたねえ」
りゅーちゃんが来てから。面倒を見るのが大変で、ゆっくり散歩しつつ花を撮る時間はなくなったけど、りゅーちゃんと遊ぶ時間は幸せだな。
俺はスマホを取り出した。
「りゅーちゃん、こっち向いて」
「あい!」
「はい、お写真撮るよー」
俺は、砂まみれのりゅーちゃんの写真を何枚か撮った。
りゅーちゃんがいつまで家にいるかわからないけど、小さい時の写真はいっぱいあっていいと思うし、うちに来るまでのりゅーちゃんは写真になんて残ってないだろうし、これからはたくさんりゅーちゃんの写真を撮ろう。それで、いずれりゅーちゃんの引き取り先が決まったら、その人に撮った写真を全部渡そう。




