何があったか整理したい
和束みやびによる嬰児連続殺人のニュースが続いている。新たに判明したのは、子供たちが生まれたその日に水に浸けて殺していたこと、産んだ和束美枝さんには人の養子にしてかわりに金をもらっていると伝えていたこと、嬰児たちの骨だけでなく髪も取っておいて術式に使っていたこと……理想の世界を作るために子供工場を作り嬰児殺しをした、という動機もマスコミに流れていた。世間的にはカルト宗教家の妄想と受け取られているが、その理想のループ世界を体験させられた人間としては複雑だ。
和束美枝さんは、「何も知らなかった」とひたすら混乱して泣いているとのこと。彼女のSNSの書き込みも出てきて、いわゆる引きこもりだったとみなされているので、母親にだまされて利用されていたのだろうということになってきている。この人は、ただひたすらに気の毒だ……。
で、りゅーちゃんの周りに三時間限定で人がいられるようになったので、警察がりゅーちゃんに話を聞きたいとやってきた。強面の警察官が来たらりゅーちゃんがかわいそうだと思っていたのだが、来たのは優しそうなおばさん二人だったので、俺も千歳も安心した。
婦警さん二人を家に上げて座卓についてもらい、「りゅーちゃん! お話できるかな?」とりゅーちゃんを連れてくる。りゅーちゃんはきょとんとしていた。
「だーえ?」
婦警さん二人はりゅーちゃんに微笑んだ。
「りゅーちゃんにお話を聞きに来たの。ねえ、りゅーちゃんは、この人誰かわかるかな?」
婦警さんの一人が写真を出した。写っているのは、和束ハルにちょっと似た30代くらいの女性。泣き腫らしたような目をして、かなり憔悴している。そうか……和束美枝さん、今こんななんだ……。
りゅーちゃんは「?」と首を傾げた。
「わかんないの。しやないの」
「そうなのー、ありがとうね」
後ろに控えている婦警さんが、手元のメモに何か書き付けた。そうか、和束美枝さんはやっぱり自分の子供全部と引き離されてたんだ。りゅーちゃんに聞いてるのは、その確認かな?
婦警さんは、今度は別の写真を取り出した。
「じゃ、この人誰かわかるかな?」
写っているのは60代くらいの女性。アジトでちらっと見た、多分和束みやびだな。
りゅーちゃんは、今度は「ばーば! ばーばなの!」と騒ぎ出した。
「そう、ばーばはどんな人?」
「おこる! すぐいなくなっちゃう!」
「どんなふうに怒るのかな?」
「おっきいこえ! ねぇねにもおっきいこえ」
怒鳴るってことか? 堀江さんも怒鳴られてたのか。
婦警さんは続けてりゅーちゃんに聞いた。
「ばーばに痛いことされたことある?」
「おみみいたいいたいなの、おっきいこえなの」
叩かれたりはしなかったのか、でも耳が痛くなるくらい怒鳴られたと……。
後ろに控えた婦警さんがまたメモに何か書きつけ、婦警さんは、また別の写真を出した。
「じゃあ、この人誰かわかるかな?」
写真に写っていたのは、心細げな顔の堀江さん。この子には弁護士ついてるみたいだから、たぶん大丈夫だと思うけど……。
りゅーちゃんは「ねぇね!」と騒いだ。
「ねぇねはどんな人?」
「やちゃちいの! だいちゅきなの!」
「そう……」
婦警さんは、りゅーちゃんの頭をなでた。千歳が痛ましい顔をした。そうだよな……。
婦警さんは、りゅーちゃんに聞いた。
「ねえ、りゅーちゃんには、誰がご飯くれたのかな?」
「ねぇね! あとちょっとばーば」
「じゃあ、誰がりゅーちゃんと遊んでくれたのかな?」
「ねぇね! ばーばあしょんでくれないの」
「お風呂は、誰と一緒に入ったのかな?」
「ねぇね!」
「そっかあ……」
婦警さんは、後ろに控えた婦警さんを見てうなずいた。堀江さんの言ったことと合ってる、みたいなことかな?
婦警さんはまたりゅーちゃんに向き直った。
「りゅーちゃんは、おうちから出たことある?」
「いまでてゆの」
「じゃあ、ここじゃない他のところに出たことある?」
「ないの」
「そうなのね」
婦警さんは微笑み、りゅーちゃんの隣に座っていた俺たちを見た。
「これで、だいたい大丈夫です。後は、DNA鑑定のために、りゅーちゃんのほっぺの内側を綿棒でこすらせてほしいのですが」
千歳が目をぱちくりした。
『え? もうはっきりしてないですか? 誰が親かって』
「状況証拠でしかないので。きちんとした証明をしておかないと、ややこしいことになります」
『へえー、そうなんですね』
なるほど、万が一のこともあるしな。
婦警さんが綿棒を取り出したので、俺はりゅーちゃんに「お口あーんして」と促した。
「あー」
「ちょっとお口もぞもぞするよ、じっとしててね」
俺がりゅーちゃんを押さえると、婦警さんが「助かります」と言い、「りゅーちゃん、すぐ済むからね」と綿棒をりゅーちゃんの口に入れて念入りにこすった。すぐりゅーちゃんの口の中から綿棒を出す。
「はい、りゅーちゃんこれでおしまい。ありがとうね」
「うん」
りゅーちゃんは何もわかってない顔だったが、とりあえず返事していた。
その後、婦警さんにりゅーちゃん保護時のりゅーちゃんの状態を聞かれ、素直に答えたら、その後俺達とりゅーちゃんの関係を聞かれた。千歳が普通に言った。
『ワシは、りゅーちゃんの父方の家の、朝霧家の分家の者です。ちょっと前に金谷家の養子になったから、苗字は朝霧じゃないんですが』
言ってることは事実しかない。というか、俺が一番りゅーちゃんとの関わりが薄いな!?
微妙に居心地の悪さを感じつつも、俺も説明した。
「私は千歳の同居人ですね、もう四年くらいい一緒に暮らしてて」
婦警さんは俺に聞いた。
「お二人で面倒見てらっしゃる?」
「はい」
『ワシがしばらく調子悪かったんで、和泉だけで面倒見てる時もありました』
「そうなんですね」
婦警さんがうなずくと、りゅーちゃんは飽きてきたみたいで、俺の膝に上半身を投げ出した。
「おじちゃん、だっこちて」
「はいはい、だっこだっこ」
りゅーちゃんを抱き上げて膝に乗せると、後ろに控えていた婦警さんがまた何かメモに書き付けた。もう一人の婦警さんが聞いてくる。
「今後もお二人で面倒を見られる予定ですか?」
「まあ、引き取り先が決まるまで……いろいろあって、今は他の人だと長時間面倒見られないので」
『別に面倒見るの長くなっても大丈夫ですけどね、ワシも和泉も家仕事だし』
「わかりました」
そして、婦警さん二人は俺たちに頭を下げた。
「では、これで大丈夫です。失礼させていただきます」
「はい、お疲れさまです」
そういう訳で警察の人は帰っていき、俺はホッとした。やれやれ、仕事戻らなきゃ。
『りゅーちゃんはワシが面倒見とくから、仕事しろ』
「ありがとう。お風呂と寝かしつけは俺がやるからね」
『頼むな』
そういう訳で俺は2階に行って仕事に戻ったのだが、夕飯時になって仕事を切り上げようとした時、スマホが震えた。Discordの通知が来ていて、俺のファンからのダイレクトメッセージだった。
[いきなりで済まない。あなたに私の名付け親になってほしいのだが、頼まれてくれないだろうか?]




