子育てと仕事両立したい
翌朝。りゅーちゃんに朝食を食べさせていると、千歳が起きてきた。
『腹減ったあ、おはよう……』
「おはよ、とりあえず食べな、ごはんたくさん炊いてあるから」
『うわー、さんきゅ』
りゅーちゃんは、まともに動いて喋る千歳を見てびっくりしている。
『おっ! チビ!』
千歳はりゅーちゃんを見てにぱっと笑い、りゅーちゃんの頭をなでた。
『しばらくよろしくな!』
「ねぇね? ねぇねじゃない?」
『うん、ねぇねじゃないなーワシは。ちーちゃんだ』
「ちーちゃん!」
りゅーちゃんは嬉しそうに千歳を呼んだ。俺は言った。
「名前なかったから、竜って名前つけたんだよ、りゅーちゃんって呼んだげて」
りゅーちゃんはスプーンを持ったまま両手を上げた。
「ないないちゃんはりゅーちゃんなの!」
『おー、りゅーちゃんか!』
俺はとりあえず炊いといたご飯を全部出し、千歳はそれに加えて冷食のチャーハンとピラフも爆食していた。俺はりゅーちゃんの手と口を洗わせて、お絵かきさせて静かにさせたあと、千歳に「食べながらでいいから聞いて」と和束みやび事変の決着をかいつまんで話した。
『そうか……まあ、和束美枝さんはかわいそうだけどな』
「罪に問われてほしくないけどね。でも、俺たちはまず、りゅーちゃんをちゃんと面倒見てあげないとと思う」
りゅーちゃんはご機嫌で塗り絵をしている。
『今日月曜か?』
「月曜」
『お前仕事だろ、ワシ面倒見とくよ』
「でもまだ千歳疲れてるだろ?」
和束ハルの件の時、数日は寝たり起きたりだったし。
しかし、千歳には考えがあるようだった。
『りゅーちゃんとアホほど遊んで疲れさせて、それから2人でガッツリ昼寝する』
「なるほど……」
『さすがに飯は作れないけど、白米だけたくさん炊いといてくれれば、おかずになるようなものは買い込んであるから。しばらく寝るなって分かってたし』
「わかった」
千歳の事前準備がありがたい。ありがたく使わせてもらって、足りなければUberでも何でも頼ろう。
千歳はりゅーちゃんに抱きついた。
『りゅーちゃん、ワシと遊ぼう!』
「きゃー!」
りゅーちゃんは喜んで千歳に抱きついた。千歳に任せとけば大丈夫だな、小さい子の世話うまいし。
俺はとりあえず食器を洗い、お米を研いで、炊飯器にセットしてお昼に炊き上がるよう予約しておいた。
『2階で仕事しとけよ、しばらくうるさくするから』
「ありがとう」
そういう訳で、俺は仕事用パソコンを2階の自分の部屋に持ち込んで仕事を始めた。千歳が動けなくなった時のためにドアは開けておいたんだけど、千歳とりゅーちゃんの笑い声が響いてきて、こんな喧騒はいいもんだなと感じた。
萌木さんとのリモート打ち合わせがあったのだが、萌木さんは耳ざとくりゅーちゃんの声を聞きつけた。
「あれ、小さい子いる?」
さすが子持ち。
「あ、います、うるさくてすみません」
「えーどうしたの? 遊びに来てるの?」
「ちょっと、2歳くらいの子をしばらく預かることになって」
「2歳! かわいい盛りじゃん!」
俺は苦笑した。
「そうですね、かわいいです」
手はかかるし大変だが、あのあどけない瞳に見つめられて面倒を見ると決めてしまった。子供のかわいさ、理屈じゃない。
その後も集中し、頑張って午前の仕事を終えて、りゅーちゃんにお昼を食べさせようと下に降りる。1階では、千歳が四つんばいになって背中にりゅーちゃんを乗せて遊んでやっていた。
『ほーら、お馬さん走るぞー!』
「きゃー!」
あまりにほのぼのした光景で、俺は思わず笑ってしまった。
「いいな! 写真撮っていい?」
『どんどこ撮れ、でも昼メシ頼む』
「おっけーおっけー」
笑顔の2人を何枚か撮り、お昼の支度。お米が炊けてるから、サバの味噌煮缶を開けて、大根の糠漬けを切って、後は千歳の作り置きの五目豆を温めて。
「ご飯だよ」と2人を呼ぶ。
『いやー助かった、腹減った』
「かぼたたべゆ!」
「かぼちゃのお味噌汁はないけど、おいしいお豆とサバがあるからね」
適当に食器を並べて、炊飯器のお釜ごとお米をだし、りゅーちゃんに子供用スプーンを握らせる。りゅーちゃんは五目豆が気に入ったらしく、こぼしつつもよく食べていた。
「おいち!」
「よかったよかった」
そうやってりゅーちゃんの食事の面倒を見ていたら、千歳に言われた。
『ワシが食事の面倒見るから、お前は食うのに集中しろ』
「でも千歳疲れてるだろ?」
『お前なんかあるとすぐ食わなくなるじゃないか! やせちゃうだろ! ワシはほっといてもたくさん食うんだから!』
「そ、そう?」
確かに昨日は、りゅーちゃんの食事の面倒見るのにいっぱいいっぱいで自分の食事をろくに食べてない。反省……。
『夕飯分も米炊いといてくれ、いっぱい食べたい』
「わかった」
そういう訳で俺は自分の食事を摂るのに集中し、千歳はりゅーちゃんに食べさせ終わった後、稀に見る早食いで炊飯器のお釜を空にした。俺が食器を洗ってお米を研いでる間に千歳はりゅーちゃんに手と口を洗わせに行き、その足で寝室に連れて行った。
『お昼寝しようなー、お昼寝。ワシと一緒にねんねしよ』
「ねむねむごろん?」
『そうそう、ねむねむだからごろんしような』
俺は寝室をのぞいたが、千歳はりゅーちゃんを抱いて力尽き寝、りゅーちゃんは「ちーちゃん?」と千歳をいじっていたが、横になって眠くなったのか、千歳にくっついてすやすやし始めた。よしよし、これでしばらく大人しいぞ。
2階に行って仕事に戻って、なるべく長い間寝ててくれと念じつつ急いで仕事を進める。1階から「おじちゃん! おじちゃん!」と声がしたのは、ちょうどおやつ時だった。俺は慌てて1階に降りた。
「どうしたのどうしたの」
りゅーちゃんは階段の下にいて「ちーちゃんねんねのまんまなの!」と騒いだ。
「あー、ちーちゃんは疲れてるからね……おやつにしようか、お菓子食べよう」
寝室をのぞいたところ、千歳は本気寝している。俺はりゅーちゃんにビスコと牛乳をあげ、りゅーちゃんが食べている間に俺も適当に食パンを口に詰め込んでおいた。食べとかないと千歳に怒られる。
りゅーちゃんは牛乳を飲み干し、ぷはーっと息を付いて、それから俺に言った。
「おじちゃん、てえびみゆ」
「テレビ? ごめんね、うちにはテレビないんだよ」
「てえび……ない……!?」
りゅーちゃんは愕然とし、ついで騒ぎ出した。
「おかあしゃんといっちょは!? みいちゅけたは!?」
「ごめんごめん! なんとかするから!」
そうか、これくらいの子にとって幼児番組の存在はデカすぎるぞ!
「いまみゆー!」
りゅーちゃんが手足をバタバタさせて大泣きしだしたので俺はあせった。
「待って待ってちょっと待って! 見られるか調べるから!」
子供向け番組見せたほうが教育にいいと思うし、大人しくしててくれるし、テレビ買ってもいいかも。
りゅーちゃんをあやしつつスマホで調べてみて、NHK契約はネットでできて、契約したらNHK ONEアプリでEテレの配信が見られるとのことで、俺はさっさと契約してしまった。
「おかあしゃんといっちょみゆのー!」
「もうちょっとで見られるからねー! ちょっとだけ待ってねー!」
俺のタブレットにNHKアプリをインストール、ログインしてやっと配信が見られる状態になった。おかあさんといっしょを流し、ぐすぐすいうりゅーちゃんに見せてあやしていると、千歳が起きてきた。
『あー……悪い……』
「いいからいいから。千歳もおやつ食べたら?」
『うん、後はワシが見るから』
「そう? 俺仕事戻っても平気?」
『うん、仕事頑張れ』
少し心配ながら、俺は2階に戻った。仕事できるうちにと急いで仕事を進め、下の台所から炊飯器の炊き上がりの音楽が聞こえて我に返った。りゅーちゃんと千歳にご飯食べさせないと。
下に降りると、りゅーちゃんはお絵かき中で、千歳は台所で何か作っていた。
「あれ? 大丈夫なの?」
『まだ眠いけど、チビ用にかぼちゃの煮物とチーズオムレツと野菜スープ作り置き……明日分くらいまではあるだろ』
千歳は大あくびした。
『しっかし、大人しい子で助かる』
「えっ、大人しいの?」
さっきあんなに騒いだのに?
千歳は何でもない顔で言った。
『だってイヤイヤ言わないし、たいして癇癪起こさないし、好き嫌いないし、お絵描きしてれば大人しいし。相当育てやすい』
「そうか……これで育てやすい方なんだ……」
子育てって、大変なんだな……。
りゅーちゃんはかぼちゃの煮物とチーズオムレツ、俺たちはイワシの缶詰と作り置きの切り干し大根の煮物で夕飯。千歳がりゅーちゃんにオムレツを食べさせつつ言った。
『ワシ二三日こんなかも、仕事平気か?』
「なんとかなるなる、夕飯の後も仕事あるけど」
りゅーちゃんは、食べ終わった後、どんぶりご飯をかっこむ千歳に抱きついた。
「おふろであしょぼ!」
『え、ワシ!? わ、ワシはその……』
千歳は困った顔で俺を見た。
『ど、どうしよ、今の姿だと……疲れててあんまり姿変えたくないんだ……』
そう、千歳は朝霧の忌み子の裸を見られるのが嫌なのである。俺は千歳を安心させようと言った。
「お風呂入れとく入れとく、入れて寝かしつけとく、仕事その後でも大丈夫だから」
『悪い……』
「平気平気、ゆっくり食べてな。先にお風呂入れちゃう、お皿その後で洗うからゆっくり食べてて」
俺はりゅーちゃんを抱き上げた。
「おじちゃんとお風呂入ろ! レゴのぶっぶー持っていこうか!」
「ぶっぶー!」
りゅーちゃんははしゃぎ、俺はおもちゃボックスまでりゅーちゃんを連れて行って、レゴを好きに拾わせてお風呂まで連れて行った。頭と体を洗ってやって、湯船に浸けて10数えて、おむつ履かせて服着せて、麦茶飲ませて、歯を磨いてあげて。
「ねんねしようね、絵本読んであげるからね」
「ねむねむごろんよんで!」
「はいはい、ねむねむごろんしようねー」
食べ終わったらしい千歳は、また大あくびした。
『ワシ、シャワーだけ浴びて寝る……』
「わかった、後の始末はしとくから」
りゅーちゃんを布団に入れて、タブレットで絵本を読んで寝かしつける。千歳はその間にお風呂に行き、すぐ戻ってきて布団に墜落寝した。りゅーちゃんが完全に寝たのを見計らって、俺は布団から出た。
やれやれ、食器洗わなきゃ。まだ片付けなきゃいけない仕事もあるし……。でも、千歳と二人なら、りゅーちゃんの面倒見つつ仕事するのは何とかなりそうだ。
急いで仕事を終わらせたあと、俺はヨドバシでテレビを選んで注文した。りゅーちゃんの面倒見るのに使えるものは、何でも使わなきゃな。




